2024年01月30日 10:11 弁護士ドットコム
側溝に入り女性のスカート内の覗き見や、盗撮をしたとして、性的姿態等撮影罪、兵庫県迷惑防止条例違反で起訴された30代の男性に対して、神戸地裁は2024年1月26日、懲役1年6月(求刑同じ)、保護観察付き執行猶予4年の判決を下した。
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被告人は過去10年で、同様の行為で3度罰金刑を受けていた。2015年の逮捕時には「生まれ変わったら道になりたい」と供述したと報じられ、多くの関心を集めたこともあった。
判決の最後に裁判官は「引き続き周りの助けを借りて、二度とこういうことのないように」と説諭した。被告人の主張と周囲の支援環境について裁判で明らかになった内容をお伝えする。(裁判ライター:普通)
被告人はやや恰幅の良い男性。髪は一部茶色に染めるなどしているが、実年齢より少し上の年代に感じられた。更生支援計画に基づき、保釈と同時に入院をしている。
起訴されている内容は大きく2点ある。1点目は神戸市内の地下道の側溝に録画状態のスマートフォンを設置し、12名のスカート下からの下着部分を撮影した疑いの性的姿態等撮影罪。そして計3回、同じく神戸市内の側溝に自らが入り、スカート内の下着を覗き見した兵庫県迷惑防止条例違反だ。被告人はいずれの事実も認めた。
設置したスマートフォンは、通行人が発見して警察に通報した。その際、被告人は近くの別の側溝に隠れていた。スマートフォンが発見されたことを認識し、逃亡を図った。しかし、その5日後にはまた側溝に入ってしまった。
防犯カメラには、被告人が側溝に入る様子が映されていた。女子学生の登校、下校の時間帯に侵入しており、早いときは朝5時台から4時間以上も側溝に入っていた。捜査機関もその3回の侵入時の防犯カメラを精査し、延べ110名以上の人物が通ったことを証拠化しており、根気のいる捜査であったことが想像される。
警察などの取調べに対して被告人は、「側溝には中学生のころから入っている」、「20年以上で1000回は超えている」などと供述した。しかしその一方で、「前回の罰金刑のあと、自助グループに参加して少し思いは軽くなっていた」、「カウンセリングや入院などもしており、どうしたら治せるのか考えたい」など、更生の意欲を見せていた。
弁護人は2名の証人を申請した。1人目はこれまで200件以上の性的加害者の治療支援を行ってきた生活支援員であった。
被告人の支援には7年前から携わっているが、被告人本人が自助グループへの参加を途中で拒んだこともあり、強制力を持てない支援体制においては月一度の面談のみの関わりとなっていた。
しかし、今回の事件を機に被告人から連絡が届くようになった。これまでは証人が支援の連絡をしても返事が来ることはなかった。保釈後は被告人による任意での入院措置となり、定期的に被告人をはじめ主治医、行政の相談員、弁護人など7名前後の大規模な支援会議を行っている。退院時期は、全ての更生環境が整うまで未定とし、裁判所には短期、中期、長期でのそれぞれの再犯防止に向けた更生支援計画書を提出した。
続いて証言台に立った被告人の母は、これまで罪を犯した際に病院の精神科へ通院をしていたものの効果が見えず「どうしたらいいのかという思いが正直のところだった」、「自分の育て方に問題があったのか」など苦悩を打ち明けた。
支援会議には母親も参加している。その中で、「誰かに止められるのでなく、被告人自らで感情のコントロールや考えることが大事」と学んだ。これまで更生を願うばかり、言い過ぎてしまうことがあったと後悔の言葉を述べる母親。今後は介入し過ぎない適切な距離を意識しつつも、家族として長期の支援を継続すると約束した。
弁護人からの被告人質問では、多数の被害者を出していることに謝罪の言葉を述べたあと、側溝に入るきっかけを語った。当初は性的目的ではなかったが、中学生の時に探検として潜っていた際に、上を見上げたら女性のスカートがあったことがきっかけであったと供述した。路上を女子学生が通っているのを見かけると欲求を抑えられなかったという。
被告人自身は、側溝に入る行為をやめたい思いはあるとも明かした。過去にも性加害者向けのプログラムに参加したが、参加期間中に側溝に入ったことを厳しく咎められてから、参加することが嫌になった。事件当時も仕事の関係で「自分なんてどうなってもいい」という感情であったと供述した。
検察官は、被告人の常習性と規範意識の欠如に焦点を当てた質問を行った。
検察官「路上設置のスマートフォンが見つかったのに、後日すぐ側溝に入ってバレると思わなかったのですか」
被告人「思いましたけど、我慢できなくて」
検察官「1年前に罰金刑を受けてから側溝には何回入りましたか」
被告人「5回くらいです」
検察官「側溝に入る前に、もっと重い罪になるとは思いませんでしたか」
被告人「思いませんでした」
裁判官は現在の入院状況について質問していった。
入院から一月ほどで、散歩の許可が出るようになりストレスの発散をしている。散歩中には側溝が目に入ることがあるが、やはりまだ入りたくなる気持ちはあるという。しかし、意識的に側溝がある場所へ行かないようにしたり、入りたい気持ちが芽生えたことは周囲に話していると供述した。
裁判官は最後に「もう罰金では済まない。刑務所が近いことはわかりますね?」と、被告人に確認した。
判決では、過去の罰金前科に加え、女子学生が多く通る道を選んでいる一定の計画性と、覗かれていると想定できない場所での犯行は日常的な生活の安全へ悪影響を及ぼしたと非難した。一方で、被告人自身が入院治療を行うなど更生の意欲を見せている点、支援機関のサポートが充実していると考えられる点があることから、保護観察付き執行猶予4年になったと述べた。