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伊藤塾塾長、司法の未来を危惧 形骸化したロースクールに物申したいこと

2024年02月11日 10:31  弁護士ドットコム

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法科大学院(ロースクール)制度が始まって20年。法曹志願者が減少しつつある現状について、約40年にわたって法曹養成の一角を担い、司法試験の受験指導を続けている伊藤真弁護士(65)は、「国家の危機だ」と憂える。「伊藤塾」塾長として、多くの法曹を輩出してきた。


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かねてから「ロースクールを司法試験の受験資格とは切り離し、受験の間口を広げるべき」と主張している伊藤氏は、2000年代初頭、自ら「日本一のロースクール」を創ろうと動いたことがあった。当時の構想に込めた思いを聞いた。(ライター・山口栄二)





●このままでは司法制度が崩壊する

——法科大学院制度をどう評価していますか。



とても成功したとはいえません。それだけではなく、若い人たちの法学部離れ、さらにはこの国の司法軽視、法を重視しない風潮を助長していて、このままでは司法制度そのものが崩壊するのではないか、と危惧しています。



——なぜ、失敗したのでしょうか。



エビデンスベースでの政策決定でなかったことに加えて、法曹養成について“本気で”考え続けている組織も人もないからです。能力があって、かつ高い志を持った人材をどうやって法曹の世界に導くのかということについて、誰も本気で考えていない。失敗は必然でした。



国家のガバナンスでいえば、三権のうち国会は選挙制度によって新たな人材育成が担保されているし、行政も公務員試験があって人事院がその公正さの維持を担っています。ところが、司法に関してはずっと縦割りで、司法試験は法務省、法科大学院は文部科学省、司法修習は最高裁とバラバラに人材育成をしています。



50年、100年先を見通した法曹養成の展望を考えているところはどこにもなく、それぞれ自分の組織の利益だけを主張している。そんな中で、何か熱に浮かされたような状態の中で生まれたのが、現在のロースクールです。



●幻の「伊藤塾ロー」 今は多様性の受け皿に

——昨年書かれた「失敗の原因」と題したエッセーの中で、「ロースクール制度立ち上げの際の予備校批判、塾批判は相当にこたえました」「謂れのない誹謗中傷を受け続け」「伊藤真つぶし、伊藤塾つぶしの暴風雨の中にいるようでした」などと書かれています。具体的には、どのようなことを言われたのですか。



「大学に学生が来ないのは、伊藤真のせいだ」というものから始まって、「伊藤塾では受験テクニックばかり教えている」「暗記中心で、教え方が体系的ではない」「金太郎あめのように同じような答案ばかりで面白味がない」というものまでありました。



大学の先生たちからすると、自分の学生を取られたという思いがあったのかもしれません。実際にどんな授業をしているか塾に調査にくることもなく、私の話を聞こうともせずに、先入観でそう決めつけてきました。



——そのエッセーの中では、伊藤塾が自ら法科大学院の設立に向けて準備をして、校舎や法廷教室、教授陣もそろえて、あとは設立の承認を受けるだけというところまでこぎつけた、と書いています。



今思えば、日本一のロースクールをつくって、私を誹謗中傷していた大学教授を見返したいという不純な動機もあったと思います。私も40代で、未熟だったのかな。



——「日本一のロースクール」とは、どのようなロースクールですか。



合格実績が日本一で、かつ、学生の多様性において日本一のロースクールです。つまり、法学部以外の出身者や社会人、外国籍、中卒や高卒、専門学校卒の学歴といった多様なバックグラウンドをもった学生がたくさん学び、しかも司法試験の上位合格者をたくさん出すロースクールという意味です。



——ところが、結果はまさかの「不認可」でした。



認可のプロセスに関係していたある大学教授が「伊藤真にはロースクールはつくらせない」と強硬に反対したという話を、あとから複数の関係者から聞きました。私のように修士号や博士号といったアカデミックなバックグラウンドもない人間が、司法試験に受かっただけで法学を教えるなんて、とんでもないという考えだったのかもしれません。



