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渦中の松本人志さん「ワイドナショー出まーす」 出演は本当に実現するのか…TVプロデューサーが指摘する数々の問題点

2024年01月09日 16:11  弁護士ドットコム

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ダウンタウンの松本人志さんをめぐり、複数の女性に対する性的行為の強要疑惑を「週刊文春」が報じた。松本さんの所属する吉本興業は「事実無根」の姿勢を示し、さらに1月8日には活動休止を電撃発表した。これは「裁判に注力したい」という松本さんの考えを受けたものだという。


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同じ日、松本さんもXで「事実無根なので闘いまーす。それも含めワイドナショー出まーす」と投稿し、かつてコメンテーターとしてレギュラー出演していたフジテレビの情報番組の名前をあげた。文字通り受け止めれば、松本さんが地上波で説明する機会を得たということになる。



投稿を見たとき、目を疑った。



テレビ番組は公正中立であるべきで、松本さんの出演は成立するのだろうか。松本さんがワイドナショーに出演した場合、どのような問題が生じると考えられるか、論じたい。(テレビプロデューサー・鎮目博道さん)



●松本人志さんの「ワイドナショー」出演は現実的なのか

松本さんのXの投稿を見たとき、誤解を恐れずに言えば、ニュースとワイドショーの制作を長年にわたっておこなってきたテレビマンとして、ワイドショーを少し馬鹿にされているのかと思い、わずかに怒りを覚えた。松本さんは報道機関でもあるテレビをどう捉えているのだろうか。







松本さんがどこまで本気でワイドナショーに出るつもりかはわからない。だから、投稿が何を意味しているのか、真意を断定することはできないが、文字通り取れば「ワイドナショーに出ます」という前提を元に論じたい。



フジテレビの「ワイドナショー」は、ワイドショーでありながら若干バラエティ的な側面も持つので、普通のワイドショーと同列に語れない部分もあるかもしれない。それにしても、社会事象を扱う情報番組を「自分の事実無根を証明するための、闘いの武器として使う」と言っているにも等しい投稿は、何かがおかしいと思う。



ニュースやワイドショーは公正中立を目指して制作しなければならない。当たり前すぎる大前提だが、忘れてはいけないことだ。



異なる意見が存在する問題を扱う場合は、できるだけ多角的な視点から、多くの意見を紹介し、視聴者が正しく物事を判断する参考となるための「客観的な情報」を伝えるのが使命だ。



我々ニュース・ワイドショーを制作する人間は、上司たちから口を酸っぱくして「できるだけ多くの証言を集めろ」とか、「スタジオにゲストを呼ぶときには、意見が偏らないように考えて人選をしろ」と言われてきた。



もう少し具体的なことを言えば、基本的なルールとして、民事訴訟や刑事訴訟の当事者や、訴訟に発展しそうな問題の当事者の一方だけをスタジオに呼ぶのは御法度であり許されない。そうしたことは放送基準などでも厳格に定められている。



仮に松本人志さんが降板せず、コメンテーターを続けていたとしても、今回の事態で「一時出演を見合わせてもらう」という対応も必要なくらいだ。



●フジテレビ側がバカにされているようにも見える

今度の放送回では、松本さんをゲストとして呼ぶかたちがとられるのではないかと考えられるが、その場合であれば、必ず「もう一方の当事者」もゲストとして呼ばなければならない。しかし、「週刊文春」の記事に登場する女性に出演依頼をすることもまた考えづらい。



なぜなら、性的被害を訴える女性を出演させることは、女性にセカンドレイプ的な二次被害になりえる危険性が高いからだ。となれば、「週刊文春」の編集部から、編集長なり担当記者を呼んで、彼らがゲストとして出演すれば、松本さんの望み通り「ワイドナショーに出る」ことは可能かも知れないという程度だが、それも現実的な話ではないだろう。



松本さんの後輩芸人がMCをつとめ、松本さんに関わりの深い「ワイドナショー」は、松本さんにとっての「ホームゲーム」になりえる。文春側がわざわざ「アウェイ戦」に臨むメリットはない。



もし松本さんが「自分だけが出演して自分の主張を繰り広げる」ということを考えているのだとすれば、それはあまりにも報道機関であるテレビ局を馬鹿にした話だし、情報番組を愚弄していると取られかねない発言だ。



のみならず、松本さんが「テレビ局」をどう考えているのか、若干真意を疑ってしまうことはまだある。



テレビ局には当然「編集権」というものがあり、出演者を決定するのは放送局の専権事項だ。



平常時であれば、絶対的な人気者の松本さんから「出まーす」と指名を受けて断る放送局はないはずだ。「ぜひぜひ」と快諾するだろう。しかし、この問題では、そうおいそれとはフジテレビも「出演してください」とは言えないはずだ。



投稿時点で出演が決定していなかった場合には、「ワイドナショー出まーす」といくら言われても、フジテレビが出演依頼しない限り、出演は実現しない。



出演が白紙だった時点で「出まーす」と投稿していたとすれば、フジテレビ側は馬鹿にされていると受け止めても良いように見える。



それにしても、出演が決定事項だと仮定して、それを打診したのはフジテレビ側、松本さん側、どちらだったのだろうか。最終的な編集権はフジテレビにある以上、フジテレビにも「出まーす」や出演の経緯を説明してもらいたい。



●「事実無根」なら「活動休止」する必要はないのでは

思うに、松本さんのような立場に置かれた人物が本来おこなうべき行動は、自らに縁が深い番組に出演することではなく、正々堂々と記者会見をすることではないか。



会見しないにしても、事実無根であると主張するならば、堂々とメディアの取材に応じるべきとも考える。「ワイドナショー」に出るより、「週刊文春」の取材に応じたほうが得なのではないだろうか。



そして、「裁判に集中する」という理由だとしても、事実無根なのであれば、芸能活動休止をする必要はないのではないか、と私は思う。



むしろ堂々とレギュラー番組への出演を継続すればいい。「当社及び松本だけでなく、お取引先を含めた関係者の皆様に対しても問い合わせ等が相次ぎ」(※吉本興業のリリースから)迷惑をかけることを恐れるのであっても、それは取材対応や記者会見によって解消することだと思う。



※本稿執筆ののち、松本人志さんは「ワイドナショー出演は休業前のファンの皆さん(いないかもしれんが)へのご挨拶のため。顔見せ程度ですよ。」と1月9日にXに投稿した。



(1月9日午後4時23分、松本さんの新たな投稿について追記しました)