毎日忙しく働いているからこそ、自宅にいるときぐらいはリラックスしたいものだ。しかし、そんな自宅周辺を「職場の上司が用もなくうろついている」としたら、どんな風に感じるだろうか。都内の中学校で働く40代の女性教師は、前任校にいた時、そんな上司のせいでメンタルを病むことになった。
女性は「あんなストーカー気質の人間が、普通に社会に存在しているのが驚きでした」と語る。いったい、何が起きたのか。(文:広中務)
自宅近所を上司が「散歩」しているという恐怖
問題の上司は、女性が勤務していた中学校の男性副校長(教頭)だったそうだ。
女性は「勤務し始めた頃から、私を含めて新しく赴任してきた教員に、やたらと住んでいる地域のことや、利用している路線のことを聞いてくるのです」と当時を振り返る。
これだけだったら、世間話の範囲内かもしれない。しかし、この副校長の踏み込み度合いは違う。執拗に話題にするだけではなく、合間に「家の近くに○○があるよね」と、近所に住む人でなければまず利用しないようなスーパーや、調べなければわからないような小さな店のことまでをも、会話に混ぜてくるのだ。
女性の家周辺は住宅街で、偶然通りかかる可能性はほとんどない。なぜ離れた場所に住んでいる上司が、そんなマイナーな店を知っているのか。
「その時点で変な人だなとは感じていたんですが、ある時、パソコンでGoogleストリートビューを熱心に見ている姿を見つけてしまったんです」
公立学校の教員の場合、緊急事態の場合に備えて、通学路など学校側に伝えたりもしている。しかし、非常時でもないのに、Googleストリートビューで確認する必要性は皆無だ。
女性は語る。
「同僚にそれとなく聞いてみたら“あの人、距離感がおかしいから気をつけてね”というんです。やっぱり……と思っていたら、ついに休日明けに“週末に、○○駅にいったんだよ”と私の最寄り駅の話題を振ってきたんです。なにか用事があったのかを聞いたら“いや、なんとなく散歩で”と。単なる住宅地の駅になにをしにきたのか、怖ろしくなりましたよ」
そのうちわかってきたことだが、この副校長は様々な教員にランダムに同じような行為を繰り返していたという。
「ご存じの通り、教員は多忙なんですが、ヤツは仕事も遅くてイライラするようなタイプでした。それでいて、親しげにそんな話題を振ってくるんですよ。おまけに、そっけない態度を取ると機嫌が悪くなるしで、次第にこちらのほうがメンタルがおかしくなりそうでした」
さらに決定的だったのは、夏休み明けのことだ。
「休み明けに出勤したら、ニコニコして近づいて来て“休みに高松市(香川県)にいったんですよ”というのです。私の実家があるところです。おかしい人じゃなくて、これは本気でヤバイ人だと思いました。もし機嫌を損ねたら、本気でストーカーになるんじゃないかと思ったんです」
そんな恐怖から、女性は、仕方なく相手に合わせたような会話をすることに。
「それがマズかったのか、ネットで見つけた近所のスーパーの特売情報とかをわざわざ教えてきたり……監視されているみたいで怖かったです」
上司が何を考えていたのかはわからないが、部下が恐怖を覚えるとは、思わなかったのだろうか。その恐怖もあってか、次第に「ささいなことでキレやすくなっていった」という女性。結局、産休に入るまで1年あまり、女性はこの「ストーカー気質」に悩まされ続けたということだ。
女性は「あれでも管理職ができるんだと呆れましたが……担任をしていた頃には生徒にも同じことをしていたんじゃないかと思うと、余計に怖ろしいです」と語っていた。
なお、この人物は、いまだに某中学校に勤務しているという。この記事が本人に伝わり、そういった行為を自重するようになることを祈りたい。