「増天寺LIVE」で演奏されたのはすべて実在する曲のカバー。人気バンドのリーダーで超絶技巧のギタリスト桜宮郁、ある意味オールドスクールな不良である姫小路良、そしてカリスマ的な存在である天羽“セロニアス”時貞という、タイプの異なる3人のギタリストが曲によってメインを務めていることもあり、選曲には各キャラクターの嗜好が反映されています。そのため、桜宮がイングヴェイ・マルムスティーンやExtremeのような技巧的なアーティスト、連載当時にヒットしていたNirvana、ミクスチャーロックの先駆者であるLiving Colourなどを選曲する中、ヤンキーの姫小路良は矢沢永吉やクールス、「ジョニー・B.グッド」を演奏したりと、1本のライブのセットリストと考えると方向性がかなりバラバラ。セロニアスに至っては、ジョー・サトリアーニ「Friends」からThe Rolling Stones「悪魔を憐れむ歌」、ジミ・ヘンドリックス「Voodoo Chile」、The Sex Pistols「My Way」、外道「完了」へとあらゆるジャンルの歴史的な名曲を繰り出した末に、ラストにドヴォルザーク作曲「新世界」(パガニーニ無伴奏ヴァイオリン曲カプリース2番3番を織り交ぜて)のロックバージョンを弾き、会場上空に静電気でできた巨大な龍を飛ばします。実際のライブではここまで統一感のないセットリストはあまりない気もしますが、この1回きりのライブに自分が好きな音楽をすべて詰め込もうとした原作者・佐木飛朗斗先生の、ロックへの深い愛が当時の子供に与えた影響は決して小さくないはずです。
■ 外道の加納秀人さんに会って、「やはりこの人が『特攻の拓』のルーツなのだ」 ちょうど10年前、音楽ナタリーで外道の加納秀人さんにインタビューする機会に恵まれました。外道といえば70年代に暴走族からカリスマ的な人気を得たロックバンド。「町田警察署の横にやぐらを組んで爆音でライブを行い、数百台のバイクが集まった」など破天荒なエピソードを多く持っています。その名前からわかるように、主人公・浅川拓が最初にマブダチになる不良「外道の鳴神秀人」は加納さんがモデル。そもそも「増天寺LIVE」は外道が1975年と1981年に芝公園の増上寺で行ったコンサートが元ネタになっています。また加納さんは1995年に「加納秀人 with 外道」名義で、佐木先生が全曲の作詞を担当したイメージアルバム「疾風伝説 特攻の拓 ~野生の天使達~」を発表しています。