Text by 寺内暁
Text by 生田綾
さらば青春の光やヒコロヒー、みなみかわら人気芸人が出演するコントドラマ『インシデンツ』のシーズン2が、1月19日からDMM TVで配信された。「地上波では放送できないコント番組」をコンセプトに、数多くの人気コンテンツを送り出してきた佐久間宣行がプロデュースを手がけている。
シーズン1では、ストーリーの中盤から、世の統制を図るため笑いを取り締まろうとする架空の軍事国家・NEPPON軍とコメディ集団の攻防が描かれ、物語は予期せぬ展開を迎えていった。シーズン2は完全新作となり、前作とはまったく異なる世界観が描かれるが、「コントとドラマの融合」は本作でも健在だ。
佐久間が『インシデンツ』で挑戦したかったこととは? 本作の手応えや「地上波では放送できない」というテーマ、コンプライアンスについての考えについても聞いた。
―シーズン1作目とは異なる完全新作ということで、今回はまったく異なるストーリーになっています。シーズンものだと続編にしたり、前作とストーリーを関連づけたりすることもできると思うのですが、なぜまったく違う話にしたのでしょうか?
佐久間:2作目はとにかく1作目とはまったく違うことをやろうと思っていました。もともと『インシデンツ』自体が見ていて驚くような構成の企画なので、1と同じことをやっちゃうと魅力が半減してしまうなと思いました。ストーリーとしては1と関係なく、2から見ても楽しめる。むしろ2から見てもらっても良い、みたいな内容にしようと思っていましたね。
1作目は、コントは劇中劇で、ドラマ全体としては笑いを禁じられた国になっていくというストーリーがある話だったんですが、今回も危険なことはたくさんあるけれども、とにかく6話を通して楽しいコントドラマをつくることを目指しました。だから出演者もすごく多いんですよ。よくこれだけたくさんの芸人や俳優が出てくれたなと思います。
佐久間宣行(さくま のぶゆき)
1975年、福島県生まれ。テレビプロデューサー、演出家、ラジオパーソナリティ。「ゴッドタン」や「あちこちオードリー」(ともにテレビ東京系)などを手がけ、2019年からラジオ「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」のパーソナリティを担当。YouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」も大人気。著書に『佐久間宣行のずるい仕事術』(ダイヤモンド社)など。
―違うストーリーにするにせよ、2で引き継がれていた部分もあるんじゃないかと思いますが、『インシデンツ』らしさを出すためにどういうコント番組にしようと思っていましたか?
佐久間:1作目を配信したあと、いろんな芸人さんからああいったかっこいい感じのコントに出たかったと言ってくださって。じゃあ出てもらおうと思って、いろんな芸人さんや俳優さんのコントを増やしました。ドラマみたいなルックで、テレビではできない内容のコントをやることをみんなが楽しんでやってもらえたらと思っていました。
―軸となるストーリーがあって、そのストーリーに関連したコントがあって……という構造もインシデンツらしいつくりなのかなと思いました。
佐久間:そうですね。今回は特にちょっと古めのドラマというか、2000年前後のギャングものの映画のテイストを意識しました。2000年代のガイ・リッチーの作品のテイストを編集のなかに少し残していたりしますね。
僕とか、監督の住田崇さんもそういう作風が好きで、ビールを飲みながら見れちゃうみたいな感じのものをつくろうと思っていました。『インシデンツ』のコントからドラマにつながっていくという構造がそういったテイストにすごく合うなと思っていて。コントを通して、人間的にダメな部分を含めてまず登場するキャラクターを知ってもらって、そのキャラクターたちがあるトラブルに巻き込まれていくという構造。でもコントのノリは残している……みたいなことに挑戦してみたかったというか、やってみたかったんですよね。
©️DMM TV
『インシデンツ』では脚本をオークラと土屋亮一、コント脚本を岩崎う大と渡辺佑欣が担当し、お笑い界の注目作家が参加。バカリズム主演ドラマ『架空OL日記』などで知られる住田祟が監督を務めた。
―『インシデンツ』は、「地上波では放送できないコント番組」を謳っていますよね。
佐久間:ドラッグとか暴力とか下ネタもたくさん出てきますからね。
―コンプライアンスという点で、やっぱりこの『インシデンツ』シリーズを地上波テレビでやることは難しいんでしょうか。
