東京大学の博士課程に所属する男性は数年前、「卒論やレポート作成のアドバイス」を1回5000円で請け負っていた。最初はボランティア気分でネット掲示板に書き込んだだけだったが、意外と引き合いが多く、しばらく月1~3人のペースで申し込みがあったという。宣伝らしい宣伝もしていないのに、さすが東大生ブランド。そんな彼の「有料級アドバイス」とは、いったいどんな内容だったのかを教えてもらった。(取材・文:広中 務)
卒論やレポートの「代行」ではない
人文系の研究をしている男性は、どことなく貴族的な雰囲気を漂わせている。世間では博士の進路問題(ポスドク問題)が話題になることもあるが、男性は「そろそろ博士論文も書かなきゃいけないと思っているのですが、色々と研究したいテーマが多くて終わらないんですよね」と、どこ吹く風だ。聞けば実家がけっこう太いらしい。
そんな、余裕のある人生を送っている男性。レポートや卒論の「相談」を始めたのは、お金目当てというよりも、「自分の知識を活かして、人の役に立ちたい」という素朴な感情だったそうだ。
「正直、勉強は人よりは優れているとは思います。ただ、知識を役立てる機会というものはあまりなかったので、ボランティアのつもりで初めてみたのが卒論やレポートの手伝いです。といっても、私がやるのはネットでよく見かける“卒論代行”ではなく、”相談や添削”でした」
料金は、添削とビデオチャット1回分で5000円という設定だったらしい。
「1回払ってくれたら、最後まで面倒はみていました。卒論程度なら数度の相談と添削で十分ですしね」
さて気になるのが、「相談」の中身だが、男性によると、卒論の相談は「人生相談のノリ」だという。どういうことだろうか?
「卒論の相談はだいたいが“テーマが決まらない”ところから始まるんです。そうなると、今までどんな本を読んできたのかとか、どんなことに興味があるのかを丁寧に聞いていくことになります。だって、卒業するためとはいえ、まったく興味もないことを書くなんて無理でしょう」
たしかに、卒論は長期間かけて数万文字も書くものだから、自分の興味関心がある分野でなければ不可能だろう。
ちなみに本人の専攻は社会学系だが、相談者は多種多様だったそうだ。
「人文系ならだいたい対応出来る……といいたいところですが、哲学系は難しかったですね。一度、東洋思想の卒論を相談された時には断りましたよ」
ちなみに修士論文のテーマが決まらないという大学院生から相談を受けたこともあるが、それもかなり苦労したという。
「なんとなく院生になっちゃった人は、人生を拗らせてることが多いので、“ホントにこのテーマで書けるか不安”と何度も繰り返すものだから“できるよ!!”と励ますのが主な業務でした」
なるほど、まさに人生相談のノリである。そんなところまで丁寧に対応していたこともあって、「儲け」はちっとも見合っていなかったそうだ。
そんな経験をしたからか、男性はいま、「勉強法そのもの」を教えるビジネスができないかと考えているそうだ。
「大学に入ってから“勉強したいけどやり方がわからない”とか、社会人になってから、もう一度勉強したい人っているじゃないですか、そういう人向けに“勉強の仕方そのものを教える”なんてビジネスはいけるんじゃないかと思ってます」
ちなみに、男性が想定する価格は「50万円ぐらい」とのこと。男性は「ほら、ライザップなんかもそうですが、高額なほうが、かえって客が集まることもあるじゃないですか」と語る。うーん。まあ、価格設定はともかく、勉強法を指導してもらいたい人はいそうな気がする。価格設定はともかく、ね。