2024年03月05日 07:40 リアルサウンド
ラストまで見届けることで、初めて全体像を理解して鳥肌が立つ物語がある。2月22日にXに投稿された『純白の部屋のシドー』(受験生が人生最後の24時間を過ごす話)は、まさにそんな衝撃を与えてくれる作品だ。
受験会場に向かっていたはずの陸は、目が覚めると白一色の謎の部屋にいた。困惑を隠しきれない陸に対して、異質な部屋の真ん中で優雅に座っているシドーと名乗る男性に話しかけられる。すると陸はシドーから「お前は死んだのです」と聞かされ、さらには1日だけ生き返る権利を与えられたと話し始める――。
「ずっと漫画だけ描いていたい」と願いながら、仕事の空き時間や休日を利用して漫画制作をしているという作者のもりしばさん(@horohoro9999)。最後まで読むと思わずハッとさせられる本作の誕生秘話など話を聞いた。(望月悠木)
■ミステリー作品の予定だった?
――『純白の部屋のシドー』制作の経緯を教えてください。
もりしば:一次創作だけの同人誌即売会『コミティア』に参加するために描きました。当初はミステリーを描く予定でした。洋館で殺人事件が起きて、居合わせた探偵シドーが事件を解決する、というコテコテのストーリーを考えました。
――結果的にはミステリーとはかなり異なるストーリーになりましたが。
もりしば:制作を進める中で、キャラクター達が小さな悪意からすれ違って死んでしまうことが悲しくて没にしました。ただ、主役はシドーのままで、人間の生死、善意などを軸にしようと思いました。
――当初は探偵だったシドーですが、どのように作り上げていきましたか?
もりしば:「探偵」をイメージして作り、後から「天使」のイメージも加わった結果、髪が白くなったりなどしました。また、シドーが冷静なので、陸は反対に感情表現の豊かな性格にしました。ちなみに陸はオシャレ好きなので、当時の流行りの髪形を調べたりしました。
――シドーは丁寧な話し方をしていますが、陸のことはお前と呼びます。とてもギャップを感じる言葉遣いでしたが、なぜお前呼びを採用したのですか?
もりしば:シドーは人間の姿をしていますが、人間ではなく人間より上位の存在である、ということを演出したくてああいった口調になりました。「なんか偉そう」と感じてもらえたら嬉しいです。
――人間の生死を扱っている作品ですが、コミカルさも随所に見られました。
もりしば:テーマが重いため、「コミカルに寄せたほうが読みやすいかな」と考え、序盤はコミカルを多めにしました。陸が好きな女の子への告白を躊躇するシーンでも、コミカルにする選択肢もあったのですが、「ここは茶化すべきではない」と考えた結果、ああいった展開になりました。
■ラストは「伝わりますように」と祈りながら
――“高校生の陸ではなく実は大人の陸が高校生に戻って1日を過ごしていた”ということが発覚するラストは秀逸でした。
もりしば:「陸の死」を物語のゴールにすると、どうしても「陸を生き返らせてハッピーエンドにしてほしかった」と感じる人がいると思いました。ですので、「実は酸いも甘いも味わった男性が、最後に振り返る青春の1ページだったんですよ」というラストにすれば、読後感が変わると思ってラストを制作しました。
――とはいえ、一瞬では理解できない若干入り組んだラストでした。読者に伝わるように気を付けたことなどありますか?
もりしば:どうしてもわかりづらくなってしまうので、「伝わりますように」と祈りながら描きました。読者さん全員にすんなり伝わったのかは今でも心配です。ちなみに、ラストでこだわった点として、大人の陸を明確に描きませんでした。読者さんの想像にお任せするほうが良いと思いましたので、
――最後にこれからどのように漫画制作に取り組んでいく予定ですか?
もりしば:ご縁があってお仕事に繋がれば嬉しいですが、趣味でもずっと何かしらは描いていきたいです。普段はXで漫画を更新しているのですが、最近kindleインディーズもはじめました。今後どんどん作品を増やしていく予定ですので、良かったらぜひご覧ください。
(望月悠木)