大都市圏では、中学受験を考えて小学生の頃から塾に通う子供が目立つ。2023年首都圏では5万2600人が中学受験に参加している。これは、中学入学者のうち17.86%を占める。富裕層の多い中央区や港区では、クラスのほとんどが中学受験をするという小学校も多い。しかし、この風潮は学級崩壊の一因ともなっている。こうした地域の地元住民で、子供がそうした小学校に通っていたという40代男性は、
「お受験が原因で、殺伐としたクラスが多い」
と証言する。都心の小学校では、いま何が起こっているのか。(文:広中務)
お受験のため「中央区にやってくる」人たち
先祖代々、中央区の住人だという男性は「(うちの地域では)低層の高級マンションに暮らす富裕層の子供が目立ちます。彼らの生態は独特です。なにしろ、中学受験のために優れた塾があるという理由で引っ越してくるのですから」と、半ば呆れたように語る。
中学受験には、塾通いが必須である。その塾にも優劣がある。かつて、大学受験予備校が全盛だった時代には、単に代々木ゼミナールとか河合塾とかいったブランドで選ぶのではなく、「あの人気講師のいる校舎がいい」とか、「評判がいい校舎に通いたい」といった理由で、遠距離通学や下宿をする人も多かった。それと同じような現象が、いま中学受験で起きているというわけだ。
男性によると、「中学受験に熱心な親の間で特に評判がいいのが、人形町にある某有名受験塾です。ここに通わせるために引っ越してくる世帯は実に多い」という。このエリアの中学受験ブームは相当なものだ。昨年の中央区議会議員選挙では、とある候補が元有名受験塾講師の経歴を強調していた。実際にそれがどこまで影響したかはわからないが、その候補はトップ当選まで果たしている。
もちろん、子どもたちが勉学に励むことは、決して悪くないことだ。しかし、中学受験を強く意識するあまり、他の大事なことがおろそかになってしまうとしたら、手放しでは喜べない。
先の男性は「(中学受験をする子どもたちは)学校の授業に全くといってよいほど興味をもちません。むしろ、無駄な時間だというような態度を取ります。このため、学級崩壊もたびたび起きているんです」と語る。
なぜか。
受験通信教育の老舗「Z会」によると、中学受験をする6年生の勉強時間は「塾や学校での勉強時間を除いて週20~35時間というのが平均値」だという。単純に年間(52週)に変換すると1040時間~1820時間となり、それだけで小学校6年生の授業時間数(1015時間)を超えている。これに塾も加わる想定なのが恐ろしい。大人が週40時間労働を休みなしで延々続けた場合でも、年間労働時間は2080時間となっている。11~12歳の子どもが、それほどの長時間を集中して耐えられるものなのだろうか?
実際のところ、目に見えて疲れている子供が多いそうだ。
「受験ストレスに耐えかねてメンタルが不安定な子供も耐えません。教師に反抗するのは当然で、受験が本格化する6年生になると、まともに授業が成立しないクラスだってありますよ」
こうした状況に教師はまったくお手上げ状態だという。なにしろ親を呼び出して注意しようとしても、中学受験ではむしろ「親自身もガチ勢」のことが多く、教師からの注意を無視するどころか、限りなく「モンスターペアレント」なケースもあるそうだ。
こうなる原因のひとつは、小学校の授業で学べる内容と、中学受験で勝ち抜くために要求されるレベルが、あまりにもかけ離れていることではないか。そうであるなら、子ども(や親)が「中学受験ガチ勢」であればあるほど、「受験に直結しない時間は無駄」という発想になるのも不思議ではない。それでも学級崩壊につながるような言動は許容されないだろう。
男性が一番納得がいかないのは、こうした「中学受験にガチすぎる親子」が、地元小学校の授業を荒らした挙げ句、合格した中学校の近所へ引っ越していくことだという。
「もともと受験のために中央区に移り住んで来られるような人たちは、お金に余裕がある人がほとんど。だから、無事に中学校に合格すると、その近くに引っ越す世帯も多いんです。つまり、地域から見れば、良いところどりされて、荒らされているだけなんです」
「あとは野となれ山となれ」あるいは「旅の恥は掻き捨て」といったところか……。