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交際女性に捜査情報漏らす、元警察官に有罪判決…大阪地裁 「私は更生して欲しかっただけ」と弁明

2024年03月19日 11:40  弁護士ドットコム

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大阪地裁は2024年3月19日、地方公務員法違反で起訴された40代の男性に対して、懲役1年・執行猶予3年(求刑:懲役1年)の判決を下した。


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被告人は、大阪府警に25年間勤務していた警察官だった。起訴状などによると被告人は当時交際していた女性(以下、A)に対して、違法薬物の捜査情報などを3件伝えた疑いで起訴されていた。現職の警察官による事件ということで大きく報道されていた。



公判を通じて、被告人は行為そのものは認めているものの「情報は秘匿するほどの内容にあたらない」と無罪を主張していた。判決前の最終陳述でも「私は更生して欲しかっただけで、人として間違っていないと今でも思っている」と陳述していた。(裁判ライター・普通)



●「なんかね私、チンコロ(密告)されているんです」

検察側の冒頭陳述によると、Aはかつて違法薬物関与の嫌疑がかけられていた際、被告人から取調べを受けていた。その際、連絡先を交換し、保釈後には連絡を取り合うようになり、男女の関係にもなった。被告人からAに金銭を貸すこともあった。そのような関係性の中で、より気を引くために捜査情報を漏洩したという主張だ。



一方、弁護側の主張は大きく検察と異なる。男女の関係があったことを認め、一定の情報を伝えたのは間違いないものの、決して一方的な好意から気を引くためではなく、薬物使用歴があるAを更生させるために周囲の関係者に近づかないために伝えた。また、情報は漠然としたものであり、地方公務員法に定める秘匿が求められるものとは違うと主張した。



裁判で証拠採用された被告人とAとのやりとりは以下のようなものだ。



(1)被告人とAのLINE
「俺はガサ入れ(捜索)行かなあかん」、「令状さっき出た」、「住所は〇丁目…」



(2)被告人とAとの録音されていた会話の反訳
「B(違法薬物等関係者)って(刑務所)出てから会ってるの?」、「内偵入ってんねん」、「売人と接触しとって」



(3)Aと知人女性との録音された会話の反訳
A「なんかね私、チンコロ(密告)されているんです」 知人「それって警察が教えてくれたん?」 A「そうっすよ」



●「“投げ”があった」警察独自の用語のため残っていた記憶

検察側の証人としてAが出廷した。Aはこの事件以後に、再度の違法薬物の関与により身柄拘束を受けていた。Aは記憶に自信がないような様子を見せながらも、少しずつ言葉を振り絞るように答えていた。



・(1)について



検察官「被告人の仕事内容を聞くことなどありましたか?」A「はい」検察官「具体的にどのような?」A「『これからガサ行く』とかですかね」検察官「住所はどういう流れで聞いたんですか?」A「なんか話の流れで『そこ(ガサ入れ先)家の近くやん、どこ?』ってなって。私は『でも、やっぱえぇわ』と言ったんですが、送られてきて」



Aはこの情報を、当時も周囲に違法薬物に関わりがある人物がいたことから「教えた方がいいかな」などという思いで他者に教えてしまったという。具体的な宛先は「誰が聞いているか分からず、恐い」として証言を拒否した。



・(2)について



大阪府警が他県と合同で所在確認を進められていたB。かつてAはBとの関わりがあり、報復の恐れもあった。身を案じるのと、二度と薬物に関わらないためにBに接触しないよう、捜査状況を聞くことがあった。



・(3)について



検察側は、Aが密告されているとの情報を被告人がAに知らせていたことも主張した。



検察官「どんな内容でしたか」A「私が、売人をしているって”投げ”があったって」検察官「被告人の言う”投げ”って意味はわかりましたか?」A「わからないので聞いたら、匿名で通報があったという意味と知りました」



被告人は「言ったか覚えていない」と主張した。しかし検察は、Aが普段使わない”投げ”という表現を覚えていることから、被告人が伝えたことが明らかであるという主張に繋げたのだ。



●「『私は薬物を辞めたい』と言ったのを信じたのに残念な思いです」

弁護人からの被告人質問では改めて無罪を主張した。Aとの関係も、連絡先を伝えてきたのはAからであり、交際開始時も「まっとうになるならいいよ」ということで了承したもので、一方的に思いを募らせた上での行為でないことを主張。



伝えた情報については、騒動があるとの通報があった上で伝えたものや通報された内容を確かめるためのものであって、秘匿性がないとも主張した。



Aへの思いを聞かれて「前刑のとき『私は薬物を辞めたい』と言ったのを信じたのに残念な思いです」と声のトーンを落として答えた被告人。今回の事件で、20年以上勤務を続け、家族からも天職と呼ばれていた警察を依願退職することとなった。



被告人による最終陳述では「検察官の主張もわかるが、私は更生して欲しかっただけで、人として間違っていないと今でも思っている」と陳述していた。



しかし、判決は、被告人側の主張を退け、懲役1年・執行猶予3年の有罪判決を下した。理由については以下のように説明した。



職務上知り得た秘密というのは、一般には出ていない非公知の事項であり、今回も広く知られることで各事件の関係者の名誉を侵害し、捜査に支障がある恐れがあった。警察、行政の信頼が揺らぐのは明らかであった。また、交際相手の身を案じる意図はあったとは言え、警察組織内において、交際相手が嫌疑をかけられていることを知られるのを防ぐ自己保身目的もあったと認められ、その刑事責任は軽微とは言えないとされた。