2024年01月24日 19:11 弁護士ドットコム
若年女性の支援団体「Colabo」代表の仁藤夢乃さんが、2022年7月に安倍晋三元首相の殺害事件を受けてツイッター(現X)で発言した内容をめぐり、「射殺された安倍氏は〝自業自得〟と主張」という見出しをつけた記事を掲載したデイリースポーツに対して、名誉毀損等にあたるとして損害賠償を求めていた訴訟の判決が1月24日、東京地裁(國分隆文裁判長)であった。
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東京地裁は、見出しは「仁藤さんの社会的評価を低下させるもので名誉毀損にあたる」と認定。また、見出しおよび記事が、仁藤さんのツイートに関する名誉声望保持権(著作者の名誉・声望を害する方法で著作物を利用されない権利)を侵害したとして、デイリースポーツに計22万円の支払いを命じた(請求額は220万円)。
判決後に都内で開かれた記者会見で、仁藤さんは、この記事を契機に「見出しだけを見たと思われる人から私に対しても殺害予告などが多数きた」と述べたうえで、「こういうことをしたらダメなのだとしっかり裁判所が判断してくれてよかった」と評価した。
判決によると、仁藤さんは安倍元首相殺害事件があった2022年7月8日、次の内容をツイッターに投稿した。
<暴力を許さず抵抗する活動を私も続けているが、今回のような事件が起こりうる社会を作ってきたのはまさに安倍政治であって、自民党政権ではないか。敵を作り、排他主義で、都合の悪いことは隠して口封じをし、それを苦にして自死した人がいても自身の暴力性に向き合わなかったことはなくならない。>
<弱い立場にある人を追いやり、たくさんの人を死にまで追い詰める政治を続けてきた責任は変わらない。「誰の命も等しく大切」と多くの人が言う今、人の命の重さは等しくないんだなと感じさせられてしまう。>
<参議院選ではそういう社会を変えるために活動する人や政党に投票したいが、どの政党も女の人権は後回し。家やお金や頼れるつながりがなく、賃金も安く社会構造の中で性売買に追いやられる女性の人権より、女の性を商品化する業者や買う側の「権利」を守ろうとする人が複数の野党から出ていて絶望する。>
デイリースポーツは翌7月9日、同社が運営するウェブメディア「よろず~ニュース」に<活動家・仁藤夢乃氏、射殺された安倍氏は〝自業自得〟と主張 参院選での「女性の権利」軽視にも怒り>という見出しで、これらツイートをほぼ全文引用するかたちの記事を配信した。
デイリースポーツ側は裁判で、一般読者は通常、見出しだけでなく記事の内容も通読するから、記事の見出しは配信者(デイリースポーツ)がつけた要約であると理解するので、名誉毀損にはあたらないと反論した。
しかし、東京地裁は、ネットニュースの一般読者は、記事の見出しだけを読んで「本文を読まない者が少なくない」と指摘し、「見出しによる印象に影響され易いことはままあり得る」として、デイリースポーツ側の反論を退けた。
また、「射殺された安倍氏は〝自業自得〟と主張」とした見出し部分は、ダブルミニュート(〝〟)で語句を強調しており、仁藤さんが人命軽視の思想を持つ人物であるとの印象を与えるもので、仁藤さんの社会的評価を低下させたとし、名誉毀損にあたると認定した。
さらにデイリー側が、仁藤さんの著作物にあたる各ツイートを利用したことは「報道の目的上正当な範囲内」としたものの、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、本件見出し・記事が仁藤さんの社会的評価の低下をもたらすような利用であるとし、著作権法上の名誉声望保持権を侵害すると判断した。
この記事の見出しの配信が約4時間にとどまることなども考慮すべきとしたうえで、デイリー側に対して、計22万円の支払いを命じた。
仁藤さんの代理人をつとめた神原元弁護士は会見で、東京地裁の判決について「非常に高く評価している」と話した。
「今回の判決は、とりわけジャーナリストの方々によく精査していただきたいです。他人の投稿を自分勝手に要約して、わざと刺激的な見出しをつけてお金儲けをしちゃダメですよという判決ではないでしょうか」(神原弁護士)
仁藤さんは「ものを言う女性に対して口をふさぐような攻撃だと思っている」と語気を強める。
「大手メディアが読者を誤解させるような見出しで、(私への)攻撃をあおるような記事だったと思います。見出しだけしか見ない人がいるとわかっているからこそ、過激でセンセーショナルな見出しをつけたのではないでしょうか。
こういうことが許されるような社会ではあってはいけないと思い、今回提訴しました。今後は同じような被害、また誹謗中傷などが拡大しないためにも、『こういった見出し・記事はダメ』としっかり裁判所が判断してくれてよかったと思っています」(仁藤さん)
仁藤さん側は高く評価できる判決だとして、自身から控訴することは現時点で検討していないという。
デイリースポーツの担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に「判決文をまだ見ていないのでコメントできない」と話した。