F1は、オランダのビール醸造会社『ハイネケン』がスポンサーとして公式パートナーのひとつになって以来、大手ビール会社がノンアルコール飲料を宣伝するための主要なマーケティングツールとなった。なお、ハイネケンとの契約は、2016年半ばにバーニー・エクレストンが最後にF1のためにまとめた大きな取引だった。
ハイネケンは、オランダの国民的英雄であるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)がレースに勝ち始めていた時期にF1に多額の投資を行ったが、それは画期的な契約を締結した一番の理由ではなかった。ハイネケンはF1をノンアルコール商品を宣伝するのに最高の舞台として特定したのだ。
彼らはすぐにパドックに独自のエリアを設け、ノンアルコールビールを誰でも飲めるようにした。そしてジャッキー・スチュワートからデビッド・クルサード、ニコ・ロズベルグ、そしてもちろんフェルスタッペンまで、現在および過去のトップドライバーを多数広告に関与させ、この新しい市場への扉を効果的に開いた。
その時流に乗ったスペインの『エストレージャ・ガリシア』は、マドリード出身のドライバーであるカルロス・サインツとすぐに手を組み、ルノー、マクラーレン、そしてフェラーリへと移籍するサインツについて行った。しかしフェラーリが最近、イタリア国内のノンアルコール・ビール『ペローニ ナストロアズーロ0.0%』との新たなパートナーシップを発表したため、エストレージャ・ガリシアとスクーデリアのパートナーシップは終了することに。同ブランドはマクラーレンと再提携している。
なお、フェラーリと組んだペローニ ナストロアズーロはイタリアのブランドとして広く認識されているが、日本のアサヒビールが、2016年にアメリカのビール大手のミラー社から同ブランドを買収。現在まで所有している。
ペローニ ナストロアズーロはここ数年、アストンマーティンと提携していた。これをフェラーリにスイッチした背景には、イタリア国内での同ビールの知名度を高める目的がある。
一方、エストレージャ・ガリシアはこれと逆の道を歩み、アストンマーティンと契約を締結し、スペインの国民的英雄であるフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)を新しいブランドアンバサダーに起用する可能性が非常に高いとみられている。これが実際に行われたなれば、スペインのビール会社によるなんと見事なマーケティング戦略だろうか!
ハイネケン、エストレージャ・ガリシア、ナストロアズーロはF1マシンとレースによって宣伝されている唯一のノンアルコールビールではない。2019年初頭にキミ・ライコネンがザウバーに加わって以来、さまざまなチーム名を経たチームは、タイのビール大手『シンハー』と提携しているし、アメリカの『ミケロブ』は2023年からウイリアムズのスポンサーを務めている。
そして今年のグランプリレースで、さらにいくつかの新ブランドが加わるうわさがあり、チームにも利益をもたらす“ビール戦争”に突入する可能性がある。