トップへ

離婚後の「共同親権」を可能にする民法改正要綱案に懸念の声〈弁護士アンケート〉

2024年02月10日 08:50  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

法制審議会の家族法部会は1月30日、離婚後も父母双方が子どもの親権を持つ「共同親権」を可能にする民法改正要綱案を委員の賛成多数で取りまとめました。


【関連記事:離婚後の共同親権を可能にする民法改正要綱案、賛否の理由 〈弁護士コメント全文(1)〉】



報道などによると、2月15日の法制審議会総会で要綱を決定し、法務大臣への答申を経て、政府が今国会に民法改正案を提出することになります。



弁護士ドットコムでは、会員弁護士に、要綱案についてのアンケートを実施し、251人から回答が寄せられました(実施期間:2月2日~2月6日)。



要綱案について賛否を尋ねたところ、63.7%が「反対」、16.3%が「どちらかといえば反対」と回答し、8割が否定的な見解を示しました。



●要綱案とは?

今回の要綱案では、離婚後の協議で、単独親権か共同親権かを選択できるようになります。協議が合意に至らなかった場合、家庭裁判所が「子の利益」を踏まえ、どちらかを判断します。また、いったん合意したとしても、家庭裁判所の判断で親権者を変更することも可能です。



DVや虐待への懸念について、要綱案では、父や母が子どもの心身に悪影響を及ぼしたり、父母の一方が、もう一方から暴力や有害な言動を受ける恐れがあれば、家庭裁判所は単独親権を定めなければなりません。



●要綱案に8割が反対

アンケートでは要綱案の賛否について、63.7%が「反対」、16.3%が「どちらかといえば反対」と回答し、「どちらかといえば賛成」、「賛成」と回答した計17.6%を大きく上回りました。「どちらともいえない」は2.4%でした。





●賛否の理由

賛否の理由を尋ねたところ、以下の声が寄せられました。



【反対派の意見】「紛争が発生・拡大する」「DVや虐待への懸念が残る」



「紛争が増大する。かつ紛争解決機関の拡充は見通せない」



「別居親の希望する面会交流の実現という目的を達成する手段は共同親権ではない」



「共同養育は、親権がなくても、協力できる関係性であればできるし実際にしている人はいる」



「進学等で協議がまとまらず子どもにしわ寄せがいくおそれが強い。離婚後も力関係を引きずる。百害あって一利無しの制度」



「当事者の現状や家庭裁判所のキャパシティを考えて現実的な内容ではない」



「DVや虐待への懸念が残る。また、本来は親権と面会交流とは別問題のはずなのに、共同親権が面会交流を強要する手段として用いられかねない」



「経験則上、DV加害者ほど、離婚後も関わりをもちたいために共同親権を主張する。被害者の救済にならない」



「子どもの進学や入院・手術等で親権者の一方が同意しない場合、子どもの将来に不利益になってしまう」



「共同親権について、弁護士でさえ「親子が会えないのはかわいそう」というように、面会(監護)と親権を混同している人がかなりいる。面会は、非親権者であっても家裁手続で解決する方法が今現実にある」



「共同親権ありきで討議されていて、高葛藤の夫婦における問題が置き去りにされている」



【賛成派の意見】「原則的には、その方がいいと思うから」「国連から勧告があったから」



「原則的には、その方がいいと思うから」



「国連から勧告があったから」



「仕組みとしては賛成だが、運用が根付くのには相当な時間が必要になると思う」



「離婚してもどちらも親であることに変わりはないので」



「子どもの福祉の視点から、共同親権を認めるのが合理的で、父親に子どもの養育に責任を持たせるべき」



【どちらともいえない派の意見】「どちらの言い分も理解できるから」



「どちらの言い分も理解できるから」



「相応の養育費を支払う親(父)には、親権が認められるべきであると思います。しかし、例えば、精神的虐待を行っている場合のように、親権を否定すべき事由が、裁判手続で正当に認定されるのかという点に懸念があります」



●法案提出前の議論、8割が「尽くされていない」

政府が今国会での成立を目指していますが、法案提出前の議論は尽くされたかを尋ねたところ、「尽くされていない」が77.7%で、「どちらともいえない(15.5%)」、「尽くされた(6.8%)」と回答した計22.3%を大きく上回りました。





その理由についても尋ねています。



最も目立ったのは、現場の実態を考慮した上で、十分な議論がなされていないことへの疑問の声でした。



【尽くされていない派の意見】



「そもそも制度が意味不明」



「訴訟などの紛争の現場実態を適切に捉えたものであるといえないから」



「実態を知らない、理念先行の議論しかなされていない」



「子どもの進学や入院・手術等で親権者の一方が同意しない場合、どうするのか議論が尽くされていない」



「虐待やモラハラ(精神的DV)などを家裁が認定することは困難であるという実態をわかっていない」



「共同親権の議論は知っていたが、業界内でも十分に議論や意見が尽くされることなく、気づいたら手続がここまで来ていたという印象で驚いている」



「海外は共同親権が原則であることを強調しているが、そこで起きている悲惨な事件や状況を無視している」



「共同親権になれば、非監護親である父に自覚が生まれて養育費を払うようになるとか、双方に権利が生じるので面会交流が円滑に進むとか、実態を全く無視した主張が報道されている」



【尽くされた派の意見】



「長時間激論を交わしており、これ以上議論しても平行線」



「家族法研究会での検討、法制審議会家族法制部会での検討、パブリックコメントを経ています。共同親権の導入については2016年にも超党派から親子断絶防止法案が提出されており、かなり前から議論がされてきています。共同親権は子どもの権利条約で保障されている子どもの権利です(同条約3条1項・9条1項・9条3項・18条1項)。日本は子どもの権利条約を批准してから30年以上たっていることからも、十分議論する時間は過ぎたと思います」



●離婚の現場はどう変化するか

要綱案通りに共同親権が導入された場合、離婚当事者たちの現場はどう変化するかについて、自由記述で尋ねたところ、以下の声が寄せられました。



【紛争が長期化し、対立が深まる】



「従前の親権をどうするかという問題に加え、共同親権にするか単独親権にするかの争いも起き、紛争が長期化すると考えられる」



「例外的に単独親権を求める場合の親権争いが、いままで以上に先鋭化すると思います」



「紛争が悪化拡大する事案が増えると思われる」



【取り決めが細かくなる】



「共同親権の行使方法及び面会交流の取り決めが細かくなるように思います」



【トラブルにつながる】



「離婚後に接触する機会が増え、トラブルにつながる可能性がある」



「共同親権行使の名の下に非監護親から監護親へのいやがらせ等不当な攻撃が横行すると考えられる」



「共同親権を選択した後、子どもの生活や進路について意見が食い違い、紛争が頻発するのではないか」



「DV証明できない限り裁判で共同親権の判断がなされるようになり、支配下に置かれている一方が永遠に解放されなくなる。共同親権が円満に実施できる夫婦なら現状でも共同することができているはず」



【子どもにプラスになる】



「子どもの養育に共同していく意識が醸成され、子どもの福祉にプラスになっていくと思う」



【子どもにマイナスになる】



「子どもの保育園入園妨害など、子の福祉に反する状況の発生等」



「子を監護養育している親が進学や病気の際などに速やかに方針決定できず、子の福祉を害する」



【結婚や離婚を諦める人が増える】



「離婚のリスクを考えると、怖くて入籍できなくなると思う。事実婚が増えるのではないか」



「離婚後も婚姻時の力関係が持ち越される。DV被害者が離婚を諦める可能性もある」