2024年01月05日 10:20 弁護士ドットコム
インターネット上の誹謗中傷が社会問題となり、法改正もなされましたが、いまだ被害はやみません。特に、芸能人や有名人に対する誹謗中傷が問題視されています。
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弁護士ドットコムが一般会員1,355名を対象に誹謗中傷に関する調査を行ったところ、芸能人や有名人に誹謗中傷をしたことが「ある」と回答した人が3.5%にのぼりました。発信手段としては、X(旧Twitter)が52.1%で最多となりました。
芸能人や有名人に誹謗中傷をしたことがあるかを尋ねたところ、「ある」と回答した人が3.5%にのぼりました。
芸能人や有名人の誹謗中傷を投稿したソーシャルメディアを尋ねたところ、「X(旧Twitter)」が最も多く52.1%、次いで「匿名掲示板」が20.8%、「Instagram」と「ニュースメディアのコメント欄(Yahoo!ニュースなど)」が12.5%、「YouTube」と「ブログ」が8.3%、「Facebook」と「LINE」が6.3%、「TikTok」が2.1%、「その他」が8.3%となりました。
誹謗中傷については、法的に明確な定義が定められているわけではありません。今回のアンケートでは、投稿した誹謗中傷の内容について、4種類に分類し、選択肢を提示しました(複数回答可)。
芸能人や有名人に誹謗中傷を投稿したことが「ある」と答えた人のうち、83.3%は「容姿や性格、人格に関する悪口」でした。「虚偽または真偽不明情報を流す」は12.5%、「プライバシー情報の暴露」と「脅迫」は10.4%でした。
芸能人や有名人に誹謗中傷を投稿した動機を尋ねた(複数回答可)ところ、「正当な批判・論評だと思ったから(誹謗中傷と認識していなかった)」が60.4%でもっとも多く、「その人物が事件、不祥事を起こしたから」が41.7%と続き、投稿した当時には、正当なものだと認識していた実態が浮き彫りになりました。
「誰についてのどのような誹謗中傷コメントを投稿しましたか?」という質問には、「元アイドルの番組での態度や、顔の変化や体型について」(40代・女性)、「女優の不倫に絡めて人格を否定するようなコメントをしてしまった」(30代・女性)など、私生活や外見に関することについてSNSに書き込んでしまったとの回答がありました。
他には、次のようなコメントも寄せられています。
・YouTuberの生配信にて、臭いとコメントしてしまったこと。元々視聴者でそういったノリができていたため、しても問題ないと思った(10代・男性)
・アイドル事務所の性加害問題で、事務所擁護をした女性タレントの発言が腹立たしく過去の経歴、素性など書き込みした(60代・女性)
・女性タレントについて頭が悪い、図々しいと書いた(50代・女性)
・違法薬物を使用して逮捕された女優の悪口を書いた(30代・その他)
今回のアンケートでは、芸能人や有名人だけでなく、一般人(芸能人や有名人以外)に誹謗中傷したことがあるかどうかも質問しています。「ある」と回答した人が5.2%いました。
ちなみに、集計結果を合算して、芸能人・有名人と一般人のいずれかに誹謗中傷したことが「ある」と回答した人は7.2%となりました。
一般人への誹謗中傷について投稿したソーシャルメディアを尋ねたところ、「X(旧Twitter)」が最も多く38.6%、次いで「匿名掲示板」が37.1%で、両者が抜きん出て高くなりました。
他には、「ニュースメディアのコメント欄(Yahoo!ニュースなど)」が10.0%、「Google Mapの口コミ欄」が8.6%、「LINE」が7.1%、「Facebook」と「YouTube」と「ブログ」が4.3%、「Instagram」が2.9%、「TikTok」が1.4%、「その他」が20.0%となりました。
芸能人や有名人と同様に、投稿した誹謗中傷の内容について4種類に分類し回答してもらいました(複数回答可)。
一般人に誹謗中傷をしたことが「ある」と答えた人のうち、「容姿や性格、人格に関する悪口」が77.1%、「プライバシー情報の暴露」が17.1%、「虚偽または真偽不明情報を流す」が11.4%、「脅迫」が4.3%となりました。
一般人への誹謗中傷の動機を尋ねたところ、「正当な批判・論評だと思ったから(誹謗中傷と認識していなかった)」が50%でもっとも多く、次いで「その人物の間違いを指摘しようとする正義感から」が41.4%となり、正義感から意図せず加害者になっている人が多い実態が明らかになりました。
「誰についてのどのような誹謗中傷コメントを投稿しましたか? 」という質問には、職場の人間関係、家族や知人との対人トラブルについて書いてしまったとの声が寄せられています。
・私も書かれたから同じことをした。書かれた人の気持ちも考えてみたらいいと思ったから(40代・女性)
・お客様の声で、匿名で中傷するようなコメントをしてしまった(30代・女性)
・職場の握りつぶされた不祥事を匿名掲示板に投稿した(50代・男性)
・知人女性のダブル不倫相手の会社の口コミにコメントしました(50代・男性)
・馴れ合いコミュニティのメンバーを『頭が悪い』『これからどんどん人が離れていくだろう』と批判した(30代・男性)
・夫が元勤めていた会社への誹謗中傷。ブラック企業で残業代の未払いがあり過ぎて、腹が立ったから(40代・女性)
アンケートでは、誹謗中傷投稿をした理由として「正当な批判・論評だと思ったから」「その人物が事件、不祥事を起こしたから」をあげる人が多い結果となっています。芸能人や有名人は論評を受ける立場にあり、一定程度の限度を超えないと「違法な中傷である」と判断されにくい傾向自体はあるといえます。
もっとも、デマを拡散するような行為や、過度にプライバシーを暴くような行為、執拗に中傷するような行為などは、権利侵害となる可能性は十分あり、民事上の責任を追及されたり、場合によっては刑事責任の追及を受ける場合もあります。
最近は、芸能人などでも積極的に誹謗中傷と戦っている方も目にするようになりました。芸能人、著名人だから何を言ってもよいというのは全く間違いです。
一方で、何が違法な中傷か分からないと言う方は多く、このアンケートの回答でも同趣旨の指摘がされています。「違法でなければ言いたい」という考えがあるのでしょうが、言葉の意味は流動的であり、前後の文脈や言い方(書き方)によってもその印象は大きく変わり、何が違法かという客観的で明確な線引きをすることは不可能です。
そこで、主観的な基準として、面と向かって、一対一でその人にその言葉を言えるか、という観点で考えるとよいのではないかと思います。言えないということであれば、それによって相手が傷つくということが分かっているということでしょう。そういった言動は権利侵害に当たる可能性があると考えておくとよいといえます。
【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022~2023年) の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を行っている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:https://www.alcien.jp