2024年02月29日 10:10 弁護士ドットコム
あまりに「ひどい臭い」の乗客に悩まされているタクシー運転手の女性が、SNS上で「風呂に入って」などと呼びかけた投稿が話題になっている。
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投稿によると、あまりに強烈な臭いで、次の乗客を受け入れることができないレベルだったという。一緒に投稿した動画では、座席に何度も消臭剤をかけるところが映っている。その日の仕事にも影響が出てしまったようだ。
この運転手は、弁護士ドットコムニュースの取材に「ドライバーは人間。許せない臭いもあるんです」としながらも、「誇りを持っているから乗車拒否は簡単にできない」と話す。詳しいワケを聞いた。
取材に応じた「さちゃたく」さん(@sachantaxi33ojo)は、元ギャル・元キャバ嬢という異色の経歴で、メディア出演も豊富なベテラン運転手だ。普段は、東京・八王子市など、南多摩エリアの駅を拠点としている。
さちゃたくさんは2月26日、自身のX上で、次のような「お願い」を呼びかけて話題になった。
「2日に1回でいいんです…お風呂に入ってください…
お洋服は洗濯した清潔な服を着てくださいませんか…
次のお客様が乗れない程臭いが残るんです…」
投稿のきっかけとなった乗客は、ある駅の利用者で、地元のタクシー運転手の間では「有名人」だという。
さちゃたくさんは、X上で「鬼ファブリーズしてから窓全開走行して休憩挟まないと営業不能でございます」としながらも、「運送約款を盾に拒否したところでローカル駅の別な仲間が犠牲になるから拒否もできず」と複雑な心境をつづっている。
ひどい臭いの乗客を受け入れた、さちゃたくさんが、それでも「乗車拒否」をしない理由について、弁護士ドットコムニュースの取材に語った。
——「乗客の臭い」に困ることはありますか
タクシーは公共交通機関で唯一「ドアtoドア」ができる移動手段です。
自宅介護でお風呂に長く入れなかったお客様が、やっとの外出機会に利用してくれるのは、うれしいことです。そのような方に対して、臭いがしたとしても「風呂に入ってよ」と思ったりはしません。
乗車中に無言だったとしても、「肉体労働で汗かいて頑張ったんだろう」など、そのお客様の臭いから背景を想像して運転し、「明日も頑張れよ」と心の中でエールを送ります。
ですが、他人への配慮や努力を怠ってることが容易に判断される臭いは嫌いです。
——それはどのようなケースでしょうか
梅雨の時期の生乾き臭、強烈な臭いの柔軟剤、つけすぎた香水、シミだらけで異臭のする衣服の着用、わざと月単位の未入浴で強烈なアンモニア臭と頭髪の根元から毛先まで脂ギトギトで強烈な脂臭。
他にも、下痢を漏らしたけど乾いたから乗っちゃう人。おしっこがちょい漏れしたけど乾いたから乗っちゃう人。そんな人もいます。
ドライバーも人間です。他人への臭いの配慮や努力を怠ってる方はすぐわかりますし、気持ちのいいものではありません。
何よりドライバーの健康被害にもつながります。吐き気、目がシュパシュパしてしまうので、臭いの配慮をもっとしてほしいと切に願います。
タクシー業者が守る「一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款」では、「旅客が車内を汚染するおそれがある不潔な服装をしているとき」に乗車を拒否することがある、と定められています。
——それでも「乗車拒否をしない」との考えを示した理由は?
今回のお客様も該当しますが、乗車を拒否したところで、ローカル駅の仲間の誰かがお乗せすることは容易に想像できます。
そのローカル駅では、このお客様の臭いの件は、ドライバー間で周知の事実です。
乗車を拒絶することは簡単ですが、もしもこの駅のドライバー全員が乗車を拒否したら、このお客様はどうやって帰るのでしょうか。
駅からバスも出ていますが、ご本人のご自宅はバス停からかなり距離があるので、バスという移動手段は選びにくいのだと思います。
タクシードライバーは、公共交通機関としての使命に誇りを持ち、他人への配慮を持って仕事をしています。だから、一筋縄に「臭いから乗せない」とはいかないのです。
道路運送法13条では、タクシー(一般旅客自動車運送事業者)は、原則として「運送の引受けを拒絶してはならない」とされており、乗車拒否には100万円以下の罰金が定められているが、例外的に乗車拒否が許されるケースもある。
たとえば、国土交通省令(旅客自動車運送事業運輸規則)で定める「正当な事由」があるとき(同13条6号)とされ、その中には「泥酔した者又は不潔な服装をした者等であつて、他の旅客の迷惑となるおそれのある者」という規定が含まれてる。
国土交通省も、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、臭いのひどい乗客については「不潔な服装をした者等」に該当し、乗車拒否できるという見解を示した。
さちゃたくさんが指摘するように「他人への臭いの配慮や努力を怠って」いる人には、"タクシーに乗る資格がない"のかもしれない。