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入居者に暴力、介護ヘルパー男性を追い詰めた労働環境 3カ月休みなし、入居者と寝泊まりの果てに

2024年01月05日 11:11  弁護士ドットコム

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大阪地裁は2023年11月、暴力行為等処罰に関する法律違反に問われた(起訴時の傷害罪から訴因変更)30代の被告人男性Aに対し、懲役2年6月の実刑判決を宣告した。被告人Aは高齢者向け介護サービスを提供する会社で、介護ヘルパーとして勤務しており、被害者3人はそのサービス利用者だった。(裁判ライター:普通)


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●暴行に抵抗することもできなかった被害者

被告人Aは180cmを超えると思われるがっしりとした体格の男性だった。しかし公判においては背を丸くし、終始反省の言葉を述べていた。



起訴状などによれば、被告人Aは勤務先の介護サービス利用者である3名に対し、手で顔面を殴るなどの暴行行為を常習的に行っていた。重傷(骨折で全治3カ月)を負った被害者もいる。



被害者はいずれも、介助の必要性を表す指標で一番大きな「要介護5」に区分されており、日常生活全体での介助の必要はもちろん、コミュニケーションを取るのも難しいとされており、暴行の抵抗もできなかったとされている。事件は暴行後、被害者の異変に気が付いた被告人A自らが通報し、発覚した。



警察の捜査に対し、食事や水分をうまく提供することができなかったため、叩くなどして強引に食事を口に入れさせたと供述する被告人。通常であれば、言葉などをかけながら時間がかかっても待つと供述するものの、焦っている場合に犯行に及んだという。



では、どうしてそこまで焦っていたのか。裁判で明らかになったのは、勤務する介護施設が慢性的な介護ヘルパー不足で、過酷な労働環境に陥っていたからだった。逮捕のきっかけとなった暴行事件の際、Aは3カ月間にわたって1日の休みもなく働き続けているほどだった。



●監査の目を紛らわすための書類偽造

別日に、介護サービスを運営する会社と、その会社代表者に対する、労働基準法違反、有印私文書偽造被告事件の裁判が行われた。



起訴状などによれば、被告会社は、前述の被告人Aに対し、2023年1月1日から3カ月強に渡り、労働基準法で定められた労働時間を超えた勤務を行わせ、また週1日以上の休日を与えなかった。そして会社の代表者である60代の被告人女性(以降、B)は、会社が管理する介護サービス実施記録の担当者欄に、存在しない職員名の署名と押印を行ったとして起訴されており、Bはいずれの事実も認めた。



スーツを身にまとい、凛とした姿勢で席に座る被告人B。



検察官請求証拠等によると、Bは約10年前に代表として被告会社を設立した。国による人員配置基準により常勤として2~3名の介護ヘルパーが必要にもかかわらず、慢性的な人手不足が続き、前年末に従業員が1人退職し、従業員はAのみとなった。



一度は従業員が3名となるも、Aと折り合いが悪く早々に退職してしまう。その後、人員が補充されることも、Bがサポートに入ることもなかった。出勤簿は監査に指摘されないよう虚偽作成しており、Aは実質は1人で早番と遅番のシフトを回す必要があるため、午前8時から午後9時半まで1日12時間半も働いていたという。



介護実施記録の書類偽造も、従業員不足を市の定期的な監査の目を紛らわすためだった。記載した名前は、会社立ち上げの際に協力してくれた人物であり、勤務実態もなく無断で使用した。この実施記録によると、利用者に「痣がある」旨の表記があったが、「そもそも読んでない」と取調べにて供述している。



●「偽装するのがあなたの仕事ですか?」

Bの裁判の被告人質問にて、さらに驚きの状況が明かされる。



弁護人「従業員が1名になるとわかった際に、どうしようと思ったんですか?」
B   「Aに事業を辞めようと思うと伝えるとAが『僕は大丈夫です』と言い出したのです」



弁護人「それに対し、あなたはなんと言ったのですか?」
B   「勤務が長くなるし、休みもとれなくなるよと。それでも『僕は元気なんで』と」



その後も何度も、Aが「大丈夫と言った」と主張するB。通勤したくないと事務所に泊まることを希望するAの要望にも応えた。利用者は5名いたが、風呂の介助が必要な人物も限られており、1人でも問題なかったと主張した。



またAは、事務所で携帯ゲームや自身の洗濯をし、昼寝をして寝過ごしたこともあると主張するB。介護記録の偽造に関しても、Aが辞めると言わないので、事業を続けざるを得なかったという姿勢を崩さなかった。



弁護人「最後に、この事件の反省を述べてください」
B   「経営者としてバカなことをしました。情に流されやすく、なんとかしてあげたい思いが仇になりました。Aがいいからと言っても、悪かったと思っています」



検察官からは、「『自分は言った』でなく、休ませるのがあなたの仕事なのでは?」「偽装することがあなたの仕事ですか?」などと厳しい指摘が続いた。



●利用者の部屋に宿泊する異様な状況

Aの裁判では、休みもなく働き、追い込まれていく様子が供述された。利用者本人が食事を必要としなくても、栄養失調になる恐れもあり、食べさせることに必死になっていた。結果として、他の利用者のもとへ行くのが遅れたり、時間がかかったりするとBからは叱責された。



前年まで2名で勤務していたものを1人でやらねばならず、休憩も取れなかったと供述する。Bはほとんど出勤せず、相談しても現場の仕事を理解せず怒られるだけだったと主張した。



AとBの供述には食い違いが多々見られた。その一つが、Aが定期的に、最も重い傷害結果となった被害者の部屋にて寝泊まりしていた事実だった。



この点についてAは「事務所の契約なのに、22時以降電気がついているのはおかしいと大家に指摘されたことから、Bに泊まるよう指示された」と供述。一方でBは、「Aが『利用者が心配だから泊まる了解をして欲しい』と言ってきたんです。『自分で本人から了解をとりなさい」と言ったら、Aが了解を取ってきたので驚きました』と供述した。



●判決で減軽されるAと求刑通りのB

判決では、Aに対しては抵抗できない被害者に一方的、常習的な悪質な犯行で被害結果も大きい点を指摘。事業主から適切な指示がなかったという点は否定できないものの、他に取るべき手段もあり、被害者も暴行を受ける理由は一切ないと強く非難した。しかし、事実を全て認め、事情があったとしても行為を正当化していない態度などから、懲役2年6月と求刑の懲役3年6月から減軽した理由を告げた。



Bの判決では、従業員の労務管理はBの責任であり酌量できるものではなく、文書偽造もその制度の信頼性を大きく損なうものと強く指摘した。判決は被告会社に労働基準法違反として罰金30万円(求刑同じ)、Bに対しては文書偽造の罪で懲役2年(求刑同じ)、執行猶予3年を宣告した。