2024年01月13日 17:11 弁護士ドットコム
1月1日に発生した能登半島地震からまもなく2週間を迎える。避難者は2万人を超え、北陸地方の寒さや降雪もあり、体育館や公民館などでの生活は困難を極めている。政府は1月12日、仮設に移る前段階として2次避難所などの宿泊施設を2月末までに北陸と周辺県、三大都市圏で計約2万5000人分の宿泊施設を確保したと発表。しかし、手続きが周知されていないなどの問題も報じられている。
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東日本大震災時に岩手県宮古市で自身も被災し、災害に詳しい小口幸人弁護士は、別の自治体の住宅を“みなし仮設”として避難するなどの措置をより加速すべきだと訴える。
「高齢化が進んでいる地域性、交通が遮断し、余震が続いているという状況、気候などの条件を見れば、避難所暮らしの方を少しでも減らすために、プレハブの仮設住宅建設を待つよりも早期に移動できる人はしたほうがいい」と指摘。「(避難中に命を落とす災害関連死が218人に上った)熊本地震より災害関連死が大幅に増える可能性もある」と警鐘を鳴らしている。
小口弁護士は「災害救助法は、どのような救助を、どの範囲で、どう行うかを政府に一任しており、法律では制限していません。つまり、岸田文雄首相の腹一つでどんな支援でも実行できると言っても過言ではない制度です」と強調する。
仮設住宅についても、明確に規定した法律はなく、災害救助法施行令に基づく基準が内閣府で告示されているのみだ。
応急仮設住宅は、住家が全壊、全焼又は流出し、居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができないものに、建設し供与するもの(以下「建設型応急住宅」という。)、民間賃貸住宅を借上げて供与するもの(以下「賃貸型応急住宅」という。)、又はその他適切な方法により供与するものであること
「この告示に基づいて運用されているので、被災者の方はまず罹災証明書の申請をし、全壊の罹災証明を受けることで仮設住宅の供与を受けています。しかし、そもそもこの基準は、内閣府の告示ですから、内閣総理大臣がその気になればどうとでも変えられます」(小口弁護士)
さらに、施行令の次の条文(3条2項)のとおり、首相と知事の合意さえあれば、いかようにも臨機応変の個別対応もできる建て付けになっていると説明。例えば、基準(告示)では仮設住宅は全壊の方にしか供与できないとなっているものの、近年の大災害では半壊以上の方に仮設住宅が供与されていると話す。
第3条 救助の程度、方法及び期間は、応急救助に必要な範囲内において、内閣総理大臣が定める基準に従い、あらかじめ、都道府県知事又は救助実施市の長(以下「都道府県知事等」という。)が、これを定める。 2 前項の内閣総理大臣が定める基準によっては救助の適切な実施が困難な場合には、都道府県知事等は、内閣総理大臣に協議し、その同意を得た上で、救助の程度、方法及び期間を定めることができる。
小口弁護士は、仮設住宅の供与にも用いられている罹災証明書に大きな課題があると指摘する。全壊などの証明となる罹災証明書がすべての被災支援制度に紐づいてしまっていることが課題だとする。罹災証明書は、仮設住宅供与の基準を担っているだけでなく、応急修理制度や最大300万円が供与される被災者生活再建支援制度の基準にもなっている。
「罹災証明書は、仮設住宅の供与の場面では『迅速認定』を求められ、応急修理や被災者生活再建支援金の場面では『間違いのない慎重認定』を求められている状況です。さらに、支援制度の細分化とともに、認定も細分化しました。少し前までは全壊、半壊、一部損壊だけだったのが、全壊、大規模半壊、中規模半壊、半壊、準半壊、一部損壊と細かくなり、内閣府が定める認定基準は非常に精緻かつ専門的になっています」
「認定のためには、自治体職員と建築士等の専門家が一軒一軒回って、調査するのが原則ですが、現在の奥能登でそれができるのか。認定が終わるまで、仮設住宅は供与しないのか。すべてを一つに紐づける罹災証明書『一本足打法』には無理があります」
その上で、「迅速」の理由となっている仮設住宅の供与については、今回に限ってでも構わないので、全壊や半壊という罹災証明にまつわる限定を外すことで、罹災証明書にかかわらず仮設住宅を迅速供与できるようにすべきだという。
「仮設住宅というとプレハブ型のものを建設してというイメージを抱かれる人も多いと思いますが、実際は、東日本大震災以降、空室の賃貸物件を借り上げ供与する『みなし仮設』という方法が広く取られてきました。運用実績は十分あります」
「全国に空室の賃貸物件などいくらでもあるのだから、被災地を離れる決断ができる方には、遠方の空室の賃貸物件や公営住宅を『みなし仮設』として供与すれば、極めて迅速に被災者の方の環境を一変させることができます。しかも、これは、法律を一切改正することなく、内閣総理大臣の一存で実現可能ですし、プレハブ型の仮設住宅をたくさん作るより安上がりです」
「もちろん、被災地を離れたくないという方もいるはずです。被災者の方の意思は尊重されなければなりません。だからこそ、被災地を離れる決断ができる方には速やかに遠方の『みなし仮設』を供与し、現地に残る避難者を少なくすれば、不安定な道路を通って支援物資を運ぶなどの負担も軽くなるはずです」
その上で、コミュニティの維持も重要だとし「原発事故避難者の広域避難時の教訓を踏まえた、その後の継続支援や、希望する方はより被災地に近い『みなし仮設』等に、あとで移れるようにすることも重要だと強調した。
仮設住宅の運用に関しては、日弁連も2023年12月、応急仮設住宅の供与要件の見直しを求めるについての意見書を出している。水害を照準にしたものだったが、今回の震災にも適用できる内容となっている。
小口弁護士と同様、過去の被災地支援に携わった災害に詳しい弁護士らでつくる「一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会」はこれまで3回にわたって、緊急提言を出している。
最新の11日に出した提言では、食事などの現物支給になっている避難所の運営について時代に即していないとし、「効率の悪さや社会経済情勢との乖離など、批判が強い」と指摘。「実態に即した支援を可能とするためには、現物給付にこだわるのではなく、広く災害救助法第4条3項を活用し、金銭を給付することによって救助を進めるべき」としている。
この点について小口弁護士もこう指摘する。
「広域避難を進めるにあたっては、ある程度から先の交通費や衣類や最低限の家具の準備など金銭の給付が必要です。必要なものは被災者の方や支給される物件によって異なるのですから、現物支給にこだわるのは余りにも非効率的です。現金給付をセットにすることで、被災地を離れて遠方の『みなし仮設』に入ることを決断できる被災者も増えるでしょう。災害救助法4条3項が現金給付の方法を定めているのに、前例に囚われて、この状況で現金給付すらしないのは怠慢と言わざるを得ない」
「今は何より、地震による直接死を免れた方の命が災害関連死という形で失われることがないよう、岸田総理には前例に囚われない必要な救助を行う英断を下してほしい」
【取材協力弁護士】
小口 幸人(おぐち・ゆきひと)弁護士
東京都出身、2016年から沖縄弁護士会所属。2010年に岩手県の宮古ひまわり基金法律事務所に入った翌年に東日本大震災に遭遇した。災害関連の日弁連の提言等に深く関わる。著書に「弁護士のための水害・土砂災害対策Q&A」(日弁連災害復興支援委員会編)など。日弁連災害復興支援委員会幹事。
事務所名:南山法律事務所
事務所URL:https://www.nanzanlaw.com/