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【書店ルポ】甲府駅、ジュンク堂、改造社が閉店の中、約7万冊の在庫くまざわ書店オープンで山梨県民歓喜

2024年01月09日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

JR甲府駅の駅ビル「セレオ甲府」。この4階に「くまざわ書店」がオープンした。手前にあるのは甲府駅前のシンボル、武田信玄像。
■書店空白地帯だった甲府駅前

  2023年9月29日、JR甲府駅の駅ビル「セレオ甲府」の4階に、約7万冊の書籍を揃えた「くまざわ書店」がオープンした。オープン当初は山梨県内で大きな話題になり、NHKや新聞各社が報じている。


    というのも、2023年1月にJR甲府駅周辺にあった書店が立て続けに閉店し、駅から徒歩数分の圏内に、新刊書店がまったくない状態が続いていたためである。「セレオ甲府」にあった「改造社書店甲府店」が1月22日に閉店、さらには市街地の岡島(旧岡島百貨店)にあった「ジュンク堂書店岡島甲府店」も1月31日に閉店してしまった。



  特にジュンク堂の閉店は衝撃的な出来事だったようである。開業当時は蔵書の数が約80万冊と桁違いであり、甲府を代表する大型書店であったためだ。研究者の利用も多かったようで、記者の知人で山梨大学の関係者は、「大型書店がなくなると困る。ジュンク堂は専門書も充実しているのが強みだった。いったい本をどこで買えばいいのか」と困惑していた。


■百貨店の衰退を不安視する声も

  また、駅前で甲府市民に話を聞くと、高齢者の間では相次ぐ百貨店の閉店に伴う駅周辺の地盤沈下を危惧する声も大きいようである。JR甲府駅前にあった山交百貨店は2019年に閉店してしまった。前出の岡島は、2023年3月3日に複合商業施設「ココリ」に移転したが、規模を大幅に縮小してしまっている。移転先にジュンク堂は復活しなかったし、記者が訪れたのは日曜日の夕方だったが、「ココリ」周辺の人通りはまばらであった。


  この「ココリ」は、2010年の開業以来テナントの誘致に苦戦している。後にイオンが入店したものの、コロナ騒動真っただ中の2020年に撤退した。その前年には未来屋書店も閉店している。


  わずか数年前は大型書店が多数あった甲府の中心市街地だが、現在も営業を続ける新刊書店は、1918年に創業した「春光堂書店」くらいになってしまった。また、百貨店の規模縮小が地域経済に与える影響も少なくないはずである。


■アニメイトも郊外に移転

  地方に住むアニメファンが、漫画などの単行本を買うときに利用する機会が多いのが「アニメイト」である。というのも、「アニメイト」で漫画を買うと特典が付くことが多く、ポイントもたまるため、通常の書店で買うよりも何かとお得だからである。


 筆者が以前に甲府に来たとき、ココリにあった「アニメイト甲府」で『メイドインアビス』と『ラブライブ!』のファンブックを買ったのだが、館内を探しても見当たらない。なんと、「アニメイト甲府」は、2022年に郊外に移転し、「アニメイトイオンモール甲府昭和」としてオープンしていたのだ。



■書店がなくなってもそれほど困らない?

  コロナ騒動で地方経済は深刻なダメージを受けたが、甲府に関しては、駅前の中心市街地からかなり活気が失われたように感じた。それでも、駅前で市民に話を聞くと、若者いわく、「駅前が衰退してもそれほど困らないし、甲府は住みやすい町」なのだという。郊外にショッピングモールが多く、利便性は高いためだ。前出の若者はこのように話してくれた。


「基本的に甲府は車社会だから、郊外のイオンモールが買い物の中心。駅前は県庁や市役所に来るときや、電車に乗るときくらいしか来ない。それに、ブランド品とか大きい買い物をするときは東京に行くことが多いし、東京が近いから不便はありません」


  書店についてはどう思うのか。


  「しばらく紙の本は買ってないですね…… 漫画は読みますが、ほとんどピッコマとかで読んでいます。あれば行くことはあるのかもしれないけれど、別になくても困らないかな」


  筆者がこれまで地方の書店事情を取材してきているが、現地で一様に聞かれるのが「書店がなくてもそれほど困らない」「Amazonがある」「電子書籍がある」という声であった。とはいえ、書店は若者から高齢者まで幅広い世代を引き付ける文化発信の場でもあるのも事実である。県庁所在地であっても書店の閉店が相次ぐ現状を、このまま黙って見ているだけでいいのだろうか、と考えてしまうのだが。