2024年02月16日 17:51 弁護士ドットコム
法制審議会は2月15日、離婚後の夫婦双方が親権を持つことを可能にする民法改正要綱を小泉龍司法相に答申した。政府が今通常国会に改正案を提出する見込みだが、これを受け、日本弁護士連合会(小林元治会長)は会長声明を発表した。
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2024年2月15日、法制審議会は、「家族法制の見直しに関する要綱」(以下「要綱」という。)を取りまとめた。
要綱において、父母が養育すべき子に対し、自己と同程度の生活を維持する扶養義務を負うことが明記されたこと、家庭裁判所が離婚後の親権者を定める場合には共同・単独どちらも原則とせずDV・虐待事案については単独親権としなければならないとしたこと、養育費等不払い解消のための具体的措置を導入したこと、扶養や財産分与に関する裁判手続において収入や資産の開示義務を明文化したこと等は、当連合会として高く評価するものであり、法案の立案に当たっては、法制審議会家族法制部会(以下「部会」という。)での3年近くにわたる議論を経て取りまとめられた要綱の趣旨・文言が、できる限り忠実に反映されるべきである。
例えば、離婚後の親権者指定における裁判所の判断基準を定めた要綱第2の2、(1)キの前段では、共同親権・単独親権いずれをも原則とすることなく子の利益の観点から総合的に判断するものとした上で、しかし共同親権が不適切なケースにおいて万が一にもそれが選択されないようにという趣旨で、後段では、DVや虐待等一定の事情がある場合には単独親権としなければならないという規律を強い表現で明記している。つまり、後段の事由がなければ共同親権が選択されるというわけではなく、前段の総合判断に戻る構造となっている。部会では、このような前段と後段との関係が正しく伝わるように、後段への接続詞として、『この場合において』という文言が選択されたという議事経過があるため、法案の立案にあたってはこれが忠実に反映されるべきである。
他方で、親権の共同行使の例外事由中「子の利益のため急迫の事情があるとき」(要綱第2の1、(1)ウ)の解釈につき、部会では「父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては適時の親権行使をすることができず結果として子の利益を害するおそれがある場合」、具体的には、DVや虐待が生じた後、一定の準備期間を経て子連れ別居を開始する場合も急迫性が継続するとして、上記事由に含まれ得るという理解が共有された。しかし、かかる解釈は「急迫」という文言からは一般に想起されにくい。そこで、DV・虐待被害者が加害者から逃避することに対する委縮や被害者への支援の後退がないよう、部会で共有された内容に合致した分かりやすい文言での立案が検討されるべきである。
今後、要綱に基づく改正法が成立・施行された場合、家庭裁判所はこれまで以上に大きな役割を果たすことになり、その負担増大は必至である。今般の改正に伴って増加が予想される子どもの監護に関する事件を始めとする各種家事事件を、適正かつ迅速に判断し、もってあまねく全国でそのニーズに応えていくためには、本庁・支部・出張所を問わず、裁判官、家裁調査官、書記官、調停委員等の人的体制を強化するほか、調停室、待合室等の物的体制を充実すること、及びそのための財源が確保されることが必須であり、この点は、当連合会が2023年10月6日の人権擁護大会において行った「子ども・高齢者・障害者を含む住民の人権保障のために、地域の家庭裁判所の改善と充実を求める決議」で指摘したとおりである。
また、改正法の下では、特に協議離婚時、父母は、共同親権という新たな選択肢を含め、離婚後の親権・監護の多様なあり方の中から、子どもの利益に照らして、適切な選択をする必要がある。要綱に基づく民法改正に伴って、適切な選択を実現可能にするため、次のような施策とともに関連した立法が必要である。
第一に、要綱では、婚姻中の父母にも及ぶ親権行使に関する規律も新たに設けられた。しかし、共同親権下において各親権者が単独で行使できる監護及び教育に関する日常行為と、それを超える重要な行為の具体的内容が明示されていない。そこで、共同行使が必要となる範囲を明確にするため、政府は一般の市民に理解しやすいガイドラインや説明資料を作成し、公表すべきである。
第二に、離婚する父母に対し、離婚後の親権選択に関する適切かつ正確な情報及び円満な協議や履行を支える法的・経済的・心理的支援の提供体制が、関係各省庁連携の上で整備される必要がある。
第三に、子どもの意思を適切に尊重するためには、子どもの手続代理人制度のより積極的な活用が必要不可欠であり、そのためには、未成年者が扶助制度を単独で利用できるようにすべきである。そして、未成年者のみならず、必要な法的支援を受ける利用者のためにも、立替償還制度である法律扶助について、給付制への変更や償還免除拡充を実現すべきである。
第四に、既存の税制・社会保障制度におけるひとり親支援については、離婚後の共同親権・共同監護の導入により、子どもに不利益が生じることのないよう、立法措置含め関係各省庁において調整が必要である。
なお、要綱には次のような問題点が残っている。当連合会は、子どもの生活の安定確保という観点から、離婚後に共同親権を選択した時の監護者指定を必須とすべきと主張していたが、要綱では必須としないものとされた点、親子関係における基本的な規律のなかに子どもの意見を尊重すべきことが明記されなかった点、「親権」という用語が維持された点、一定の場合に父母以外の第三者を子どもの監護者に指定することができる制度と未成年普通養子縁組の全件家庭裁判所許可制度が採用されなかった点、当連合会が反対していた親以外の第三者との交流について新たな規律が設けられた点等については、引き続き今後の議論の対象とすべきである。
当連合会は、今後、要綱に基づく法改正にあたり、課題として挙げた諸点につき、必要な立法措置含め十分に検討・審議されること、その内容につき市民や行政機関へ十分周知されること、法施行後も定期的に検証がなされ、必要に応じて見直しが行われることを強く要請するものである。
2024年(令和6年)2月16日
日本弁護士連合会 会長 小林 元治