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デヴィ夫人vs週刊文春、賠償請求ではなく「刑事告訴」したことの狙い 「著名人を貶め、社会から抹殺している」と激怒

2024年02月28日 11:21  弁護士ドットコム

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代表理事を務めていた慈善団体の金を持ち逃げしたなどと週刊文春に報じられたデヴィ夫人が2月27日、自身のインスタグラムを更新し、「報道された内容は事実無根」として、週刊文春や慈善団体の関係者に対して名誉毀損と信用棄損の疑いで刑事告訴したことを明らかにした。


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デヴィ夫人は「断定的な表現で私を貶めようとするものであり、極めて悪質と申し上げざるを得ません」「私は、週刊文春の取材に対し、資料を付けて丁寧に回答したにもかかわらず、残念ながら、週刊文春は、私の回答を、作為的に報じませんでした」と強く批判している。



また、「最近は、一部の週刊誌が強い権力を持ち、一般の方が週刊誌に情報を提供し、週刊誌が他方当事者である著名人の言い分を公平に載せることなく著名人を貶め、社会から抹殺している事象が、多数見受けられます」と週刊誌報道のあり方についても触れている。



週刊誌報道をめぐっては、最近、書かれた有名人による民事裁判での損害賠償請求が目立っているが、今回、民事裁判ではなく、刑事告訴をしたことの狙いはどこにあるのか。元検察官の西山晴基弁護士に聞いた。



●刑事の方が立証ハードルは高い一方、証拠収集でメリットがある場合も

ーー名誉毀損で刑事告訴することは珍しいのでしょうか?



検事時代にも多数の名誉毀損事件を扱ったことがありました。インターネット、SNSを通じた事件に加え、名誉を毀損する怪文書を拡散する事件などもありました。



また、名誉毀損や誹謗中傷の応酬をきっかけとして、殺人事件に発展した痛ましい事件もありました。加害者と被害者の関係性も様々ですが、被害者の加害者への妬みなどを動機としたものが多かった印象です。



ーー民事裁判との違いは何ですか?



民事と刑事とでは、刑事の方が立証のハードルが高い点で異なる、とよく言われます。



ただ、刑事の方が捜査機関により証拠収集がなされる点で民事よりも事件化しやすい場面もあります。



特に名誉毀損については、そもそも誰が名誉毀損を行っているのか、加害者を特定する際のハードルがあります。その点は、捜査機関による証拠収集を通じた方が可能性は上がってくる側面もあります。



ただ今回の件では、当事者が誰かは明白なので証拠収集の点で刑事手続を利用するメリットはそこまでないのではないかと思われます。



そうなると、民事ではなく刑事を選択した理由として、デヴィ夫人が金銭賠償では許せないほどの強い処罰感情とともに、昨今の週刊誌報道について警鐘を鳴らさなければならないという気持ちを抱いたことが理由なのかもしれません。



●一般的には起訴のハードルは高い

ーー刑事告訴して起訴される可能性はどの程度あるのでしょうか?



名誉毀損は、民事、刑事ともに、その内容が真実であるといえれば、責任を問うことはできません。



仮に真実ではなかったり、真実性の証明ができなかったとしても、週刊誌側が十分な調査をして、その内容が確実な資料、根拠に照らして真実であると思ったことに相当の理由がある時にも名誉毀損罪に問うことはできません。



そのため、週刊誌報道の名誉毀損事案の場合には、週刊誌側の調査が明らかに欠けている、不足しているといえるケースでなければ、一般的には、起訴のハードルは高いかと思われます。



ーー何が今後のポイントになりますか?



今回の件でデヴィ夫人は、週刊誌側において、デヴィ夫人から取材した内容を切り取って報道していたのではないかという点を指摘しています。



週刊誌を含む報道では、対象者の反論も併記する「両論併記」により、対象者の社会的評価を低下させることのないよう配慮することがあります。



もっとも、デヴィ夫人の言う通り、今回、あえてデヴィ夫人の回答内容を都合よく切り取って報道していたのであれば、週刊誌側に、意図的にデヴィ夫人の社会的評価を低下させようとか、低下することになってもかまわないという認識があったのではないかと推認させる要素になります。



加えて、事実を切り取って報じれば、事実と異なる内容になってしまうことは往々にしてあります。そのため、真実性との関係でも、週刊誌側が真実ではないと分かってあえてその報道をしたのではないかと推認させる要素にもなります。



そのため、今回の件では、週刊誌側が、実際にデヴィ夫人の回答を切り取って報じた事実があるのか、仮に切り取って報じていた場合には、どのような内容を、どの程度切り取って報じていたのか、そのように報じることになった経緯や動機などが捜査のポイントになってくる可能性があります。




【取材協力弁護士】
西山 晴基(にしやま・はるき)弁護士
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/