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SNSの「#お薬もぐもぐ」現象、若手医師らが分析 闇取引、メンヘラのファッション化も

2024年02月05日 10:21  弁護士ドットコム

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薬の過剰摂取(オーバードーズ=OD)が社会問題となる中、若手の医師や薬学研究者らでつくる団体「人と医療の研究室」が、SNS上の実態を調査している。主にTwitter(現X)上の検索用語から投稿を抽出、ハッシュタグのついているものを調べた。


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発端は、メンバーの薬学部の学生が4年ほど前に着目した「#お薬もぐもぐ」という言葉。投稿を分析すると、OD経験者が使っているとみられ、特に精神科で処方される薬の違法取引の可能性がうかがわれた。



また「#お薬チャーム」というキーワードが2022~2023年に急増していることに着目。薬の包装シート(PTPシート)をモチーフとしたアクセサリーを好むユーザーが出現していることもわかったという。研究班の3人にオンラインで取材した。



●「病院は機能が限られている」

人と医療の研究室(以下、ひとけん)は、若手医療者でつくる任意団体。医師の池尻達紀氏が、臨床現場で感じた問題意識を若手医療者と共有しようと設立した。約5年間で参加した人数は延べ20人ほどだという。



特徴的なのは、彼らがそれぞれ医学・薬学・看護学などを専門としながら、社会的な側面に着目したアプローチで研究することだ。これまでにOD関連で2つの論文を発表した。Xという匿名のアカウント上であること、期間やサンプル数が少ないことなどの限界はあるものの、一定の傾向を導き出している。



高齢者の看取り、延命治療、救急のあり方など、医療をめぐる課題は数多くある。池尻氏は普段の臨床経験から「病院という機能は限られている」と実感するという。「社会にある医療問題の解決策を、調査研究を通して模索し、本質的な医療とは何かを明らかにしたい」と話す。



●本人しか使えないはずの処方薬が蔓延

「#お薬もぐもぐ」は2021年3月1日から8日にデータを収集。238件のうち、154件(64.7%)が特定の薬剤名を含んでいた。このうち107件(88.4%)は神経系薬剤で、 最も多かったのは催眠鎮静剤(83件)だった。



抽出されたのは118品目で、ほぼ全てが処方薬だった。研究班は、「#お薬もぐもぐ」は処方薬を闇市場で取引するための用語であると指摘。医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)に反した違法な取引であり、「過剰投与による死亡の大半が処方薬によるものであることから、この取引は重大な影響を及ぼす可能性がある」と結論づけた。



また「#お薬チャーム」に関しては2023年7月1日から9日に調査。2014年から2021年までは計76件だったものの、2022年から投稿数が急激に増加。2022年には40件、2023年前半には281件の投稿があった。この2022年以降の321件を分析した。



138件(43.0%)の投稿で、「#お薬もぐもぐ」という言葉も同時に使われており、関連性がうかがわれると指摘。薬剤名を抽出すると、やはりエチゾラム、ゾルピデムなど5つの精神科系の処方薬が大半を占めていたという。



一方で研究班は、精神衛生状態が悪いことをファッショナブルと考える「ファッションメンヘラ」「ヤミカワ(病みかわいいの略)」といった現象も関連している可能性があると言及、日本特有のSNSトレンドにも注目した、さらなる研究が必要だともしている。



●医師や薬剤師の役割とは

池尻医師らが論文を発表するのは、主に医療関係者にこの問題を広く知ってもらいたいと考えたからだという。違法である処方薬の取引を追跡調査して、SNS上で何が起きているのかを認識を深めることが必要だとしている。



論文では「処方薬は医療や薬学の専門家の監督下で管理されなければならず、違法な取引を行ってしまうような精神状態にある人が、精神科などの医療へアクセスできるような社会が望まれる」と提言。そのためには、単なる取り締まりではなく、社会的弱者を適切な精神医学的支援に向かわせる必要性があると指摘している。



ドイツ・テュービンゲン大学の生化学研究所で研究員として従事し、今回の一連の研究で責任著者も務める秤谷隼世氏は「ゲーム依存症の治療施設や禁煙外来などのように、OD外来のようなものがあれば、ハームリダクション(害を徐々に減らすという意味)として、健康や生活への害を少しずつ減らしていく相談ができるのかもしれない」と提案する。



同じくテュービンゲン大学病院内科で補助研究員を務める秤谷有紗氏は「ドイツの薬局には、プライベートを確保できるドア付きの個室が用意されていて、決まった時間に減薬を指導するという形態もある」と紹介した。 



池尻医師も「医師はあくまで患者の自己申告に基づいて処方しており、規制や管理は医療者の主たる役割ではない。しかし、この調査結果を積み重ねて社会に発表することで、安易な過剰処方に気を付ける啓発になればいい」と説明。総合診療医や薬剤師など日々、患者に直接向き合っている医療者に知ってほしいと呼びかけた。



論文の全文は英語のみだが、以下で読むことができる。



「日本でのお薬チャームという動き X上での処方薬アクセサリーの出現」br><https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.666



「日本のツイッターを通じた医薬品の違法取引に関する調査」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/142/8/142_22-00048/_article/-char/ja/



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