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旧田中角栄邸が全焼、真紀子氏の法的責任や保険はどうなる? 「線香あげた」と説明

2024年01月11日 10:11  弁護士ドットコム

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田中角栄元首相の自宅だった住宅(東京都文京区目白台)から出火し、木造2階建て約800平方メートルが全焼するなどし、昭和政治の舞台は1月8日、大きな火に包まれた。住宅にいた田中真紀子元外相、夫の直紀元防衛相は避難して無事だった。真紀子氏は「建物内で線香をあげた」と説明しているという。


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現時点では線香が火元と特定されたわけではないが、もし線香が火災の原因だった場合、刑事や民事でどのような責任を問われることになるのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。



●線香が火災の原因だったら? 

現段階では、事実関係がはっきりしないため、線香が火災の原因であることを前提に説明します。火災で重要な点は、失火の原因が「重過失」であるか否かです。これは民事責任・刑事責任・火災保険請求において結論を大きく左右する分水嶺となります。



この点、失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法)は、「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」とし、失火が「重過失」ではない限り、不法行為責任は負わないとしております。



では「重過失」とはどのような過失をいうのでしょうか。



最高裁(昭和32年7月9日)は「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解すべきである」との判断を示しています。



つまり、わずかな注意さえ払っていれば予見、防止できたのにそれを漫然と見過ごしたような「重過失」がない限り、不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできません。



過去には、仏壇の蝋燭が倒れて失火した場合に蝋燭の点火者及びその家族に重過失がなかったとされた(東京地裁平成7年5月17日判決)こともあります。





●刑事責任は?

——刑事責任を問われる可能性はありますか



寝タバコをして火災を起こしてしまうなど、失火(過失による出火)によって現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物(現住建造物)に火災を発生させた場合、50万円以下の罰金刑に処せられます(刑法116条1項)。また、失火が重過失に帰因する場合は、3年以下の懲役又は150万円以下の罰金刑(刑法117条の2)となります。



今回の火災でも、線香による火災だった場合は、失火罪に問われる可能性はあるでしょう。



——重過失だった場合でも、保険はおりるのでしょうか



火災保険の約款においては、「ご契約者または被保険者の故意、重大な過失または法令違反」の場合には火災保険の支払が免責となるといった趣旨の規定がおかれているのが通例です。



保険会社の「重過失あり」との判断に異論がある場合には、裁判を起こす必要があります。




【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/