F1開幕戦バーレーンGPのレースを終えて、ミックスゾーンへやってきた角田裕毅(RB)は、苛立っているように見えた。開幕戦にも関わらず、レース終盤に無線でチームオーダーを出されたからなのだろうか? そのことを尋ねると、角田はこう言った。
「どうでもいいです」
レース終盤、角田はケビン・マグヌッセン(ハース)を追っていたが、なかなか抜けない。するとRBはピットから無線で角田に「ポジションを入れ替えるように」と指示を出した。マグヌッセンと角田は同じC1タイヤ。角田の後ろにいたチームメイトのダニエル・リカルドはふたりよりも柔らかいC3タイヤ。同じタイヤで抜けない角田を見たチームは、違うタイヤを履くリカルドでの逆転に賭けたのである。
しかし、それを聞いた角田は「冗談でしょ」と言ったものの、1周後にポジションをリカルドに譲った。そして、その判断を下したチームに無線でこう言った。
「ありがとう、みんな。感謝している」
もちろん、それは角田なりの皮肉を込めたメッセージだった。
その後、ポジションを譲ったリカルドもまたマグヌッセンを抜けず、RBはリカルドが13位、角田が14位でチェッカーフラッグを受けた。
あのままレースをしていたら、マグヌッセンを抜けたのだろうか? 角田は次のように言う。
「サイド・バイ・サイドまで行きそうだったので、抜けたと思います」
そして、こう続けた。
「チームと話し合う必要があると思っています」
だが、角田がこのレースで、最も苛立っていた原因は、筆者はそこではなかったと感じている。
角田がこのレースでチームに対して怒っていたのは、スタート直後にトップ10内を走行していたにも関わらず、レース終盤にポイント圏外を走行させられたことだった。
あえて、「走行させられた」と書いたのは、角田がオーバーテイクされたり、ドライビングミスをしてポジションを失ったわけではなく、戦略のミスとも思えるピットストップ作戦で順位を落としていったからだ。
最初のミスは、1回目のピットストップ。最初に動いたのは、16番手の周冠宇(キック・ザウバー)で、9周目だった。それを見て、19番手のランス・ストロール(アストンマーティン)も同時ピットインを敢行した。このふたりを見て、ライバル勢が続々とピットインするなか、RBが角田をピットインさせたのは、5周後の14周目。ピットストップ作業を完璧に済ませてコースに復帰した角田は周に逆転され、ストロールに迫られていた。
それでも、その段階で角田は11番手。まだ逆転できる可能性はあった。しかし、2回目のピットストップでもRBはライバルにアンダーカットを許してしまう。
2回目のピットストップで最初に動いたのは、ポイントを獲得するために周と角田を逆転しなければならない12番手のストロールだった。27周目にストロールがピットインすると、周が続く28周目にピットイン。ここが最後の勝負所だったにも関わらず、レーシング・ブルズが角田をピットに呼んだのは、ストロールから7周遅れの34周目。
周やストロールだけでなく、ハースにもアンダーカットを許した角田の後ろには、チームメイトのリカルドが迫っていた。そして、チームオーダーが発令された。
この日、角田がポイントを逃したのはチームオーダーではなく、ピットストップ戦略のミス。その怒りの火に油を注いだのが、チームオーダーだった。