アニメ業界は「低収入で長時間労働」というイメージがあるが、実際どうなのか。日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)は3月27日、アニメ業界従事者を対象とした実態調査の結果を発表した。調査は昨年12月から今年1月にかけて行い、323件の有効回答を得た。
労働時間についての項目で、業界全体の71.4%が1日に「8時間以上」、30.4%が「10時間以上」働いていると回答。また、1か月における休日は58.8%が「6日未満」であると答えた。
これらを元にアニメ業界従事者の労働時間を計算したところ、平均が「219時間」、中央値では「225時間」、さらに最大値は「336時間」も働いているという結果になった。日本全体の平均月間労働時間「162.3時間」(厚生労働省 毎月勤労統計調査 2022年)と比較すると、いかに長いかがわかる。
なお、有効回答数を職種別に見ると、最も多かったのはアニメーターで全体の59%、次いで多かったのが演出、制作関係。その後キャラ・メカデザイン、プロップ・衣装デザイン、声優などが続く。
「できるまでやる」という文化が根付いている
職種別に労働時間を調べた結果、「12時間以上」と回答した割合が最も多かったのは音響関係で38%、次いで演出が22%だった。さらにほとんどの職種で30%以上が「10時間以上」と回答した。監督、各種デザイナー、CG、シナリオライターのみが比較的に時間に余裕を持った働き方ができているものの、他の職種では超長時間が常態化している様子がうかがえた。
男女別に労働時間を見ると、男女ともに長時間労働であるが、「12時間以上」働いている割合は女性のほうが多い。特に、絵や映像などを制作する業務においては男女の働き方についての差はあまりなく、「できるまでやる」という文化が根付いているとNAFCAは指摘する。
収入に関しては、全体の37.7%が、アニメ関係からの仕事の平均手取り収入が20万円未満だった。年代別では、20代の13%が「10万円未満」、67%が「20万円未満」と回答。つまり、20代の8割が手取り20万円未満で暮らしているという結果になった。年代が上がるにつれて月収は上がっていくものの、日本の年代別平均年収と比べるとどの年齢層でも明らかに低いとNAFCAは指摘する。一方で男女間での収入差はあまり見られなかった。
年収1000万円超のアニメーターもいるが……
職種別の収入を見ていくと、仕上げとシナリオライターの収入が突出して低く、60%以上が「20万円未満」と回答した。アニメーターや美術も「20万円未満」の割合が、それぞれ43%、45%だった。
一方で、アニメーターは「年収1000万円を超える」との回答も11%存在し、腕次第では稼げるようだ。その証拠に、アニメーターのキャリアアップ先と言われるキャラクター、メカデザインやプロップ、衣装デザインでは手取り「70万円以上」との回答が約15%にのぼった。
また、超長時間労働で収入も全体的に高いとは言えない演出も、監督になると半数以上が「50万円以上」であると回答し、キャリアアップが収入に結びつく分野もあるようだ。それでもアニメ業界とは別の仕事と比較すると、プロジェクトマネージャーの平均年収は891.5万円であるとの調査結果もあり、アニメ業界全体の賃金が低く抑えられているとNAFCAは見ている。
アニメ業界は低賃金に加え、過酷な労働環境も問題になっている。「ハラスメントを受けたことがある」と回答した人は65.8%、「ハラスメントを見聞きしたことがある」と回答した人は85.6%にのぼった。これも社会全体と比べるとアニメ業界でのハラスメントはやや多いとNAFCAはいう。職種別に見ると、ハラスメントを受けた経験が最も多かったのは制作関係者だった。男女別では、セクシャルハラスメント以外では男性の方が多かった。
それでも7割が「今後もアニメ業界で働きたい」
アニメ業界にはフリーランスが多いイメージもあるのではないだろうか。雇用形態を聞いたところ、「正社員、契約社員あるいはアルバイト」と回答した割合は全体では32%だが、制作関係、美術、CGでは80%を超えた。一方でほかの職種では80%程度かそれ以上が「フリーランス」と回答しており、特定の職種以外はフリーランスがほとんどを占める業界だということが裏付けられた。
一連の調査から、アニメ業界は依然としてイメージ通り、低収入で長時間労働という過酷な環境下に置かれていることがわかった。しかしアニメ業界従事者の「アニメへの愛」が強いということも、同時に明らかになった。「今後もアニメ業界で働きたいと思いますか」の問いには71.8%が「そう思う」「強くそう思う」と回答し、「あまりそう思わない」「そう思わない」は5.5%だった。