保護猫と里親の出会いの場である譲渡会では、人懐っこい猫のほうが家族に迎えられやすい。人馴れしていない猫は一般には敬遠されがちだが、そんな猫たちに特化した「シャーシャー猫だけの譲渡会」が2月に都内で開催された。
開催したのは保護猫カフェ「ねこかつ」(埼玉県川越市)だ。同団体は川越店と大宮日進店の2店舗で保護猫カフェを運営しながら、譲渡会を行っている。代表の梅田達也さんによると、年間で500匹ほどを譲渡しているそう。そんな団体でも、シャーシャー猫の譲渡会は今回が初めての試みだった。
譲渡会に参加したのは、年齢は1歳から6歳くらいまでのシャーシャー猫たち44匹。このうち18匹の譲渡先が決まった。梅田さんは、
「家族に迎えられやすい仔猫は参加していなかったにもかかわらず、思っていたより圧倒的にたくさんのご縁をいただけました」
と喜びを語った。
猫飼い経験者が名乗りを上げてくれた
シャーシャー猫たちの引き取りを申し出た人たちは全員がすでに猫を飼っていたり、過去に飼っていたという「猫飼いの経験者」だそう。
「シャーシャー猫たちが馴れてくれなくてもいいという方や、うちに猫がいるからその子と仲良くしてくれれば、人間に馴れてくれなくてもいいんですという、おおらかな方が申し込んでくださいました」
譲渡のタイミングは少し先になるそうだが、猫の扱いに慣れている里親さんの元ならうまくいくのではないだろうか。梅田さんは、
「猫たちにできるだけストレスを与えないように気をつけながら、年に数回くらいはシャーシャー猫の譲渡会を開いていきたいです」
と話す。シャーシャー猫たちにも希望の光が見えてきたようだ。
沖縄県からもシャーシャー猫を保護
シャーシャー猫の譲渡会を開く背景には、猫たちを保護して飼育する場所が足らないという切実な問題がある。「ねこかつ」では常時200~250匹もの猫を猫カフェやシェルターなどで保護し、基本的には馴らしてから譲渡している。保護団体の中でもかなり多いほうだ。しかし、それだけのキャパシティがあっても余裕はないそうだ。
団体の元には、野良猫の保護の依頼や、動物愛護管理センターで殺処分間近の猫を助けてほしい、といった相談が全国から年中来ている。なかでも大変なのは多頭飼育崩壊のケースで、一度に50、60匹の猫を保護しなければならない。保護できなければ殺処分されてしまうため、時間とのせめぎ合いとなる。
また、「ねこかつ」では沖縄県から現地の保護団体を経由してたくさんの野良猫を受け入れている。梅田さんは、
「沖縄からは、やんばる、本島、南大東島、動物愛護管理センターの猫などを引き取っています。5年間で500~600匹を引き取りました。というのは、沖縄県内で里親さんを探すには限度があります。県外に譲渡するにも金銭的、時間的な負担がボランティアさんにかかります」
と説明する。また、沖縄の野良猫の保護を急がねばならないという、もう一つの理由も語った。
やんばる3村と呼ばれる国頭村、大宜味村及び東村では、ヤンバルクイナなどの希少野生動物の保護のために、森林域にいる野良猫を排除している。さらに、県と環境省らが「沖縄本島北部の生態系の保全等のためのネコ管理・共生行動計画」を策定。このなかで2023年度からの10年間で野良猫をゼロにするという方針を立ており、動物愛護団体から反対の声が上がっている。
「ねこかつ」が保護している沖縄の猫は、前述のとおり、やんばるの猫だけではない。「沖縄は町なかにも野良猫がたくさんいる」と梅田さんは言う。確かに、県の動物愛護管理センターが発表している猫のセンター収容状況を見ると、収容・殺処分されている猫はやんばる3村に限ったことではないことがわかる。
2018年から2022年までの5年間で所有者不明の猫1295匹が収容され、このうち、やんばるの猫は363匹だった。飼い主からの引き取り208匹と負傷した猫1176匹も合わせると、合計で2679匹が収容された。
譲渡された猫もいるが、結局は1596匹が殺処分された。年々、収容・殺処分数ともに減少傾向にあるが、背景には「ねこかつ」をはじめ、沖縄県内外のボランティアの努力がある。
「シャーシャー猫の譲渡会を行うのは、このような猫たちを保護しなければいけないという状況があるからです。保護しなければ猫たちは処分されます。基本的には野良猫は捕獲し、不妊・去勢手術を受けさせてリリースし(TNR)、地域猫として生涯面倒を見るという選択肢もありますが、多頭飼育崩壊の現場や沖縄の一部地域では、保護するか殺処分かという2択しかありません」
と語った梅田さん。猫たちのために何かできることをしたいという人は、次回行われるシャーシャー猫たちの譲渡会にもぜひ足を運んでみてほしい。