本人が昇進を望んでいても、長い間納得できないポジションに甘んじる人もいる。インフラ関連の優良企業に約30年勤務する50代の男性(年収1000万円)は、入社してわずか4年目から左遷のような状態が断続的に続いているという。
「大卒であれば、現場事務所から支社、やがて本社へといったサイクルでステップアップするのが普通です。実際、同期は順調に出世していますが、自分だけステップアップしないまま現場事務所を20年近くもたらい回しにされ……。結果として、現在は同期の部下として顎で使われる日々です」
こう悔しさをにじませる男性は、有名難関大学出身だ。年収についても、
「同期は恐らく1500万円くらいで、500万円ほど差がついていると思います」
といった会社からの扱いに納得いかず、「左遷の原因は全くわかりません」と明かす。ただ、編集部が男性に当時の状況を取材したところ、思い当たるトラブルはあったようだ。
「上司に『役人根性』などと暴言を吐いたこともあります」
男性が明確に「左遷された」と感じた瞬間は、勤続30年の間に2回ある。4年目で出世コースを外れたと感じたものの、35歳のときには現場課長に昇進。同期とは「横一線」に戻ったというが、残念なことに39歳から再び差がつきだした。きっかけは入社16年目のことだった。
仕事で成果を上げていたが、部署のトップが男性のやり方が気に入らず猛烈に批判を浴びた。
「当時私は、古くて保守的な企業風土とお客様の求めるものが噛み合わないことに疑問を感じていました。そのため職場の抵抗をシャットアウトしながら新しいやり方を強引に進めたんです。しかし私の部署のトップは考え方が古く、意見は噛み合わないままでした」
「結局問題は解決せず、上司には最後まで嫌味ばかり言われることに……。激しく批判された悔しさから、上司に対して『改革の波に乗れていない』『お客様第一主義ではない』『役人根性』などと暴言を吐いたこともあります」
実は結構な摩擦を生む言動をしてしまっていた。また「苦情対応で相手を怒らせて、本社へ名指しでクレームが入り……」というやらかしもあったという。結局
「その時期にC評価を2年連続受けたことは忘れられません。これ以降3年ほどトラブルが相次ぎ事実上の降格。現在に至るまで現場主任のままとなりました」
と不遇の時代が続いている。
「有名大卒なのにそんなこともできないのか」
そんな境遇の中、転職は考えなかったのだろうか。男性は1度目の左遷状態のとき、「転職するには資格が必須」と聞き、資格取得へ動いた。数年後に行政書士試験に合格したものの……。
「『行政書士資格では食えない』と言われ、悶々としているうちに30歳を目前に外資系コンサルを受けるも不合格でした。それから転職活動を続けましたが、『30歳からのキャリアチェンジは困難』と転職エージェントから言われ、泣く泣く会社にしがみつき今に至ります」
家族の反対もあり、転職は断念せざるを得なかった。男性は苦い過去と思いをこう打ち明ける。
「昔から『組織に合わない』と言われてきましたが、ここまで学歴カードが役に立たないことをようやくわかってきました」
「世間で名高い高学歴ではありますが、逆差別も嫌というほど味わっています。これまで、『有名大卒なのにそんなこともできないのか』とか、『人の気持ちもわからないのか』『先読みできないのか』『頭わるいんとちゃう?』といった言葉を、下位大学卒や高卒からよく言われました」
新卒で入社後は「有名大卒であれば順調に出世できる」と思っていたというが、
「合わない風土では出世できず、疎まれるだけというのを感じます。もともと協調性がなく、もくもくと静かな環境を好む性格。他部署や関係者との連携なんてもってのほか。それだったら最初から専門学校に行ってIT技術者になったほうがむしろ得だったのか、家族を不幸にさせずに済んだのか……」
と後悔を語った。
「起業に向けて突き進もうと思っています」
それでも、男性の心は折れたわけではない。未来に向け、こんな決断をしたことを明かしてくれた。
「親をはじめ家族から何度も転職や起業に反対されましたが、資金ができたので、今回ばかりは起業に向けて突き進もうと思っています。もう50代。後戻りはできません」
会社にはすでに退職の意向を伝え、起業に向けて着々と準備を進めている。ちなみに、退職金は
「満額なら2200万円の予定でしたが、自己都合退職のため5割減額され1000万円強と見積もっています」
と大幅に減る。起業後しばらくは家にいて、スキマ時間で早朝夜間のアルバイトや副業で生活費を稼ぐことを考えているという。そんな状況ではあるが、
「資産は昨年FPに診てもらったのですが、働かなくても平均寿命までは暮らしていける、とのことでした」
と余裕の構えだ。キャリアチェンジを早めにしなかった後悔はあるが、そのおかげで今後はマイペースに仕事ができる環境を手に入れたとも言えそうだ。
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