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女性を風俗に堕とし続けてきた「悪質ホスト」問題、激動の半年 首相発言で変わった警察の動き

2024年01月20日 08:41  弁護士ドットコム

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女性に高額な売掛(借金)を背負わせる「悪質ホスト」問題は、政府が対策に乗り出すなど、社会的に大きく注目されている。この問題を中心となって告発してきたのが、今月発足半年を迎える一般社団法人「青少年を守る父母の連絡協議会」(略称:青母連)だ。


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ホスト業界が改革を迫られる中、新人ホストが女性客と相談にやってくる「新展開」もあったという。半年という節目のタイミングで、代表の玄秀盛さんに話を聞きながら、現状や今後について考えた。(ジャーナリスト・富岡悠希)



●「娘をホストから救ってほしい」という声に押されて

大阪出身の玄さんは、新宿・歌舞伎町で公益社団法人「日本駆け込み寺」を創設し、運営してきた。長らく、困りごと相談に乗ってきた事務所は「大久保公園」の前にある。



大久保公園周辺は、以前から路上で客引きをする「立ちんぼ」と呼ばれる女性が集まる場所だ。そして、彼女たちの多くがホストに貢ぐために売春をすることを玄さんたちは知っていた。



昨年春、新型コロナウイルスの感染症法上の扱いが5類になると、路上の女性が目立つようになる。その前年には民法改正で成人年齢が18歳となり、20歳になる前に大人として、さまざまな契約ができるようになった。



こうした状況下、玄さんたちの元に「娘をホストから救ってほしい」「風俗で働くという娘を止めたい」という相談が寄せられるようになる。あまりの多さから、昨年7月20日、青母連を正式に発足させた。





●悪質ホスト問題は「国会」でも取り上げられた

筆者は2021年から、歌舞伎町の取材に力を入れている。「新宿東宝ビル」横にたむろする「トー横キッズ」や大久保公園周辺の女性たちも追ってきた。



大久保公園周辺の女性たちとホストの関係には問題意識を持っていて、昨年10月上旬、悪質ホスト問題で玄さんにインタビューした。



その約2週間後には、20代の娘を持つ母親から被害実態を聞いた。苦労して大学に入れた娘が、ホストにハマり、都内や地方への風俗勤務に堕とされた証言は、驚くべき内容だった。



この時期に、ホストが「鎖をかける」「地雷をおく」などの「マインドコントロール」の手法を使い、女性を虜にしていく資料も玄さんから提供された。



これらを記事に書いたところ、大きな反響があった。



昨年11月9日、立憲民主党の塩村あやか参院議員が国会で悪質ホスト問題を取り上げるきっかけとなり、参考資料としても提示された。また、同月20日には岸田文雄総理が衆院本会議で、この問題に関する各種対策を「しっかりおこなってまいります」と述べるまでに至った。





●ホストに関する報道が連日のように

昨年10月下旬、詐欺で得たと知りながら「頂き女子りりちゃん」から現金を受け取ったとして、歌舞伎町のホストとホストクラブの責任者が逮捕された。同年11月上旬の未明には、歌舞伎町の路上でホストクラブ勤務の男性が女性にナイフで切りつけられる刺傷事件も発生している。



ホストに関する報道が続く中、玄さんは同年10~11月、連日のようにテレビやネット番組、新聞・ネットニュースなどに出続けた。最大で1日6社から取材を受けたという。



玄さんは、この半年を振り返り、悪質ホスト問題に「世間の関心をいただいたのはでかい」と評価する。



「いくら言っても、ホストは歌舞伎町の問題に封殺されてきた。この街を一歩離れたら、全然関係ないと。メディアも『トー横』や『立ちんぼ』には来るけど、ホストは実態が掴まれへんと避けていたのが、変わった」(玄さん)



知名度が上がった青母連には、さまざまな連絡が来る。過日、弁護士を名乗る男性が「青母連は、"非弁活動"をしている」と電話してきた。非通知かつ名乗らない相手だったが、玄さんは「うちは弁護士に繋ぐ前の情報取集と整理をしているだけ。交渉はしていない」と答えた。



