2024年02月29日 10:10 弁護士ドットコム
トイレに行きたい!大慌てで駆け込み、用を足した後で「ここ、女子トイレじゃん!」と気づいてしまったーー。そんな苦い経験をした男性からの相談が、弁護士ドットコムに複数寄せられている。
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ある相談者は、急激な腹痛に襲われたために近くのコンビニのトイレに駆け込んだ。緊急事態だったために標識を見る余裕はなく、男女兼用だと思い込んでいたという。用を済ませた後にトイレが男女分かれていて女性用に入ってしまったことに気づいたそうだ。
相談者は「逮捕されるのでは」と不安な様子だ。間違えたとはいえ、女子トイレに入ったことはなんらかの犯罪にあたるのだろうか。坂口靖弁護士に聞いた。
ーー相談者は「わざと」女性用トイレに入ったわけではないと主張しています。それでも、なんらかの罪に問われる可能性はあるのでしょうか。
行為だけみれば、建造物侵入罪等(刑法130条)が成立する可能性があります。ただし、本罪は「故意」におこなわれた場合にのみ成立します。「女性用トイレであると認識していなかった」場合には成立しません。
しかし、本人の「認識」は目には見えない事実です。本当に誤って女性用トイレに入ってしまったとしても、逮捕される場合は実際上あり得ます。
故意などの認識を示す証拠として最も重要なのは、自白といえるでしょう。捜査機関は「本当は女性用であると分かっていたんだろう」などと「女性用トイレと認識していたこと」の自白を迫ってくることが考えられます。
無実を信じてもらうためには、大前提として、絶対に「自白はしない」ということが極めて重要となります。
ーー「女性用トイレと認識していなかった」事実は目に見えないものです。自身の正当性を主張立証していくためには、どのような証拠が必要となるのでしょうか。
できるだけ目で見える証拠を収集し、自身の認識を裏付けていくことが重要となります。たとえば、今回のケースの場合はコンビニのトイレになるので、防犯カメラの映像などが役立つ可能性があります。
店舗への入店状況やトイレに入る前後の行動を明らかにすることで「尿意・便意が迫っており、慌てていたこと」や「ごく短時間しかトイレに留まっていなかったこと」などの事実関係を立証します。そして、盗撮や覗き目的ではなく、単に切迫していたために女性用トイレであると見落としても不自然ではないことなどを主張していきます。
他にも男女別を示す標識の「見づらさ」や、トイレに入る前後の目撃証言なども重要な証拠になるでしょう。トイレ内部を撮影した画像や動画、残置されていた汚物などを持っていないことも、わざわざ女性用に入る「動機がないこと」を立証するうえで重要な事実となります。
このように、女性用トイレに誤って入ってしまうと、潔白を証明するために面倒事に巻き込まれるおそれがあります。どんなに慌てていても、十分注意して入るようにしましょう。
【取材協力弁護士】
坂口 靖(さかぐち・やすし)弁護士
大学を卒業後、東京FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」等のラジオ番組制作業務に従事。その後、28歳の時に突如弁護士を志し、全くの初学者から3年の期間を経て旧司法試験に合格。弁護士となった後、1年目から年間100件を超える刑事事件の弁護を担当。以後弁護士としての数多くの刑事事件に携わり、現在に至る。YouTube「弁護士坂口靖ちゃんねる」 <https://youtube.owacon.moe/channel/UC0Bjqcnpn5ANmDlijqmxYBA> も更新中。
事務所名:プロスペクト法律事務所
事務所URL:https://prospect-japan.law/