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松本人志さんVS「文春」裁判どうなる? 実際に「5億5000万円」の賠償金が認められる可能性は?

2024年01月24日 12:21  弁護士ドットコム

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ダウンタウンの松本人志さんが一般女性に性的行為を強要したと「週刊文春」が報じたことを受けて、松本さんは発行元である文藝春秋などを相手取り、損害賠償と訂正記事の掲載を求める裁判を起こした。その請求額は5億5000万円という。


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松本さんの代理人弁護士は、吉本興業の公式ホームページを通じて「『性加害』に該当するような事実はないということを明確に主張し立証してまいりたいと考えております」とコメントしている。



一方、文藝春秋は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「一連の記事には十分に自信を持っています」と回答しており、双方一歩も引かずに、裁判では真っ向から対立するとみられる。



今後、この裁判はどのように展開するのだろうか。名誉毀損にくわしい中澤佑一弁護士に聞いた。



⚫️なぜ5億5000万円の高額請求に?

——松本さん側は5億5000万円の損害賠償を求めているとされます。なぜこのような金額になったと考えられますか。



名誉毀損を理由とする損害賠償請求では、精神的苦痛を金銭評価した慰謝料が認められることが多いです。ただし、日本の裁判所は精神的苦痛をあまり高く金銭評価せず、一般的な慰謝料相場はあまり高くはありません。



一般人が被害者となった裁判のケースでは50万円前後が一つの相場になっています。著名人や特別な理由があるケースでは数百万円の慰謝料が認められたケースもありますが、慰謝料100万円を超えると顕著に「高額な事例」という印象になります。



また、精神的苦痛とは別に、名誉や信用が傷つけられたことで財産的な損害が生じることもあります。予定していた仕事や取引がキャンセルになり、売上減少や営業損失となった場合などが代表例です。



この財産的な損害については、慰謝料とは別次元に高額になることもありえます。5億5000万円という請求額は、この種の営業損失を請求するものだろうと思われます。



——では、5億5000万円が認められる可能性はあるのでしょうか。



名誉毀損による営業損失を損害賠償として請求する場合、具体的な名誉毀損表現と、具体的な営業損失との間に「相当な因果関係」が必要です。



単純に売上が減ったというだけでは足らず、「名誉毀損以外にも原因があったのではないか?」「名誉毀損が原因だとしても同趣旨の別の記事の影響ではないか?」など、他の可能性を排斥することが求められます。



記者会見での発言が名誉毀損と認められた裁判例(東京地裁令和5年2月28日判決/いわゆる農業アイドル事件一審)では、「売上げの下落が、本件広報活動及び本件記者会見に基づく報道の影響によるものであるとは言い切れない。むしろ、・・・(中略)・・・本件広報活動が行われるまでの間にされたメディアの報道の影響を受けた可能性があるといえる」として、先行する報道があったことから記者会見と売上減少の因果関係を否定しています。



売上減少に至るようなケースでは、多くのネガティブな記事が出てきますので、具体的な因果関係を立証することは非常に難しいと言えます。



ただし、松本さんのケースでは、それまでまったく同種の表現がないところに今回の週刊誌記事がでましたので、実際に5億まで積みあがるかはわかりませんが、具体的に決まっていた仕事がキャンセルになった分との因果関係の立証に成功する可能性もそれなりにあるのではないかと思われます。



⚫️記載内容の真実性は週刊文春側に立証責任

——松本さんの代理人弁護士は「今後、裁判において、記事に記載されているような性的行為やそれらを強要した事実はなく、およそ『性加害』に該当するような事実はないということを明確に主張し立証してまいりたいと考えております」とコメントしています。今後、どのような裁判の展開が予測されますか。



芸能人としてのレピュテーション(評判)の問題があるため、別角度から考慮されている可能性もありますが、名誉毀損訴訟として考えると「性加害」は評価を含んだ概念であり、「性加害」があったか否かということを訴訟の主題に置くのは、原告として得策ではないと思われます。



原告の認識はそうかもしれないが、それは「性加害」と評価されてしかるべきだといった反論がありえるからです。



そのため、週刊誌記事の中で「性加害」とされた具体的行為なり、具体的な出来事が記載された部分が問題視されているのではないでしょうか。この部分が真実と言えるか否かが訴訟の大きな争点になるでしょう。



記載内容の真実性は、被告である出版社側に立証責任があります。したがって、ニュースソースである告発女性の証人尋問なども含め、事実関係に関する審理がおこなわれそうです。



また、真実であることの立証に出版社側が成功しなかった場合でも、相当の根拠をもって記事内容を真実だと信じていたと認められる場合には、記事は違法ではあるものの、損害賠償責任までは負わなくていいという結論もありえます。



出版社側は記事内容に自信があるとのことですが、念のためこの真実と信じた相当の根拠についても主張すると思われます。



——松本さんが勝訴するとしたら、どのような場合でしょうか。



金額はともかく、損害賠償が認められるラインを勝訴とする場合、記事内容のうち「性加害」に関する具体的行為なり、具体的なできごとの重要部分に関する出版社側が立証に失敗し、かつ真実と信じた相当な根拠も認められないとなることが必要です。具体的には、告発女性の発言内容の信用性が否定されるなどの場合です。




【取材協力弁護士】
中澤 佑一(なかざわ・ゆういち)弁護士
発信者情報開示請求や削除請求などインターネット上で発生する権利侵害への対処を多く取り扱う。2013年に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル(中央経済社)』を出版。弁護士業務の傍らGoogleなどの資格証明書の取得代行を行う「海外法人登記取得代行センター Online」<https://touki.world/web-shop/>も運営。
事務所名:弁護士法人戸田総合法律事務所
事務所URL:http://todasogo.jp