2024年03月10日 08:30 弁護士ドットコム
悪質ホスト問題では、多額の売掛(ツケ払い)を抱えた女性が性風俗業に追い込まれる。国内に限らず、ときには海外売春にも及ぶ。あるホストクラブ代表の座に就く看板ホストによる「結婚詐欺」にかかった、ある女性もその道に「堕とされた」と証言する。(ジャーナリスト・富岡悠希)
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西日本出身のマミさん(仮名)は2023年6月、丈の短い花魁風の衣装を身にまとって立っていた。下着はTバックで、足元は高めのヒール。セクシー系コスプレ衣装と違うのは、「日の丸」マークを付けていたことだ。
一目で日本人女性とわかるようにしているのは、周囲の女性と差別化するため。マカオのサウナには、他に60~70人ほどの女性がひしめいていた。
最も多いのはロングドレスの中国人で、ほかに韓国人やベトナム人、タイ人もいた。ひと際目立っていたのは、出身国でミスグランプリを獲得したことをアピールするティアラ姿の女性だった。
男性陣が彼女たちに、ねっとりとした視線を送る。「売り物」「見世物」にされるショータイムは不愉快だが、指名されないと稼げない。
マミさんを気に入った男性が現れると、個室へと移動。そして1時間、マットとベッドで接客する。
マッサージのあと、性行為となるのが通常の流れ。手配時に仲介役から送られてきたラインには、「ゴムあり本番」とあった。しかし、実際には「ノースキン」が当然で、拒否できなかった。
マミさんはピルを服用しているが、性病のリスクと隣り合わせ。さらに相手をする男性と意思疎通できない怖さも抱えた。乱暴な扱いを受けただけでなく、首を締められたこともあった。
終了後にはトイレに駆け込み、中に流れ込んだ体液を出すべく洗浄した。そのたびに思わざるを得なかった。
「私は、何でこんな場所で、こんなことをしているのだろう」
マミさんは昨夏、マカオへ海外売春に出かけた。マカオ国際空港から車で数分のホテルに宿泊。そこに併設されたサウナが仕事場となった。
ホテル自室から出てエレベーターを降りて、午後6時か7時ごろ入店する。それから午前5時ごろまで1時間に1回ほどあるショータイムに出ながら、客を取った。一晩で4、5人を相手にした。
ショーの最中に確認すると、日本人女性が4人いた。おそらく年下の20代。彼女たちの表情は明るく見えたが、本心はわからない。
マミさん自身はショーや接客も含めて、辛い記憶しかない。支給される食事は、中国人向けで口に合わなかった。ある日のメニューは、メインが豚足。白米も日本のレベルとは比べるべくもなかった。1週間ほど滞在したが、観光に出る気にならなかった。
仲介役からは、1人3万円が手取りになると聞いていたが、実際にはわからない。マカオでの稼ぎはすべて、海外売春をすすめてきたホストXの元に向かったからだ。他方、飛行機代約10万円はマミさん自身が負担した。
Xは、新宿・歌舞伎町にあるホストクラブの看板ホストだ。マミさんは彼と2023年1月に店で初めて会い、翌日にカラオケ店の個室で身体の関係を持った。
マミさんは「それなりに恋愛経験がある」と自負しているが、店舗代表をつとめるXは上手だった。「枕営業では?」と心配した彼女に対して、Xは「好きという気持ちがあるからだよ」と返してきた。
ほどなく、マミさんはXと「付き合っているし、結婚できる」と考えるようになった。2023年4月だけで1千万円を使い、彼の望み通りに「売上1位」になるのに協力したのも、こうした要因がある。
Xに貢ぎさえしなければ、マミさんは仕事と貯金で十分に暮らしていけた。しかし、Xが求める金は多額で、次第に支払いに苦労するようになる。
Xは2023年4月下旬から、「海外は安全だし、月800万円は稼げるから行ってきなよ」と言い始めた。「嫌だ怖い」と断ると、Xは「これを頑張れば俺が面倒を見るから」。そして、仲介役となるAの連絡先を教えてきた。
「いつ(海外に)行くの?」「Aに連絡した?」
会うたびに催促してきた。マミさんが煮え切らない態度だと、Xは怒った。手を出すようなことはしないが、モラハラ気味な態度になるのが嫌だった。
根負けしたマミさんは結局、仲介役Aとラインで連絡を取った。電話をしたあと、Aからは「プロフィールフォーマット」や各国の仕事内容などの「詳細」が送られてきた。
フォーマットでは、名前と携帯番号のほか、「スリーサイズ」「ブラカップとアンダー」「NGな仕事」「芸能、モデル、AV女優活動など」の記載を求められた。
海外売春先として提示されたのは、マカオ・台湾・オーストラリア・アメリカなど。
マカオの「詳細」では、プレイ内容が記載されていた。このうち「ゴムあり本番」だけでなく、「60分コースのみで基本抜いたら、お客様は帰ります」も、実際にはウソだった。マミさんが接客した男性たちは、時間いっぱい複数回求めてきた。
「用意するもの」では、「花魁やsexyコスチューム」「15センチぐらいあるヒール」に加え、「ヌーブラや盛りブラ」があった。一方で「ゴムは現地調達」とされた。
マカオに行く前には、東京にあるAの事務所で、面接があった。トップレス姿のマミさんを見て、Aがどのサウナに派遣するかを決めた。
マカオでは、現地の日本人エージェントと日本語ができるスタッフの指示に従った。彼らはサウナでの接客の仕方を伝えるほか、1日2食の食事を持ってきた。
ホストX→日本の仲介役A→マカオのエージェント2人と、海外売春へのルートは完備されている。
「日本人女性を海外売春へと送り出すAさんのやり方は、実に手慣れたものでした。もう何人も手掛けているのでしょうね」
実際に体験してきた、マミさんの感想だ。
マミさんはマカオ売春が終わったあと、性病検査をした。幸いにも何事もなかったが、線の細い彼女が1日で4、5人もの男性の相手をするのは無理がある。
昨秋以降、不正出血が続くようになった。そして、昨年11月下旬、Xとも喧嘩別れした。マミさんは今、Xから「結婚詐欺」にあったと考えている。
体調は万全ではないが、Xのために貯金を失い、日々の生活にも困ることから、国内で性風俗の仕事を続けている。
「これからの人生を立て直せるのか。どうなってしまうか、時に絶望します」
こうした苦境下で一筋の希望は、悪質ホスト問題に取り組む一般社団法人「青少年を守る父母の連絡会」(略称:青母連)とのつながりだ。
マミさんは現在、青母連が手配した弁護士を通じて、X側と交渉中だ。「海外性風俗斡旋、国内性風俗斡旋」の事実を認めさせるほか、「結婚詐欺」で貢いだ金の返還も求めている。