忙しい都会人の中には「田舎暮らし」に憧れる人が増えているが、とある中国地方の田舎に、これぞ「真のゆるふわ田舎生活」といわんばかりの暮らしぶりを実現している30代男性がいた。なんと、週末に散歩するだけで、月5万円ものお小遣いがゲットできているのだという。
「一度は都会で暮らしていたので、コンビニまでクルマじゃないといけないのは不便ですが、まあ特に生活に不満はありません」
という男性に、何をしているのか聞いてみた。(取材・文:昼間たかし)
とことん「やる気ない人生」
男性が住んでいるのはそこそこの田舎である。最寄り駅までは徒歩30分で、そこに来るのは電車ではなく「汽車(ディーゼル気動車)」。本数も1時間に1本ぐらいだ。
彼は人生の長い期間を「やる気ゼロ」で過ごしてきた。「植物みたいに暮らしたい」が口癖だったぐらいだ。高校にはちゃんと通ったが、進学先の関西地方の私大を2年で中退、その後も10年以上職を転々としてきた。
「工場で期間工が多かったです。住むところと食べるところに困りませんから。三交代で働いて、無趣味なので、休みの日は漫然とパチンコしたり、漫画喫茶へ行くような生活でした」
ちなみに漫画にはかなり詳しい。「読んでいるだけで時間が過ぎていく」ので、ジャンルと問わず読み耽っていたそうだ。
ところが2021年、彼はそんな生活に終止符を打って実家に帰った。
「コロナで業績が悪化して契約が途切れたので、仕方なく戻りました。親不孝しかしてなかったんですが、家に入れてくれてホッとしました」
以来、父親の紹介で鉄工所に勤務し、月収は17万円ほどである。
「実家なのでお金は貯まる……というか、もともと物欲も少ないんです。それよりも、土日が休みってのが、めちゃくちゃ新鮮に感じました。なんか、こう……ちょっとワンランク成長したみたいな気が」
その土日の日課となったのが、「近所の散歩」だった。なんともほのぼのとした話だが、なんとこれが「稼ぎ」につながるのだから、人生はおもしろい。
「それで、子供の頃から知っている近所のおじさん……今はおじいさんとも再会したんですけど、ある時、犬の散歩を頼まれたんです。“もう、犬が元気すぎて、よういかん(できない)”というんです。それで5歳くらいの秋田犬を連れて散歩しました」
2時間あまり歩いた男性が戻ると、おじいさんは「来週か再来週くらいに、また頼むよ」とポチ袋を渡してきたという。中身は5000円だった。「これで何回か散歩して一回1000円くらいかな」と思った男性だが、翌週散歩を終えると、また5000円が。
「さすがに貰いすぎなので、隔週でいくようにしました。すると、なぜかほかの家からも“うちの犬の散歩も頼む”と来る人がでてきたんです。確かに、子供の時は犬好きだったんですけど、今も犬に好かれているんでしょうか」
現在、男性は土日の朝晩、それぞれ2時間ほどずつ犬の散歩を引き受けている。一週間に4軒分だ。ちなみに頼んでくる家は現在、8軒ほど。だいたい貰える「お小遣い」の額は3000~5000円の範囲。ちなみに、散歩の後には1時間超の世間話をする時間もある。
「歩いているだけでお金を貰えるので、額は気にしていません。もっとも多い月で5万円を超えたことがあります。漫画喫茶が遠いので、このお金で漫画を買って読んでます」
勤務先の鉄工所も、土日が休みなのは当たり前で時間は、朝は多少早くいくのが不文律だが、終わりは定時ぴったりのホワイトな職場だ。
「このサイクルのまま、人生が続いていけばいいなと思っています」
とはいえ、田舎だと、人間関係のプレッシャーもあるのでは?
「町内に離婚して戻ってきたシングルマザーが2人ほどいて、世間話で“どうだ?”と言われたりします……」
田舎ぐらしも、気楽だけではない、ということか。