佐久間:そうですね。やるとしても時間帯は選ぶんだろうなというのと、多少犯罪絡みのコントが多いのでノンスポンサーの枠じゃないとまずできないでしょうし、見たくない人がいたとしても不意に飛び込んでしまう地上波テレビという場所だとなかなか難しいんじゃないかなと思っています。
ただ、表現の内容としてはむやみに人を傷つけるものではないと思っていますし、差別とかに抵触しているわけじゃないと思っています。だからコンプライアンスという意味で「絶対にNG」とはじつは思っていないんですが、取り扱っている題材とネタ自体は地上波じゃできないことだろうなと思っています。
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―そうですよね。正直、最初に「地上波では放送できない」というテーマだけを見たときに、「タブーに挑戦」というか、誰かを傷つけるような表現とかがあったらどうしようみたいな気持ちを持ってしまったのですが、見てみたら、恥ずかしながらそれはまったく杞憂だったなと思ったんです。
佐久間:いろんな人が気持ちよく笑えるようなワクワクする内容にしたいと思っているので、ただ題材自体が地上波では扱いにくいものにしてるという感じで、そこは全然違うと思いますね。「タブーに踏み込む」ということが、差別とかに踏み込むというのはいつの時代だってダメだろうと思っているんです。「地上波でやれないこと」をやるとなったとき、それがいじめとか、虐げられているマイノリティの人を傷つけることだとは思わないです。
―コンプライアンスと言えば、「最近どんどん規制が厳しくなって、窮屈になって……」みたいに捉えられがちだと思います。ただ、佐久間さんはあまりそういうふうに考えていないように感じるのですが、どうでしょうか。
佐久間:そうですね。変な話なんですけど、僕は『ゴッドタン』という本当にくだらない番組をたくさんつくっていて、20年ほど前から怒られるようなことをずっとやっていたので、コンプライアンスが急に厳しくなったという実感がそもそもないんです。というか、どんなネタでも笑える人と笑えない人がいるということをお笑いの番組をつくり始めたときから思ってるんですよ。
笑いってある程度は暴力性をはらんでるものだから、そもそも傷つかない人はいない。大事なのは、傷つかない人はいないということをわかりながらつくっていくことだと思います。
この部分は無闇に傷つけていないかとか、傷つけてしまう可能性があるとしてもそれはこういう内容で、覚悟を持ってこの表現をやっているんじゃないかとか、しっかり考えることで。これはじつはお笑いだけじゃないと思うんですよ。小説に出てくる真面目な内容にだって、感動的なドラマにだって、あらゆる表現すべてが暴力性をはらんでるというか、人を傷つける可能性がある。それをちゃんと意識してやっているかということと、あとはその気持ちをつねに持ちながら、まわりや社会を見ているかということのような気がしているんですよね。
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―以前インタビュー(*1)で「この表現は笑いと傷つきどっちが多いかということを考え続けている」という話をしていて、そういうことをすごく考えながら線引きをしていってるのかなと思いました。
佐久間:そうですね。その線引きはすごく考えてますし、それがわかっていないスタッフには結構ちゃんと説明します。ここの部分のこの言い方だと、この出演者は意図していないけれどこう受け取られてしまう可能性があるから、ここの部分は編集でカットするか、注釈をつけるようにしようとか。
近い話で最近あったのは、『あちこちオードリー』であるアイドルが別のアイドルのことを例え話に出して、そこはウケてるんですけど、そのあとにアイドルの方が「さっきの言い方だと誤解されて悪く言ってしまってるようになるかも」と言っていて。最初の編集ではその部分がカットされていて、ウケたところだけで終わっていたんですよ。ディレクターに、ウケた部分を使うなら「さっきの表現は言いすぎましたかね」って言ってるところまで使ってあげないと、こっちとしてはフェアな編集じゃないんじゃないかという話をしたんですが、そういうことを毎日やっている感じです。
―「フェアな編集」というのは、大事な視点ですよね。その線引きはどうやって磨いているんでしょうか。
佐久間:自分が一番最前線の視聴者でいることというか……作り手の視点だけでやってしまうとだいたい歪んでくるなと思います。よくそんな時間ありますねって言われながらも僕がいまもいろんなコンテンツを見ているのは、その部分の方が大事なんじゃないかなと思っているからなんですよね。
