2024年03月19日 10:00 弁護士ドットコム
実業家の堀江貴文さんや経済アナリストの森永卓郎さんなど、有名人が投資を推奨しているように見せかけた「ニセの投資広告」がSNS上で広がっている。実際に、高齢男性が数千万円をだまし取られる詐欺被害にあったという事件も報じられている。
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投資ブームの加熱に伴って、SNSの投資詐欺も活況を見せているといいかもしれない。元検事で、投資詐欺やそれに伴う口座凍結にくわしい西山晴基弁護士によると、だまし取られた金は"資金洗浄"されるため、ほとんど返ってこないという。西山弁護士に資金洗浄の手口の一端を解説してもらった。
ニセの投資広告などを使って誘い込んだ被害者にお金を振り込ませる際、詐欺グループは、自分たちの預貯金口座を使うことはまずありません。自分たちの口座に振り込ませれば、すぐに足がついてしまうからです。
そのため、詐欺グループは「口座売買屋」から入手した他人の口座に振り込ませたうえで、そのお金を「闇バイト」で募った多くの人たちを利用して、最終的に自分たちのもとに運ばせてくるわけです。
ただ、だまし取ったお金を自分たちのもとに持ってくる手段はこれだけではありません。詐欺グループは、だまして振り込ませたお金を、さらに別の名目でだました人を利用して、複数の口座に転々流通させたうえで、最終的に自分のもとに持ってきます。
お金には色がないため、さまざまなところに流れて混ざりこむと、何のお金だったか判別しにくくなります。詐欺グループは、だまし取ったお金を捜査機関からはく奪されないように、お金をどんどん流していき、何のお金かわかりにくくしています。
このように犯罪で得たお金をキレイなお金に見せかける行為が、マネーロンダリング(資金洗浄)と呼ばれています。
預貯金口座にお金を流しまくるためには、たくさんの預貯金口座が必要です。そのため、詐欺グループは、キレイなお金の名目を装って、多くの人たちをだまして、送金に利用しています。
典型例は「お金配り」です。SNSで「お金あげます」という投稿を見たことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、ほとんどがウソと言ってよいでしょう。
お金配りには、「お金を振り込むからキャッシュカードを送って」というパターンだけではなく、「指定の口座にお金を振り込んであげるから」と言ったうえで「その一部を別の口座に振り込んで」とか「指定の場所まで持っていて」などというパターンもあります。
今年に入ってからも、「お金配り」の逮捕事例もいくつか報道されています。
さらに、コロナ禍から増えたのが、「副業」名目の詐欺です。
たとえば、Instagramなどで流れてくるニセ広告をクリックすると、LINEに誘導されて、副業をうたった作業の説明がされます。まず芸能人やインフルエンサーなどのアカウントを「イイネ」や「フォロー」するという作業が多いです。「イイネ」や「フォロー」をするだけであれば、誰でもできるので、手軽に始めてしまう人も少なくありません。
そのあと、指定されたサイトやアプリで「報酬受取り用アカウント」を開設すると、そのアカウントに報酬金額が反映されます。
この報酬が現金でもらえなければ、これ以上関わらないと思いますが、中には、実際にそのアカウントから預貯金口座への出金ができるものもあります。作業の結果として、実際に報酬がもらえてしまうと、「ちゃんとした副業だ」と思い込んでしまうのです。
魔の手はその先にあり、今度は、「報酬受け取り用アカウントに入金をするとお金が増える」「入金しないと、これまでの報酬が減ったり、違約金が発生したりする」などという話をされるようになります。
これらの入金先の口座や出金元の口座は、当然、名前を知らない個人の口座が使われているわけです。
そして、最終的には、自分が入金先や出金元の役割をさせられる羽目になり、自分の口座に、名前の知らない複数の人たちから入金がされて、そこから指定された口座に送金することをさせられるようになります。
こうしたお金の中には詐欺の被害金が紛れ込んでいるため、いずれ被害者から被害申告を受けた警察や弁護士による口座凍結要請がなされて、口座凍結されることになります。
さらに、突然、Instagramなどで「有名人をかたるアカウント」からDMが送られてきて、お金の送金役に利用されてしまう人も増えています。
たとえば、「あなたに会いたいが、会うにはお金がかかる」とか「新しい仕事をするのに資金がいる」などと、お金が必要である旨の話をされたうえで、「投資で運用してお金を作りたいが、事務所との関係で自分ではできない」「最初の資金は出すので、代わりに投資をして増やしてほしい」などとよくわからない話をされて、安易に自分の口座情報を伝えてしまった結果、名前の知らない個人の口座からお金が入金されるようになり、そのお金を指定された預貯金口座や仮装通貨の口座に送金させられるというパターンです。
この場合も、自分の口座が、投資詐欺の被害金の振込先やその先の流通用口座として使われていることがほとんどですので、いずれ被害者から被害申告を受けた警察や弁護士による口座凍結要請がなされ、口座凍結されることになります。
これまで見てきたように、お金の送金役を担ってしまうと、ほぼその預貯金口座は凍結されます。とはいえ、口座凍結されたからといって、被害者にお金が戻されるわけでもありません。
たしかに、振込詐欺救済法により、口座凍結された預貯金口座内のお金を被害者に分配する救済制度はあります。しかし、今見てきたように、多くの場合は、振り込まれた被害金はどんどん別の預貯金口座に流されていってしまうため、凍結された口座にお金はもはや残っていません。
そのため、口座凍結が頻発している一方で、詐欺被害の救済にはなかなか繋がらない事態に陥っています。
新たな解決策が必要であることは言うまでもありませんが、まずは、私たち一人ひとりが、世の中で実際に詐欺被害が起きていることを知り、自分自身や自分の家族が被害者にならないように、そして、詐欺グループに送金役として利用されないように気を付けていく必要もあるでしょう。
【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/