2024年01月10日 17:51 弁護士ドットコム
性加害疑惑を報じられたダウンタウンの松本人志さんが、芸能活動の休止を発表した。裁判への注力を理由としていることから、週刊文春サイドに対する名誉毀損訴訟の提起が見込まれている。
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テレビ番組や配信などに複数のレギュラー番組を抱えるほか、CM出演常連の人気者で、スポンサーやテレビ局などは対応に追われている。
もし最高裁まで争われて、その間は休業するということになれば、松本さんが稼ぐはずだった出演料等は泡と消えるはずだ。
松本さん及び吉本興業は、名誉毀損の損害だけでなく、休業損害まで裁判で請求することは可能なのだろうか。エンターテインメント分野の問題にくわしい河西邦剛弁護士が、裁判の展望とともに、今回の報道を取り巻くさまざまな「疑問」について答えた。
——松本さん側が週刊文春側を相手取る名誉毀損裁判が始まると考えられます。
今回のケースは、松本さんにとって、通常の精神的ダメージだけでなく、芸能活動への影響が「物凄く」大きいことが特徴です。
文春の報道がすべて真実であるとすれば、単なるタレントとしてのイメージ低下だけでなく、性加害に該当するような内容になっています。
そうすると、松本さんが「事実無根」の考えを表明したとしても、テレビ番組やCMスポンサー起用を取りやめるということも考えられます。
松本さんとしては、通常の名誉毀損事件の精神的苦痛に対する慰謝料だけでなく、仕事に影響する損害の賠償を求める可能性すらあります。
ちなみに報道を理由とした精神的苦痛の慰謝料は、芸能人・一般人を問わず、裁判所が認定する金額は数百万円前後が通常です。1000万円を超えるケースはほとんどありません。
――休業による損害まで認められるのでしょうか。
仮に、松本さん側が休業損害まで請求内容に加えたとしましょう。裁判所が「今回のような内容の性加害について報道すれば、テレビは降板となりスポンサー離れが起こることは十分予見可能性がある損害の範囲内だ」と認定して、休業損害まで支払いを命じる可能性は理論上ありえます。
しかし、理論上はありえるとしても、松本さんクラスの超大物タレントの性加害報道とそれをめぐる裁判となれば、過去にも例はなく、実際の判決の結論は読みにくいところです。
また、今回の報道とは無関係なところで、そもそも現在のレギュラー番組がいつまで続くかは不明瞭です。裁判所としても「仮に今回の文春報道がなければ◯年間は続いていた」とみなし、松本さんのギャラから損害額を算定するというスタイルにならざるをえないと思います。
——「裁判に集中といっても、休業する必要はあるのか」という疑問をよく見かけます。どう考えますか。
ここでは笑いを届ける仕事の大変さについての言及はせず、裁判にどれだけの時間を割かれるかという観点に絞って答えるとするならば、芸能活動と裁判対応の両立は十分に可能だと思います。
裁判における松本さんの負担としては、まず裁判所に出廷する必要があるのは「本人尋問」だけです。訴訟開始からだいたい1年後くらいでしょうか。それ以外は本人が出廷する必要はなく、基本的にはすべて弁護士が代理人として出廷します。
また、今回のように週刊誌を相手にする名誉毀損訴訟では、被告側の立証責任負担が大きいのも特徴と言えます。
つまり、通常の裁判は、原告側に大きな立証責任の負担がありますが、名誉毀損訴訟では、記事内容が真実だと立証する責任は被告側(週刊誌)にあり、その負担が大きなものとなります。
松本さん側が訴訟提起するとしても、その中心部分は、文春記事を引用しながら「記事は真実に反し、松本さんの社会的評価を低下させ、松本さんの名誉を毀損するものである」という主張になります。
訴状を作るならば、中心となる部分だけであれば4~5ページ程度で作成できるのではないでしょうか。
ほかに松本さん側の山場として考えられるのは、提訴から2~3カ月後に文春側から反論・反証が提出される時期です。
——報道をめぐって注目しているポイントがあれば教えてください
性加害は一般的に、当事者だけの密室でおこなわれることから「証拠が残りにくい」という特徴があります。
裁判では被害者とされる方の証言や、LINEのやりとりなどが取り調べられていくでしょう。
文春側が真実であることを立証する際に、同じような手口で被害を受けたとする方が複数集まってきて、しかも証言者たちの間で面識がないとすると、それぞれの証言が相まって性加害の真実性を補強する証拠となっていきます。
また、被害者の1人が松本さんと一緒にいたとされるスピードワゴンの小沢一敬さんに送ったとするLINEについても報道されています。なお、小沢さんの事務所は「特に性行為を目的として飲み会をセッティングした事実は一切ありません」と報道内容を否定しています。
突発的に性被害を受けた方が事件直後に現実を受け入れられず、迎合的な連絡をするケースは過去の性加害事例でも少なくありません。
しかも、仮に被害者側が芸能界を志していれば、松本さんらに嫌われること自体を恐れて、感謝のLINEを送ってしまうということも考えられるかとは思います。そうすると、このLINEのみで決定的な証拠ということはできないと思います。
【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活~推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/