―いま世の中に出ている数あるコンテンツから吸収していくというか。
佐久間:もちろんニュースもそうですけど、いまこういう表現をこう受け取る人がいるとか、そういう肌感は視聴者としての自分がなんとなくでもちゃんと持っておかないと、大きな事故を起こしてしまうんじゃないかと思いますね。
―佐久間さんがそこをすごく意識されているのはなぜなのか、というのも聞きたいです。
佐久間:あんまり「作り手」という意識が自分自身そんなにないんですよね。本当にたまたまつくっているだけというか。30代からだいたい20年ちょっとのあいだ作り手をやっているだけで、その前後はずっと普通に視聴者というか、見ている人というイメージなので、完全に自分のことをプロフェッショナルだと思っていないからかもしれないですね。
僕はどちらかというとソフトの受け手である自分の方が先に来てそこからつくるタイプで、本当に言い方を気をつけないといけないんですけど、芸能界はあまり得意じゃないですし。芸能人とか芸人とすら全然お酒を飲まないし……それじゃないですかね多分(笑)。芸能界が苦手なのがいいんじゃないですかね。
―(笑)。苦手だけど、ずっとその最前線でつくり続けているのがすごいです。
―作品に関連して聞きたかったのですが、『インシデンツ』の元になっているという2015年のコントドラマ『SICKS ~みんながみんな、何かの病気~』(※)も当時反響があったかと思います。コント番組だけど、社会風刺的なところがあったのも印象に残っています。
佐久間:2015年の現実をちょっと過剰にしてつくったんですけど、いま見ても全然古びていないのにびっくりしますよね。あそこで描かれていることがそのあと現実でも起きていて。
『SICKS』は「現代病」というテーマだったので、結果的に現代を風刺するコント番組になるだろうなと思ってつくっていたんですが、『インシデンツ』はもうちょっと娯楽に振っているかもしれないですね。
特に1作目の1話は娯楽に振ったつくりにしておいて、4話や5話で徐々に全貌がわかって事件に巻き込まれていくという構図にした方が面白いかなと思っていました。
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―『インシデンツ』の1作目は、架空の国家「NEPPON」が軍事国家になって笑いを規制していくというストーリーで、同じく社会風刺的な一面も感じました。そういうことをコント番組のなかでやりたいという気持ちも佐久間さんのなかであったのでしょうか?
佐久間:それはちょっとあって、減っちゃっているんだけど、笑いって世の中の「それってどうなの」っていうものをちゃんと風刺する目的があっていいなと思うんです。でも、どんどん笑いと社会批評と社会風刺が離れていっている感じがするんですよね。時事ネタ扱いぐらいにしかならない。
もうちょっといまの時代で笑いにできることはあるんじゃないかなと思っていて、みんながかっこいいと思っているけどそれって本当はダサいんじゃないかというのを笑いで伝えることを意識したというか、ちょっと心の片隅にありました。
―笑いと社会批評、社会風刺が離れていっている感じがするというのは、どういうことでしょうか。
佐久間:なんていったらいいんだろうな……賞レースとかも含めて、全体的に笑いがテクニックとか、そっちのものにどんどんなっている感じがするというか、お笑いがお笑いマニアとそれを好きなお笑いファンのためのものになっている感じがするんですが、もっと猥雑でもいいんじゃないかなと思います。
―なるほど。最後に、『インシデンツ』は1話だけではなかなかストーリーの全貌がわからない構造になっていて、すごくつくり込まれたコントドラマです。こうしたコンテンツは配信だからこそできる、というような感覚はありますか?
佐久間:そうですね。シリーズもののコントでもあり、ドラマとしても軸があって成立しているというものをいまやるなら、やっぱり配信になるんだろうなとは感じます。地上波でもやりたい気持ちはもちろんあるんですが、配信の方が一気に見てもらえたり、あとで追いつくこともしてもらいやすいですから。
今回の『インシデンツ』は、1話の中にちょっと登場するテロップが3~4話で全貌がわかってから見返してやっと意味がわかる、みたいなことをやっています。それは気軽に見返すことができる配信だからこそやれているところはあるんですよね。なので、視聴者の方には、そういうところも含めて楽しんでもらえたらと思っています。