2024年02月02日 10:21 弁護士ドットコム
「階段をのぼろうとしたら、2段目がグラついていて転倒した」「道路に穴があり、足がハマってコケた」。弁護士ドットコムには、道を歩いていたり、自転車や車で走行したりしている最中に事故に遭った人から「道路管理者を訴えたい」との相談が複数寄せられている。
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本人の不注意と済まされてしまう場合もあるかもしれない。しかし、状況によっては国や地方公共団体などの道路管理者が責任を問われることもあるようだ。
どのような場合であれば、賠償請求できるのだろうか。過去の裁判例を振り返る。
転倒して怪我や後遺症を負ったとしても、ただちに道路管理者の責任が問われるわけではない。歩行者が2015年に約2センチあるマンホールの段差につまずいて転倒し、脳出血を発症したなどと主張した事案について、東京地裁は設置・管理に「瑕疵があったとは認められない」とし、次のように述べた。
「通常は、足元に注意を払って歩行し、段差等による一定の危険については自力で回避することが期待されているものというべきであって、道路につまずきの危険のある段差がある場合に、直ちに当該道路が通常有すべき安全性を欠くと評価することはできない」 (東京地裁2020年3月18日判決)
歩行者または運転者が亡くなった事案についても同様だ。賠償請求したとしても、原告側の訴えが認められるとは限らない。以下では、判決で認められた事実関係と概要を引用する。
・歩行者が午後8時ごろ、道路からコンクリート製の護岸に転落し、死亡したケース
道路を通行する自動車や歩行者は極めて少なく、歩いている人の多くは状況を熟知した近隣住民だった。護岸を設置してから50年以上、住民から防護柵設置の要求や転落事故もなかった。死亡した歩行者は生まれたときから近くで生活し、事故時は懐中電灯などを持たずに歩いており、一審の奈良地裁葛城支部は「社会通念上要求される歩行をすれば、路外に転落する危険性がなかった」と判断、大阪高裁も控訴を棄却した。 (一審:奈良地裁葛城支部2018年3月23日判決、控訴審:大阪高裁2018年8月30日判決)
・自転車で午後10時55分ごろに高架式車道に設置されている坂道を下り、鉄柱に衝突・転倒して死亡したケース
鉄柱は坂道を下りきった道路中央にあり、付近に街路灯はなかった。福岡地裁は、▽15メートル手前の時点で鉄柱を確認できること▽スピードを出していたと認められること▽運転者が忘年会の帰りで飲酒による注意力等の低下も否定できないことーなどから、鉄柱や坂道道路の設置・管理の瑕疵は認められないとした。 (福岡地裁2011年8月23日判決)
どんなときでも「歩行者や運転者が悪い」と判断されるわけではない。飲酒運転をしていた場合でも、道路管理者に有責性が認められたこともある。
午前2時ごろ、酒を飲んでいた歩行者がコンビニと歩道の間の側溝に転落して死亡した事案では、設置・管理に瑕疵があったとして、一部、自治体などの責任が問われた。側溝に蓋などはなく、転落した場合は重傷または死に至る可能性があると指摘された。
富山地裁(2014年9月24日判決)は、▽通常の歩行者であれば注視することで転落を回避できたこと▽亡くなった歩行者が「飲酒酩酊により注意力及び判断力が減退した状態にあり、このことが本件事故の発生に寄与した程度が大きいことーなどから、「過失割合は8割とするのが相当」とした。控訴審(名古屋高裁金沢支部2015年5月13日)・最高裁(2016年2月5日)も同じ過失割合を示している。
一方、歩行者や運転者の過失はゼロと判断された事案もある。
・マンホール近くで最大7センチの沈下が生じていたため、原動機付自転車を時速30kmで走行中の運転者が転倒し、負傷した事案 「本件マンホール付近は比較的緩やかな勾配となって約7センチメートル沈下しているものであり、事故当時、その周辺はかなり暗かったため、これを時速約30キロメートルと比較的安全な速度で走行していた原告が前方の注意を尽くしても、早期に認識して回避又は制御行動をとることは著しく困難であったと認められ、原告に前方注意義務違反の過失はない」 (東京地裁2010年10月28日判決)
・道路で車を走行中、直径約70センチ・深さ約10センチの窪みによって車両が損傷した事案 「道路の幅員、窪みの大きさや位置、原告車の幅や車輪の大きさを踏まえると、原告車がハンドル操作によって窪みを回避することは物理的に容易でなく、事故発生時の現場は暗かったことも考慮すると、ハンドル操作によって事故を回避することができたとは認め難い」 (大阪地裁2018年2月1日判決)
このように、損害賠償が認められるかは道路や街灯など周辺の環境や時間帯、運転者の状況などによって変わる。「道で転んだのは不注意のせいなのだろうか」「道路にも問題があるのでは」とモヤっとした場合は、法律の専門家に相談するのもひとつの方法だろう。