山下和美、笹生那実が中心となって活動する一般社団法人旧尾崎邸保存プロジェクトより、旧尾崎テオドラ邸のお披露目会とプレス発表会が、本日2月8日に東京・旧尾崎テオドラ邸にて開催された。発表会には山下と笹生のほか、保全プロジェクトに参加した新田たつお、三田紀房、高橋留美子、福本伸行、高橋のぼるが登壇。旧尾崎テオドラ邸保存活動のこれまでの軌跡や、今後の展開について語られた。発表会後半では秋本治、永井豪、ちばてつや、大和和紀も登壇した。
2階ギャラリーには名だたる作家陣の直筆原画がズラリ旧尾崎テオドラ邸は東京・世田谷区豪徳寺に現存する築135年の洋館。1888年にイギリス生まれの令嬢・テオドラのため日本人の父である男爵が建てたと言われており、1933年には洋館を譲り受けたイギリス人文学者によって元あった港区から豪徳寺に移築された。テオドラはのちに、かつての東京市長・尾崎行雄の妻となる。
そんな旧尾崎テオドラ邸は2019年に取り壊しの危機に。しかしその品のある佇まいに魅了された山下が、なんとか保存できないかと動き出したのが旧尾崎邸保存プロジェクトだ。散歩のたびにこの洋館のかわいらしさを目にしてきたという山下は「取り壊しを聞いて、いてもたってもいられず、以前お世話になった建築家の田野倉徹也さんに相談したり、近所の方々と一緒に動いたりしたのですがなかなか難航し……。ただ、ここまできたらもう少しがんばってみようかとネットで署名活動をしたら予想外に大きな反響をいただきました」と保存活動当時を振り返る。
その後、笹生と新田が保存活動に加入したことでなんとか土地を購入。しかし建物の修繕に多大なる費用がかかることが判明する。そこでもともとプロジェクトに興味を持っていた三田が中心となり、多くのマンガ家に協力を仰ぐ形に。三田は「新田さんのご協力もあったので(自分と)2人でとりあえず最初の資金を調達したんですけど、それでも(費用が)まったく足りなくて(笑)。高橋留美子先生やゴルフ仲間の福本伸行先生、高橋のぼる先生にご相談したら快くお返事してくださいました」と話した。
また笹生は建築保存のためにクラウドファンディングも実施したと話し、「コミティアのクラウドファンディングのページを参考に一生懸命文章やグッズを考えた結果、なかなかの反響をいただきまして、当初想定していた1500万円を上回る支援をいただきました。それが何よりも心強い励みになりました」と当時を振り返る。また資材高騰により資金が不足した際も再度クラウドファンディングを行い目標額を達成できたと話し、支援者に向けて深く感謝を述べていた。三田は投資家の知り合いもいたが、山下と話していくうちにこれはマンガ家の力で成し遂げたい思いが募っていったと明かす。「マンガ家が、マンガ家の力で、マンガのために動かなくては意味がないというふうに感じたので、そこから留美子先生や高橋先生たちにお願いしていった形になります。最終的にこの7人で力を合わせてやることができたのには満足感を覚えています」と述懐した。
福田は三田から話を聞き、「今回のプロジェクトの話を聞いて、これはマンガ家の力になると思いました。力を貸すことができてよかったなと思ってます」と語る。高橋(留美子)も「こういう財産がもしも(後世に)残せるのであれば夢があることだなって思ったので、迷うことなく協力しました」と話し、高橋(のぼる)も「三田先生に声をかけられてプロジェクトに参加できて、とても光栄でうれしいです。ありがとうございます」と感謝を述べた。
今後は2階はギャラリー展示、1階はカフェやフォトスタジオ、ショップなどを展開する予定だという。ショップではマンガ家によるグッズのほか、「テオドラハウス」というブランドのオリジナル商品も登場する予定だ。また作家による直筆の生原画を海外向けに販売する通販サイトの立ち上げや、オークションの実施が予定されていることが明らかになった。
原画販売のサイトの立ち上げについて、記者からマンガ原画の保存状況について質問された三田は、「原画保存は現状、作家さん方にとってネガティブなものになりつつあります。持っていること自体がリスキーなんです」と回答。「なぜなら、自分が亡くなったときに家族に譲ろうとしても、相続税がかかるなどで孫子の代に迷惑がかかるので、作家さんたちは自分で廃棄したり人にあげたりしているんですよ。でも、日本の業界としては絵を描くことに対して前向きでポジティブな環境であってほしい。作家さんには絵を描くことに積極的になってほしい。(原画を)海外に売れるというシステムがあれば、経済的にも安定するかなと思い立ち上げました」と語る。また「引退された作家さんで、マンガは大変だけれどもイラストなら描きたいという方もいらっしゃる。その素晴らしい技術をもっと海外の人にダイレクトに知ってもらいたいです」とその思いを述べた。
通販サイトは旧尾崎テオドラ邸のオープン日と同じく、3月1日に開通する予定。大御所作家による描き下ろし原画も用意されていることが発表された。またオークションについて、実施日は未定だが、入札額がわからないシークレットオークションの形式で行われるという。
そのほか、尾崎デオトラとゆかりのある「AAR Japan[難民を助ける会]」より、山下への写真の贈呈や、実際に建物の修繕に関わった建築家からの説明が行われた。その後三田のゴルフ仲間である秋本、永井、ちばてつやのほか、大和が登壇。ちばは「だいぶ前にこの素晴らしい洋館が取り壊されるという話を聞いたとき、これはちゃんと文化として残すべきだという話をして。大賛成で私は喜んでましたけども、ただよく考えてみると、こういうことは国がやるべきことだなと思うんですよね」と述べる。
「地域の人たちがマンガの原画に触れられることができる場ができてうれしい」と話す永井は、「マンガという文化がようやく日の目を見るようになってきたと思います。これからますますマンガ文化が社会的にも素晴らしいものだというのをアピールする場になればと思っています」と明かす。秋本も「美術館的な要素もあるこの旧尾崎テオドラ邸が東京の名所となればいいですよね」と話し、デジタル化が進む中、なかなか目にすることがないマンガ家の原稿をお茶やケーキを楽しみながら見てほしいと語った。
北海道にマンガミュージアムを設立する活動を行っている大和。「西洋館といえば、やっぱり少女マンガの世界ではありますし、私も明治時代の作品を描いておりますので、こうして復元された洋館を実際に見るとこんなにも天井が高いんだと改めて思います」と館内を見た感想を述べる、また北海道マンガミュージアムの建設にあたり役所と一緒に活動していることを話し、「(お役所とは)畑違いな分野のこともありなかなかうまくいかないことも多いです。山下さんもこれを実現させるためにはお役所といろんな話をして、苦労して仕上げてきたんだと思うと、本当に頭が下がる思いです。素晴らしい行動力だと思っています」と称賛し、此度の開館を祝った。
※記事初出時、登壇者名に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。