Text by 川浦慧
Text by 稲垣貴俊
いまや日本でも、ありとあらゆる海外ドラマを容易に見られるようになった。配信プラットフォームの発達によって、テレビしか選択肢のなかった時代には日本に入ってこなかったような作品も多数リリースされているのだ。しかしその一方、作品数が多すぎて、どのシリーズを見ていいのかわからないという贅沢な悩みが生じることもある。
そんななか1990年代から海外ドラマのラインナップに力を入れてきたWOWOWは、とりわけハイクオリティのサスペンスを数多く放送してきたことでおなじみ。世界各国の多種多様な「サスペンス」から確実な作品をセレクトしてきた選球眼は、現在に至るまで海外ドラマファンの大きな信頼を受けている。
今回はそんなWOWOWの放送・配信作品から、特におすすめの海外サスペンスを6本ご紹介する。特にあえていまおすすめするのが、アメリカの人気ドラマ『クリミナル・マインド/FBI vs. 異常犯罪』。アメリカ連邦捜査局、FBIの敏腕プロファイラーたちが毎回難事件に挑む1話完結のストーリーで、2005年から2020年まで15シーズンが放送され、シリーズはひとまず完結したが、2022年には早くも復活を果たした。
©2005 Paramount International
WOWOWはこの人気シリーズに日本ではじめて目をつけ、2007年に日本での放送を開始。まだ『CSI:犯罪捜査官』が人気を博していたころ、当時の担当者が「絶対に放送すべき」という強い意志で実現に漕ぎつけたという。
長寿作品ゆえにいまから見るのは大変だと思われるかもしれないが、心配はない。WOWOWが長年プッシュしつづけ、そして日本のドラマファンに長年愛されてきた本作には、それにふさわしいだけの理由があるのだ。
©2006 Paramount International
FBIに実在する機関・BAUとは、「Behavioral Analysis Unit」、すなわち「行動分析課」のこと。所属しているのは天才プロファイラーにアナリスト、言語学や心理学などの専門家など、いずれもその道のエキスパートたちだ。彼らはアメリカ各地で発生した凶悪事件・怪事件の犯人を捕まえるべく、プロファイリングを駆使して犯人像を推測し、次の悲劇を防ぐため動き出す……。
プロファイリングをテーマとした名作といえば、映画『羊たちの沈黙』(1990年)やドラマ『マインドハンター』(2017年~2019年)を思い出す方も多いだろう。しかし、『クリミナル・マインド』の魅力はそのどちらとも違う。WOWOWの担当者も「わかりやすい勧善懲悪のサスペンスでありつつ、暗い事件のあとに個性あふれる捜査官の人間関係が描かれるのがたまらない」と語るように、シンプルな構成とダークなストーリー、温かみのある人物描写のバランスがポイントだ。
©2006 Paramount International
また長寿シリーズではあるが、基本は1話完結のサスペンスドラマなので、シーズンやエピソードを選ばずとも物語の世界に入り込みやすい。身の毛もよだつ恐ろしい事件をめぐる、ひねりの効いた緻密な脚本、細部まで力の入った演出、BAUの面々を演じる俳優陣の豊かなアンサンブルをすぐに堪能できるだろう。容赦ない映像表現、現実の社会問題にも通じる深みのあるテーマ、登場人物たちが織りなす濃密な人間ドラマに惹きつけられる。
なによりも、優れたサスペンスは魅力的な犯人なくして成立しえない。『クリミナル・マインド』に登場するシリアルキラー(連続殺人鬼)はみな個性たっぷりで、彼らを演じるゲスト出演者も豪華だ。現時点で334エピソード、どこから見るべきかと悩んでしまったら、いっそゲストの名前を決め手に選んでしまえばいいのである。
©2005 Paramount International
たとえば特に高い評価を受けているエピソードのひとつが、『スター・ウォーズ』ルーク・スカイウォーカー役で知られるマーク・ハミルが出演したシーズン8の第23・24話。
そのほか、オーブリー・プラザ(シーズン11第11話ほか)やアントン・イェルチン(シーズン2第11話)、ジェームズ・ヴァン・ダー・ビーク(シーズン2第14・15話)、ルーク・ペリー(シーズン4第3話)、ティム・カリー(シーズン5第23話ほか)、アンバー・ハード(シーズン1第18話)といった実力者たちの登場回は、すべてシリーズのファンが一押しする「神回」ばかりだ。
タイトルの『クリミナル・マインド』とは「犯罪者心理」の意。本作が長年支持されてきた理由は、題名の通り、犯罪者が凶行にいたった心理を丁寧に掘り下げる人物探究の鋭さにある。その視線は犯罪者だけでなく、ときに被害者やBAUのメンバーにも向けられ、人々の怒りや悲しみ、孤独やトラウマ、あるいは異常性といった内面が克明に浮かび上がるのだ。
プロファイリングを扱いながらも、科学やデータだけでなく人間くさい直感や経験がカギを握ることもあるように、作品の根底には人間存在と倫理に対するストレートなまなざしが横たわる。
©2006 Paramount International
もちろん、本作の特異性が全16シーズン(現時点)という長さにあることもたしかだ。映画よりもはるかに長い時間をかけてキャラクターの成長や変化を描けることはドラマシリーズの特権だが、『クリミナル・マインド』は17年という年月を費やし、しばしば出演者=チームメンバーを編成しなおしながら物語を更新してきた。シーズン15でいったん完結を迎えたあとも、2022年製作のシーズン16(副題「エボリューション」)では、従来のテイストと物語を深化させるだけでなく、新たな切り口を取り入れて高評価をつかんだのである。
