2024年03月09日 08:40 弁護士ドットコム
連日のように逮捕者や店の摘発が相次いでいる「ホスト業界」に対して、被害にあった女性からのうったえが止まらない。高額な売掛(ツケ払い)を背負わせる悪質ホストだけでなく、店を代表するような看板ホストにも「騙された」という声が上がっている。「結婚できる」と信じ、2023年1月からの11カ月間で、総額2500万円もの大金を貢いだある女性は、現実を知った今、強い怒りを覚えている。(ジャーナリスト・富岡悠希)
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2023年4月23日 22時01分19秒 30万円
2023年4月23日 22時02分09秒 70万円
2023年4月23日 22時03分02秒 60万円
2023年4月23日 22時03分55秒 40万円
2023年4月23日 22時06分14秒 50万円
2023年4月23日 22時08分12秒 20万円
2023年4月23日 22時08分51秒 10万円
2023年4月23日 22時09分29秒 10万円
2023年4月23日 22時11分13秒 20万円
西日本出身のマミさん(仮名)の手元には、昨年4月23日夜、わずか10分で310万円を使ったクレジットカードの記録が残っている。9回分すべて、支払い先は、当時通っていた新宿・歌舞伎町のホストクラブだ。
この夜、マミさんは「付き合っていて、結婚できる」と信じていたホストXの店に向かった。彼が在籍するホストクラブグループは、年間売上高を3月~翌4月で計算するという。そのため4月は、年間売上1位を目指したホスト同士の競争意識が高まる。
マミさんは23日午後10時に入店してすぐ、Xから「持っているクレカを出して」と命じられた。渡せば勝手に切られることはわかっている。その6日前の4月17日にも、マミさんは持参した現金とクレカ250万円分で、彼の売上に貢献していた。
躊躇するマミさんに、Xは「早くしてよ!」と苛立つ様子を見せた。店外でも会っているXを怒らせたくなく、複数枚を差し出した。すると、Xは次々とクレカを機械に通し、先の明細を渡してきた。
マミさんは2022年秋、YouTubeにアップされている動画で、Xのことを知った。Xは自称20代半ばで、彼女よりかなり年下だ。それでも「黒髪でホストっぽくない見た目のうえ、考え方もしっかりしている」と関心を持った。
ホストクラブに行ったことがなく、心理的なハードルは高かったが、好奇心が勝った。同年12月、ダメ元でインスタグラムでXにメッセージを送ると返信が来た。
西日本に住んでいたマミさんは、定期的に仕事で上京していた。その機会を利用し、2023年1月7日、お店に行きXと初めて会った。「あこがれの存在」となっていたXとの時間は、とても楽しかった。会計も5、6万円で、準備してきた金の半分ほどで済んだ。
翌1月8日にもお店に行くつもりだったマミさんは、カラオケで同伴してから入店することにした。8日午後8時半、新宿のカラオケ店で待ち合わせた。すると「遅れてごめん」と入ってきたXは、マミさんに抱きついていた。
前の晩、たしかに楽しく過ごしたが、あまりに急な展開のため、マミさんは抵抗した。それでもXはキスし、「今、ここでしたい」とさらなる行為を求めてきた。
その晩、店でマミさんは「営業でしたの?」とXに聞いてみた。「好きという気持ちがあるからだよ」。彼の甘い一言が、マミさんの恋愛感情に火をつけた。
それ以降、毎日ラインのやり取りをするようになった。マミさんの誕生日は、1月下旬。それに合わせて店に行くと、Xはシャンパンをおごってくれた。さらに、高級ブランド「シャネル」のボディクリームもくれた。マミさんの愛用品を覚えていてくれたのが、うれしかった。
その後も2週間に一度、マミさんが上京するタイミングでXと会った。時に飛行機代やホテル代をXが負担し、ホテルに泊まっていくこともあった。
この頃、Xとマミさんは次のような会話をした。
X「4月も1位を取れたら、ホストの売上ランキングで年間1位になれる。マミにも協力してほしい」
マミさん「これから先、ずっと一緒にいるんだったら考えなくもないけど。それもないのに何百、何千万円も使うのは違うから」
X「先の面倒は見るつもりだから」
こうした言い方に加え、Xははっきりと「結婚するから」と言ったこともあった。こうした言葉を信じた彼女は2023年4月だけで、1千万円ほどを貢いだ。
2023年5月、マミさんは東京に引っ越して、Xの自宅近くに住むようになった。「家のことをしてほしい」とXに頼まれたことが、きっかけの一つ。
Xから店に誘われることは減った。普段の仕事と貯金で、マミさんが払える額の限界に達したからだ。その代わりXは、手っ取り早く稼いで貢ぐ方法を提案してくる。国内外の性風俗への従事やアダルトビデオ(AV)への出演だ。
同年8月には次のような会話を交わした。
X「風俗とAVで何十万円か入るから、やりなよ。AVもマミなら、絶対にいけるよ」 マミさん「AVなんて、後々まで映像が残ってリスキーでしょ」 X「リスキーも何も、俺がいるからいいじゃん」
動かないとXが不機嫌になるため、マミさんはXの人脈でつながったスカウト役に連絡した。マミさんは最終的にAV出演は断ったが、性風俗では働いた。
2023年9月下旬、2人は次のようなラインのやり取りをしている。
マミさん「ここまできたらそりゃ(結婚)するやろがなんか可愛かった」 X「あたりまえ」
しかし、「結婚する」といいながら、AVや性風俗へと仕向けるXに対して、マミさんは不信感を募らせていく。マミさんは元々、医療関係の資格があり、Xよりも社会人経験も長い。あこがれや恋愛感情が薄れると、「貢がせたいだけだ」と気付いた。
同年11月に店で喧嘩すると、一気に冷めた。改めて計算し直すと、Xのために総額2500万円以上も支出していた。今手元にあるクレカ30枚は、いずれも使えない。引き落としができないためだ。
クレカの明細やカード本体を見るにつれ、強い怒りが湧く。
「Xがやったことは、結婚詐欺です。カードを勝手に切ったことなどは犯罪行為で許せないし、今も私の自宅のカギを持ち続けています。Xは今も看板ホストとして、もてはやされている。彼の悪質な手口を多くの女性に知ってもらいたいし、ホストには近づかないでほしい」