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【話題の社長本】「にしたんクリニック」「イモトのWiFi」西村誠司 ピンチをチャンスに変えた“発想”

2024年01月08日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

西村 誠司 『最強知名度のつくり方 売上98%減からのV字逆転を実現した必勝術』(KADOKAWA)

■今や全国的に有名「イモトのWiFi」や「にしたんクリニック」


 『最強知名度のつくり方 売上98%減からのV字逆転を実現した必勝術』の著者、西村誠司氏はエクスコムグローバル株式会社の代表取締役社長である。と言っても、社名を聞いたほとんどの人が「何の会社だ?」と思うかもしれない。しかし、同社が関わっている「イモトのWiFi」や「にしたんクリニック」なら、ああ、聞いたことがある、という人が多いのではないだろうか。


(参考:【写真】クセになる!「にしたんクリニック」のTVCM 郷ひろみや3時のヒロインの撮影中の画像など


  誰もが知る商品、サービスを短期間で創り出した西村氏はマーケティング、ブランディングについて耳目を集める人物である。西村氏は真摯に自社のサービスの知名度向上を目指し、戦略的に取り組んできた。その結果、わずか数年で圧倒的な知名度と、最大級の収益を生み出した。そのテクニックとノウハウを惜しげもなく披露したのが、この一冊である。


  商品を販売するうえで、知名度はとにかく重要である。例えば、消費者が商品を買うとき、ほとんどの人は知名度で商品を選んでいるのではないだろうか。特に二択で迷った場合などは、知らず知らずのうちに、人はそうした消費行動をとっているはずである。


■なぜ消費者は知名度の高い商品を選ぶのか


  西村氏はこうした消費者の心理を、「聞いたことがない商品より、広告でよく見かけるなど、多くの人に知られている商品のほうが安心だからです」と分析しているが、知名度を上げるのは非常に難しい。ご当地商品や伝統工芸を扱う業者などは、しばし「海外ブランドよりもうちの商品の方が品質がいいんだけれどなあ」「ブランド和牛よりもうちの地域の和牛の方がうまい」と嘆くことからも、よくわかる。


  西村氏は、「多くの産業で技術が成熟しつつある今の時代は、大半の企業が『品質まあまあ、機能まあまあ』という、はっきり言ってしまえば、他社と似たり寄ったりのものに対し一生懸命知恵を絞って必死に売っている」と指摘するが、まさにこの指摘通りで、今やほとんどの製品はメーカーが違っていても性能面での差はなくなっている。だからこそ、「売れるか売れないかの明暗を分ける一番重要なポイントはやはり知名度である」というのである。


  そんな西村氏も、大きなピンチに直面したことがある。コロナウイルスが蔓延し、社会が混乱し始めた2020年の初頭のことだ。同社は売上98%減となり、まさに倒産の危機に瀕したという。しかし「にしたんクリニック」でPCR検査の事業を開始、効果的な宣伝戦略をとった結果、ピーク時には1日で1億円を売り上げるという驚異的な業績を達成。2021年8月期の売上高は176億円、営業利益は98億円と、コロナ前を遥かに凌駕する業績を上げることができたのだ。


■カッコよさよりもインパクトが重要


  西村氏は、こうした業績アップの秘訣を「知名度を最大限に活用したから」と即答している。そのノウハウとして西村氏が掲げるもののうち、印象的なのは「どうインパクトを与えるか」という点だ。西村氏は「カッコよさ」よりも「インパクト」を重視しているという。そうした考えがもっとも顕著に表れたのが、何を隠そう、「イモトのWiFi」や「にしたんクリニック」のテレビCMであろう。


  イモトアヤコの顔が大きくプリントされた「イモトのWiFi」の車内広告、郷ひろみと3時のヒロインが出演する「にしたんクリニック」の広告やCM。特に、郷ひろみがキンキラキンのスパンコールの衣装で踊るCMはインパクト抜群であり、一度目にしたら忘れない、見ている人に強烈な印象を残す映像であった。CM一つを見ても、インパクト重視で創り上げることを西村氏が重視してきたことがわかる。


  また、知名度を上げるためには一気にアクセルを踏みだすことも重要だと説く。これは、同業他社に先を越されないために必要なことであり、瞬く間に知名度を上げた「にしたんクリニック」のPCR検査事業などは、西村氏のそうした考えがよく表れた仕事といえよう。そして、情報が氾濫している現代だからこそ、中小企業やベンチャー企業はビッグネームを味方につけるべきだと説いている。


  こうした西村氏の考えを読み解いてみるとわかるのは、西村氏は奇抜なアイディアマンというより、むしろ王道を行く経営者なのだということだ。知名度を上げ、自社の商品を多く売る。これこそが商売の本流に他ならないからである。コロナ禍のピンチを大きなチャンスに変えることができた西村氏の経営哲学は、混迷の時代を生き抜こうとする経営者にとって、大きなヒントになることは間違いないだろう。


(文=元城健)