2024年03月06日 12:01 リアルサウンド
2013年にサービスをローンチ、昨年10周年を迎えたLINEマンガ。累計ダウンロード数は4000万超と国内マンガアプリでは1位を記録するなど、相変わらずの強さを誇る。
しかも最近では縦読みマンガwebtoon(ウェブトゥーン)で、オリジナルのヒット作を連発、『先輩はおとこのこ』がフジテレビ“ノイタミナ”ほかにて今年テレビアニメ化されるなど、作品の映像化でも勢いを見せている。
次の10年を走りはじめたLINEマンガは、これからどこを目指すのか? グローバル・マーケットに向けた自信と確信とは? LINEマンガを運営するLINE Digital Frontierの代表取締役社長、髙橋将峰氏に聞いた。
――昨年、LINEマンガは10周年をむかえました。節目の年は、どんな1年でしたか?
髙橋:「この10年で本当に状況が変わったな」とあらためて感じる1年でしたね。スマホに最適化されたフルカラー&縦スクロールのwebtoon作品を中心にヒット作が多々生まれたのは、まさにそれです。
トップクラスの人気を誇る『入学傭兵』(原作:YC/作画:rakhyun)が国内累計閲覧数4億ビューを突破(2024年1月時点)。2023年9月の月間販売額は1億8000万円を超えるほどになっています。またLINEマンガオリジナル作品で日本生まれの『先輩はおとこのこ』(ぽむ)はフジテレビ“ノイタミナ”ほかにてテレビアニメ化が決まっています。かつては「アプリでマンガが読まれるのか?」「横読みになれた日本の読者がwebtoonを読むのか?」とネガティブな意見が溢れていたのが、遠い昔のようです。
ーー素朴な疑問ですが、なぜ「アプリでマンガが読まれる」ようになり、「webtoonも受け入れられた」のでしょうか?
髙橋:まず前者の「アプリでマンガが読まれるか」に関しては、当初から心配していませんでした。10年前の当時からマンガアプリはすでにいくつか存在していましたからね。ただ無料の広告モデルばかりで、購買から決済までアプリの中で完結するLINEマンガのようなものはなかった。この使い勝手の良さ、大きな意味でのUI(ユーザーインターフェイス)が優れ、早くから使っていただいたことで先行者優位が働いた面はあると思います。
LINEというコミュニケーションツールが先に浸透していたことも、大きかったと思います。そもそもマンガって、コミュニケーションの元ネタとなる側面がありましたよね。我々の世代だと、月曜日になれば「今日のジャンプ、読んだ?」と教室で語り合い、水曜日には「マガジンのさ…」「今回のサンデーで…」とか(笑)。
LINEを介して、そんなマンガの話題や回し読みに似たコミュニケーションがしやすかった。普及の後押しに確実になりましたね。
――そうした土壌ができたうえに、webtoonが自然に入ってきて、驚くほどハマった?
髙橋:そうですね。この10年の間でも、韓国NAVER WEBTOONですでに普及していたwebtoonを2018年からLINEマンガに移植、日本市場に投入したのは、最も大きなターニングポイントだったと思います。日本は世界に冠たるマンガ大国、読み手も描き手も成熟していて、右開きでめくって読む「横読み」が当たり前に根付いていました。
それだけに、スマホを縦スクロールして、シームレスに続くwebtoonに「アレルギーのような拒絶反応があるのではないか」「表現が制限されるのではないか」と不安はありました。ただ実際にサービスインすると、すぐに多くの読者の方々に歓迎されました。
――今やwebtoonがLINEマンガを牽引しているコンテンツになっています。
髙橋:「マンガはこういうフォーマットでなければダメだ」「横読みでなかえれば豊かな表現できない」といったこだわりが、読み手の方々には思ったより強くなかったのではないでしょうか。スマホに最適化されたフォーマットだけに、むしろ横書きのマンガよりも読みやすかった方も少なくないと思います。
スナックのようにサクッと気楽に楽しめる意味で“スナックカルチャー”と呼ばれますが、むしろTik Tokなどショート動画と同じ感覚で受けいれられていますからね。
――ひと昔前、インターネットに触れるならPCが当たり前だった頃、「ケータイで動画なんて観ない」「スマホで買い物なんてしない」と思われていたのと似ているのかもしれません。
髙橋:現在人気を誇るスマホゲームが出始めたときも、「こんなものはゲームじゃない」なんて声が結構あがりましたよね。しかしスマホという身近なデバイスで触れられる気軽さから、これまでゲームをしてこなかった若い女性などがプレイしはじめました。
そもそものゲームユーザーをとりあうのではなく、スマホゲームがゲーム市場全体のパイを大きくし、活性化させたのです。家庭用ゲーム機のユーザーをとりあうこともなかった。似た関係性が、既存の出版社とwebtoonの間にもある。さらにwebtoonの場合は、新たに広げた市場が、グローバル市場に直結していることにこそ、大きな価値があると考えています。
――webtoonが、グローバル市場に直結していると。
髙橋:さきほど申したように、日本はマンガ文化が成熟している先進国です。一方で海外では、右開き横読みで複雑なコマ割りに慣れていない人がほとんど。もともと日本のカルチャーが好きな方や、マンガ好きの方はともかく、「マンガは読みにくい」と感じていた人はとても多いのです。仮に同じ作品でもアニメほど、マンガがグローバル市場で広がらないハードルになっていたわけです。
しかし、そうしたハードルが、webtoonにはない。シンプルな縦スクロールで複雑なコマ割りもありません。どこからどう読めばと迷うことなく、マンガを楽しんでいただけます。
――なるほど。スマホゲームの新規ユーザーがゲーム市場全体を伸ばしたように、webtoonが海外の膨大な新規ユーザーにリーチして、マンガのグローバル市場全体を伸ばすことになる?