——今はどう考えていますか。



むしろ認可されなくてよかったと思っています。ロースクールができていたら、うちの学生にしか教えられません。今、塾生の半分は他学部生と社会人です。ロースクールができなかったことで、結果的にもっと広くすべての受験生を対象とした講義をすることができていますからね。当塾が「多様性の受け皿」 になっていると自負しています。



——幅広い受験生に教えたいというのは、どういう思いですか。



私は、日本国憲法の「個人の尊厳」や「個人の尊重」といった価値を実現するような法曹を一人でも多く育てたい。そのためには、私の講義を一人でも多くの受験生に聞いてもらいたいのです。



万が一司法試験が不合格になって、企業や公務員など法曹とは別の道に進んだとしても、「法の支配」や「法的な考え方」を共有する人が一人でも増えてくれれば、この国を支える重要な人材になると考えています。





●何歳からでもいい。学び続けること

——2011年から、法科大学院を修了しなくても司法試験受験資格が得られる予備試験が始まりました。どう受け止めていますか。



予備試験こそ本道になるだろうし、なるべきだと思いました。司法試験は、誰でも年齢、学歴に関係なく、何回でも受けられるようにするべきだと考えています。法曹の多様性こそが一番の要であり、多様な国民の権利を守るための最後の砦です。



——最近の予備試験で、伊藤塾出身者の16歳の高校1年生が最年少で合格しましたね。



中3の時にうちの塾にきました。多様性という意味では、69歳の塾生も今回最高齢の合格者になりました。法律の勉強を始めるのに早すぎることも遅すぎることもありません。



——法曹養成制度の変更という意味では、2020年から「法曹コース(3+2)」という制度が始まりました。これをどうみられますか。



法学部出身者を特別扱いするもので、法曹の多様性という視点からみると真逆の方向です。志願者の減少傾向が止まらないロースクールの生き残りのため、法学部出身者をロースクールに呼び寄せるためのものでしょう。



昨年の司法試験で在学中受験者の合格率がロースクール修了者の合格率の2倍近くになった事実から見てもわかるように、ロースクールで合格する力がつくわけではないですから、こんな対策をしても効果はないでしょう。



——法曹志願者を抜本的に増やすために、必要な対策とは何でしょうか。



司法試験の受験資格制限を撤廃することです。ロースクールは、受験資格とは切り離して、リカレント教育や地域における法教育など広く法学を広める教育に活路を見出すべきだと思います。



ロースクール修了を条件としないとなれば、司法試験自体の改革も考えるべきです。現状ではなくなっている口述試験(予備試験には有)は、あったほうがいい。法学は議論する学問です。やりとりの中で気づきがあり、正解に近づける。基礎知識は短答式で培われるので7科目に戻す。さらに、2026年からはCBT(コンピューター使用型試験)が導入されます。一律の変更で、混乱は必至です。



何度も申し上げますが、受験の回数制限は撤廃すべきです。人生を空費させないとか、深い人間性の涵養とか、国が決めるのは余計なお世話。受験生を振り回さないでほしい。



——ちなみに、司法試験合格者の数はどれくらいがいいと思いますか。



当初の目標である3000人はさすがに多過ぎると思いますが、当面1000人から1500人程度をメドにしつつ、企業内弁護士や自治体、学校など社会における法的サービスの需要を広げる活動をして法的ニーズを掘り起こしつつ、少しずつ増やしていけばいいのではないかと思います。



5大事務所に人材が集中していることには懸念があります。地方に行く人や、各省庁、NPO、NGOにもっと顧問弁護士がいてもいい。裁判官や検事へのなり手も増えてほしいです。



司法制度改革の失敗は、証拠に基づかない数値目標を立てたからでした。ニーズがどのくらいあって、そのためにはどれくらいの法曹が必要だという説得力ある説明が必要です。その上で、少しでも『合格者が増えた』というニュースを聞けば、やってみようと思う志願者が増える要因になるでしょう。




【取材協力弁護士】
伊藤 真(いとう・まこと)弁護士
1981年司法試験合格。1995年「伊藤真の司法試験塾(現・伊藤塾)」を設立。2009年「一人一票実現国民会議」の発起人となる。2016年「安保法制違憲訴訟の会」の共同代表に。昨年の司法試験合格者における伊藤塾受講生の占有率は約9割に達している。
事務所名:伊藤・呉法律事務所