2024年03月09日 09:00 弁護士ドットコム
20代の男子大学生から金を奪おうと脅迫し、ビル屋上から転落死させたとして、大阪府警が3月7日、強盗致死の疑いで、中学2年の少女(14)と中学3年の少年(15)を逮捕した。2024年2月の事件当時13歳だった中学2年の少年(14)については、刑事責任が問えない「触法少年」のため、児童相談所に通告した。
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報道によると、3人は少女との交際関係で大学生に言いがかりをつけて金品をゆする「美人局(つつもたせ)」をしようとしたとみられる。大学生は3人から逃げ、ビルの7階から隣の4階建てビルの屋上に飛び移った後に転落死した。
今回の事件をめぐって、キャスターの辛坊治郎氏が、出演したテレビ番組で、強盗致死罪の法定刑は「死刑または無期懲役」という重大犯罪であることを指摘していたが、今回は本当に成立するのだろうか。また、少年らは今後どのような法的手続きを経ることになるのか。元東京地検の検事で刑事事件にくわしい西山晴基弁護士に聞いた。
──強盗致死罪はどのような場合に成立しますか。また、強盗殺人罪とはどう違うのでしょうか。
強盗致死罪は、強盗犯が人を死亡させたときに成立します。
強盗致死罪と強盗殺人罪の違いは、殺意の有無です。たとえば、強盗犯が被害者に暴行を加えて金品を奪ったところ、当該暴行により被害者を死亡させたとします。
強盗犯が暴行で被害者を殺そうと思っていたり、被害者が死んでしまう可能性があると思っていた場合には殺意が認定され「強盗殺人罪」となります。他方、強盗犯にそこまでの認識があったとはいえない場合には殺意が否定され「強盗致死罪」となります。
──強盗致死罪は「死刑または無期懲役」にしかならないのでしょうか。
法律には確かに「死刑又は無期懲役に処する」と定められています(刑法240条)。
もっとも、実際の裁判では、何らかの減軽事由があれば、30年以下の懲役となることもあります(刑法14条1項、68条1項2号)。
また、犯行時18歳未満の少年は、死刑にすべき場合であっても、無期懲役になります(少年法51条1項)。無期懲役にすべき場合であっても、10~20年の有期懲役にすることができます(少年法51条2項)。
──今回の事件は強盗致死罪が成立するのでしょうか。
大きく2つの点で、強盗致死罪が成立しない可能性があります。
1つ目は、そもそも強盗といえるだけの暴行、脅迫があったといえるかです。強盗には、被害者を反抗できないくらいにするレベルの暴行・脅迫が必要です。
たとえば、少年らが大学生にした行為が、仮に「俺の彼女に手を出しやがって。金をよこせ」と言葉だけで詰め寄ったくらいだったとすれば、強盗には到底ならないでしょう。
今回の事件は、そもそも強盗にならない可能性も否定できません。
2つ目は、強盗致死罪が成立するためには、強盗犯の行為と死亡との間に因果関係が必要です。
先ほど挙げた例のように、強盗犯の金品強取の手段である暴行によって被害者が死亡したというケースなら、強盗犯の行為と死亡との間に因果関係が認められます。
他方で、今回の事件は、現段階の報道の限りでは、少年らが金品を奪うために何をしたのかという点について、脅迫したということ以外の詳細が明らかになっていません。
たとえば、少年らがナイフを示して脅したなどの行為があり、大学生が今すぐ逃げないと殺されるなどと思って飛び移った際に転落したなどの事情があれば、少年らの行為と大学生の死亡との間の因果関係が肯定される余地がありますが、こうした事情すらなければ、強盗致死罪が成立しないことも考えられます。
参考になる判例として、被害者が、被告人の暴行から逃れようとした途中で高速道路に進入したため、車にひかれて死亡したという事案を紹介します(最高裁平成15年7月16日決定)。
最高裁は、高速への進入行為が「それ自体極めて危険な行為である」と指摘した上で、それでもなお「被害者は、被告人らから長時間激しくかつ執ような暴行を受け、極度の恐怖感を抱き、必死に逃走を図る過程で、とっさにそのような行動を選択したものと認められる」としました。
そのため、被害者の行動は「被告人らの暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当であったとはいえない」と判断し、「被害者が高速道路に進入して死亡したのは、被告人らの暴行に起因するものと評価することができる」として因果関係を肯定しました。
今回の被害者が隣のビルへ飛び移った行為自体もかなり危険な行為と評価される可能性はありますが、その上でもなお、少年らとの前後のやりとりや、隣のビル以外の逃げ場所の有無などの事情によって、因果関係の有無が左右されることを示す一例といえます。
──仮に強盗致死罪が成立しない場合、どのような罪の成立が考えられますか。
恐喝(未遂)罪が成立する可能性はあります。
実際に、私も検事時代に「美人局」の事案を扱いました。「強盗」の罪名で警察から送致されたものの、「恐喝」で起訴した事案もあります。
被害者を反抗できないくらいにするレベルとまではいえないものの、相手を怖がらせるくらいのレベルの暴行・脅迫があった場合には、恐喝(未遂)罪が成立します。
他方で、相手を怖がらせるレベルの暴行・脅迫すらなければ、恐喝罪にもなりません。
大学生が死亡した結果については、恐喝罪と別に、傷害致死罪等が成立する可能性もあります。もっとも、少年らの行為と大学生の死亡との間に因果関係がなければ犯罪が成立しない点は、強盗致死罪と同様です。
──少年らは今後どのような法的手続きを経ることになるでしょうか。
逮捕された2名は、警察、検察での捜査が終了後、家庭裁判所に送られます。その後、家庭裁判所の判断により、検察官に送り返され起訴されるか(いわゆる逆送)、または、少年院送致などの処分を受けることになります。
児童相談所へ通告となった1名は、犯行時14歳未満であったため、刑事処罰をすることはできませんが、児童相談所に送られた上で、さらに家庭裁判所で審判を受け、少年院送致などの処分を受ける可能性はあります。
【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/