髙橋:おっしゃるとおりです。いま私たちLINEマンガのサービスのグローバルなMAU(月間利用人数)は8500万人に登ります。
とくにwebtoonは北米やインドネシアなどのアジア各国でユーザー数を伸ばしています。もしかしたらこれまでマンガに触れなかった層に、マンガとも思われず、新しいスナックカルチャーのひとつとして極々自然に触れていただけているのではないでしょうか。
――作家からの目線でいっても、グローバルな読者の方々にリーチするチャンスが増えるというか、開かれているともいえますね。
髙橋:そうですね。これまでは大手出版社のマンガ雑誌に投稿して、連載を勝ち取り、人気が出たらIPとしてアニメ化やドラマ・映画化を果たす…といったエコシステムがありました。とても成熟していますが、完成されすぎていて、狭き門になっています。
しかし、webtoonが世界中で受けいれられた結果、また新しいルートで作品がグローバル市場で受け入れられ、新たなIPとして愛され、育つ可能性がうんとひろがった実感があります。また、作家さんとともに世界への扉をどんどん開いていきたい思いが強い。
――韓国のwebtoonからはすでにゾンビホラードラマ『今、私たちの学校は…』や、世界190ヵ国で同時配信された映画『モラルセンス』など、Netflixなどで実写映像化され、グローバルで人気IPになっているものが現れていますね。
髙橋:はい。似たようなルートで、日本発のwebtoon原作のIPを輩出していきたい。繰り返しになりますが、日本は本当に成熟したマンガ大国です。すばらしい作家さんと、アイデアがたくさんある。LINEマンガのwebtoonを介して、世界の方々に喜んでいただくチャンスは多いにあると確信しています。
それに、日本の強みといえばアニメもあります。webtoon原作ですでにグローバルに人気を博す作品が生まれ、それがアニメ化されたなら今のマンガ原作のアニメ化よりももっと大きなインパクトが出せると考えています。アニメから作品に入った方が、「原作も読んでみたい」とwebtoonに触れる可能性も、横読みマンガよりは高いでしょう。キャラクターグッズや二次展開も含めて、スムーズに大きな波及効果につながることが期待できます。
――昨年末公開された『ゴジラ-1.0』が世界で受け入れられて、アカデミー賞まで取ったように、webtoonから世界に愛されるIPを生み出されることが期待できると。
髙橋:そうですね。言い方を変えると、これまでのルートではゴジラという素晴らしく強いIPですら、グローバルで本当に浸透していくのには時間がかった。たとえば、日本では絶大な人気を誇り、私も大好きな『ガンダム』ですらグローバルの視点ではまだまだ大きな可能性を感じます。しかし、webtoonというグローバルなプラットフォームで、原作マンガをまず楽しんでもらい、作品が浸透すれば、これまでとは違うスピードとコスト感で、グローバルIPが生まれる可能性があります。
――当たり前のことですが、そうなると作品の質がより問われる。新しい才能がどんどんwebtoonに参入してもらう必要もありますよね。
髙橋:そのとおりです。だからこそ作品づくりにおいては、私たちはずっと「クリエイター・ファースト」の立場をとっています。LINEマンガにとって、また日本の素晴らしいマンガ文化をさらに花咲かせるためのはずせない要素だと確信しています。
2006年、ヤフー株式会社に入社。その後、株式会社イーブックイニシアティブジャパン代表取締役社長に就任。2023年7月にはLINE Digital Frontier株式会社代表取締役社長CEOにも就任。
<後編に続きます>