また、相談件数もうなぎ上りのため、全国に支部を立ち上げることにした。経費がかさむことから、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」(キャンプファイヤー)を使った支援も、3月下旬まで募集中だ。





●政府の動きは早かったが立法には至っていない

玄さんは政府の動きを「予想外やし、早かった」としつつ、次のように評価する。



「岸田総理の答弁は画期的で、警察がやっと動くようになった。青母連としては、被害者を救えるようになったし、新しく被害者を生まないことにつながる」



立憲民主党は昨年11月末、「悪質ホストクラブ被害対策推進法案」を衆議院に提出した。被害の実態調査などを求める一方、禁止規定や罰則を設けない理念法だったが、成立には至らなかった。



こうした事態を受けて、青母連は現在、岸田総理あての「ホストクラブでの売掛禁止の立法化を求める署名」を「change.org」(チェンジ・ドット・オーグ)上で展開中だ。



玄さんは「今度は『ホストクラブでの売掛禁止』1本でいく。もう一度、襟を正して、与党の青年部あてに、被害者の会を作って働きかけたい」と意気込みを語る。



●自主ルールを打ち出したホスト業界に懐疑的

ホスト業界は昨年12月、今年4月からの売掛金禁止や20歳未満の新規客の入店規制などの「自主ルール」を打ち出した。



これに対して、玄さんは「罰則もないし、単に新宿区や警察向けにすぎない」と突き放す。しかも、「初回無料キャンペーンを広くやっている。とにかく女の子を入れたら何とかなるというのは、おかしいやろ」。



たしかに筆者がしばらくホストエリアを歩いただけでも、複数の「初回無料」の案内を見つけた。



「ただ派手なことはせえへん。今度は薄利多売でいくん違うか。被害者は増えるけど、金額は200~300万円で抑える。マグロの1本釣りから、ブリやハマチに落とすイメージですわ」



●トクリュウとの関係を断つことはできるのか

ホストクラブ代表は同じく、「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)との関係断絶を目指す方針を掲げている。



トクリュウは女性をホストクラブに連れて来るスカウト役を担うほか、一部の悪質ホストと結託して、女性に風俗店を紹介しているとされる。青母連の相談者には、オーストラリアで売春をさせられた日本人女性もいる。



玄さんは「最近は警察の方々が、うちにも情報収集のために、よう来ます」と明かした。



筆者も、警察がトクリュウ対策に本腰を入れることを望んでいる。昨年11月と12月には警察庁長官と警視総監が、それぞれ歌舞伎町に足を運んでいる。単なる「パフォーマンス」と受け止められないためには、実績作りこそ必要となる。



先日、歌舞伎町を一緒に回った"元ホス狂"という女性は、新宿駅前でスカウトから「しょっちゅう声を掛けられます」と話していた。しかも、彼らは「ペイペイいらない?」などのエサをぶら下げているというのだ。



そして、ホストクラブが本当にトクリュウとの関係断絶ができるかも、注視していきたい。これを実現できない限り、ホスト業界がクリーンだとはとても言えないからだ。



●女性客と一緒に相談にくる新人ホストも

今年1月上旬、20代前半とみられる新人ホスト、アツシさん(仮名)と女性客が2人で、青母連に相談に来た。



そこでアツシさんが口にしたのが、「売掛が20~30万円たまって彼女は払えなくなっているが、風俗店勤務をさせたくない。どうすればいいのか」だった。女性客も「彼を苦しめるのだったら、私も風俗勤務を悩みます」と続けたという。



玄さんは「男が女に惚れたんやろ。売掛は対処できるし、そろって相談に来るのは、新たな展開や」と歓迎する。



悪質ホストは恋愛感情を利用し、時に結婚をちらつかせながら、女性客を風俗店勤務へと仕向ける。しかし、女性を本当に好いていれば、まして将来を共に歩もうと本気で考えるならば、アツシさんと同じように〈風俗に堕とす〉事態を男性は避けるはずだ。



玄さんは、アツシさんのケースを「いい傾向」と評したが、筆者も同様に考える。他媒体も含め、筆者が悪質ホスト関係の記事を出すのは、これで20本目となる。ホストクラブ側の変化も追いつつ、こうした新展開も報じていきたい。