すでに『クリミナル・マインド』はシーズン17の製作も決定しており、この長い物語はまだ終わりそうにない。もっとも、本作はWOWOW社内でも「ここまで視聴者からの反響が大きくなるとは想像しなかった」というロングランシリーズ。まずは焦ることなく、どれかひとつのエピソードでその魅力を感じてから、あとでゆっくりと物語の世界に浸ってみることをおすすめしたい。
©2005 Paramount International
WOWOWでは、本作のほかにも世界各国から充実のサスペンスドラマを多数放送・配信中。絶対に見逃せない名作・注目作をピックアップしたので、そちらもあわせてチェックしてほしい。WOWOWでは特集ページも展開中だ。
©1990 ViacomCBS
『マルホランド・ドライブ』(2001年)や『ブルーベルベット』(1986年)などの鬼才監督デヴィッド・リンチが、1990年~1991年に手がけた伝説的ミステリードラマ(全30話)。全世界で社会現象的ヒットとなり、日本では1991年にWOWOWが初放送した。
カナダの町ツインピークスで女子高生のローラ・パーマーが殺害された。FBI捜査官のデイル・クーパーは地元の保安官ハリー・トルーマンと捜査に臨むが、その町では人々の秘密が渦巻き、謎が謎を呼ぶなか、ついには超常現象が発生する……。
先の読めないストーリー、美しい映像と精密な演出が視聴者を熱狂させ、いまもなお多くのクリエイターや作品に影響を与えている一作。1992年には映画版『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』が、2017年にはオリジナルシリーズの25年後を描くリミテッドイベントシリーズが製作された。
©2006 ViacomCBS
マイアミ市警のデクスター・モーガンは、血痕を分析することで犯行の様子を推理できる優秀な鑑識官。しかし、彼にはもうひとつの顔があった。幼少期から殺人の衝動を抑えきれないデクスターは、法で裁けなかった凶悪犯を狙い、夜は「殺しの掟」にしたがって次々と殺人に手を染めるのだ。
「主人公が警察官であり殺人鬼」というユニークな設定の本作は、2006年から2013年まで全8シーズン96話が製作された。緊張感あふれるアンチヒーローサスペンスであり、絶妙なユーモアセンスもあいまって批評家・視聴者の高評価を獲得。『エミー賞』や『ゴールデングローブ賞』などでも、主演のマイケル・C・ホールらが複数の部門で受賞・ノミネートされた。2021年からは続編『デクスター:ニュー・ブラッド』が製作されており、スピンオフ企画も進行中である。
© Lynda La Plante Productions 2010
新米女性刑事アナ・トラヴィスは、初めて殺人事件の捜査に参加した。若い女学生の腐乱遺体が発見されたのだ。捜査過程では、8年前にドラッグ依存症や娼婦の女性ばかりを6人狙った連続殺人事件が再び浮上する。今回の事件は、当時の犯人による7番目の犯行かもしれないのだ。男社会の中で自分の力を証明したいアナは懸命に真相を追うが、そこに思わぬ容疑者が現れ……。
2009年放送、イギリス発のサスペンス・ミステリーをWOWOWが日本初放送(2012年までの全4シーズンがすべて放送された)。『クリミナル・マインド』の担当者が「いま見ても色褪せないサスペンス。どうしても放送したかった、特に深い思い入れがある作品」と語るもうひとつのシリーズで、日本語吹替版は『クリミナル・マインド』と同じ演出家・脚本家・スタッフが担当。クオリティはお墨付きだ。
©BBC/Hartswood Films Ltd/Sam Barker/Rufina Breskin
イギリスの「サスペンスの新女王」こと推理作家モー・ヘイダーの小説『孤狼』をドラマ化、WOWOWが日本初放送したサスペンス。5年前の猟奇殺人事件のトラウマに苦しむアンカー・フェラーズ一家の屋敷に、警官を名乗る男ふたりが現れて一家を監禁する。かたやロンドンのキャフェリー刑事は、幼い頃に失踪した兄の事件をひとり捜査していたところ、アンカー・フェラーズ一家の愛犬と遭遇して屋敷の異変を悟る……。
2023年7月にイギリスで放送されるや、両者の物語がひとつに繋がってゆく巧みなプロットと俳優陣の演技が評価された。WOWOWの担当者も「間違いなく新鮮なインパクトを与えるはず、絶対に放送したい」と自信をにじませる。「英国ドラマらしい丁寧な会話劇をシチュエーションホラーの不気味さで覆う、良い意味での『異質さ』に心を掴まれました」と言う。
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2010年、イギリスで数々のテレビ賞に輝いた法廷アンソロジードラマを、『24-TWENTY FOUR-』や『HOMELAND』を手がけた名プロデューサー&脚本家のハワード・ゴードンがリメイク。2023年1月から米FOXにて放送中の最新ドラマが、早くもWOWOWで日本初上陸となった。
ごく普通の人生を生きてきた人々は、なぜ法廷で裁かれることになったのか? 毎回異なる被告人を主人公に、彼らが法廷に立つまでの経緯を描き出す1話完結のサスペンス。さまざまな事件に人種差別や性暴力、虐待、陰謀論といった現代社会の問題が絡みつく、シリアスでエモーショナルなストーリーが見どころだ。マイケル・チクリスやミーガン・ブーン、アビゲイル・ブレスリンなど、映画・ドラマファンにはおなじみのキャストにも注目。