かもめんたる・岩崎う大が、注目のお笑い芸人の今後を予想する連載企画。今回の芸人は紅しょうが。
「女を捨てる」熊元と「女を絶対捨てない」稲田
先日『THE W 2023』が行われ、紅しょうがの2人が見事、優勝しました。紅しょうがは『THE W』の決勝ではすっかりおなじみとなったコンビで、堂々としたパフォーマンスで毎年大きな爪痕を残してきました。
実際、同大会では準優勝(2020年)や3位入賞(2022年)など立派な戦績で、あとは優勝するだけという状況でした。しかし、そこから簡単に優勝できないのが、実力だけがすべてではない賞レースの過酷なところです。しかし、彼女たちは今回優勝だけを目指し、それを作戦どおりに手に入れたとあえて分析します。
紅しょうがは、ルックスからしていかにも女性お笑いコンビという明るくファニーなオーラが漂っています。
イベントを盛り上げたいときに、タレント名鑑をめくって紅しょうがを見つけたら、2人のことを未見でも「何とかしてくれそうなコンビじゃないか!」とオファーしたくなるパワフルな華が彼女たちにはあります。いわゆる凸凹コンビというわけではありませんが、2人の雰囲気はまったく違います。
2人とも豪快な感じはするのですが、ボケの熊元プロレスさんは芸名のとおりの豪快さで「ガハハ!」と笑うのが似合う女性で、一方ツッコミの稲田美紀さんはいわゆる飲み屋のキレイなママさん風で、美を追求していそうな雰囲気があります。
大げさにキャラクター化するなら熊元さんは「女を捨てる」ということをポリシーにしていて、稲田さんは逆に「女を絶対捨てない」ことをポリシーにしているように感じます。
この相いれない2人のようで、親友同士としても存在し得るバランスが、漫才にもコントにも、説得力を与えているのだと思います。
最初に2人のネタを見たのが漫才だったからか、その立ち姿があまりにも堂に入っていたからか、僕の中で紅しょうがは漫才師というイメージがあったのですが、2023年の決勝では2本ともコントでした。これはすごく意外でした。
やっぱり決勝の舞台というのはひとつの大きなお披露目の場所でもあります。若手芸人としてはいろんなことができるというのを見せたい場でもあるのです。
『THE W』というのは、縛りが性別だけなので、コントと漫才を見せることができて、これは他の賞レースでは不可能なことです。実際、以前の大会では紅しょうがも漫才とコント両方を披露していました。
しかし、今回紅しょうがは2本ともコントで挑んでいました。そしてこれが今回の優勝の要因だと僕は分析します。1本目の「相撲部屋の出待ち」のコントは2人のキャラクターを生かした上で、裏切りもある非常に秀逸なネタでした。
このコントが面白かった分、テレビの前で僕は2本目もコントを期待していました。それは会場も同じだったと思います。
2本目のネタがコントだとわかったときには、うれしい反面新たな不安がよぎりました。1本目がしっかりした裏切りのあるコントだった分、2本目にそれがないと消化不良になってしまうと思ったのです。しかし、それは杞憂に終わりました。2本目にはより大掛かりな二段構えの裏切りが用意されていました。
2本のコントを見終わってみると、1本目のほうがいろんなおかずがあっておいしいコース料理のようなネタで、2本目はインパクトあるメインディッシュどかんどかん!みたいなネタで、優勝必至の流れだったと思いました。その戦略と武器を大一番にしっかり持ってきた紅しょうがのこれからが一層楽しみです。
岩崎う大 1978年東京都生まれ。早稲田大学卒。かもめんたるとして槙尾ユウスケとコンビを結成。キングオブコント2013年優勝。お笑い芸人だけでなく、脚本家、放送作家、漫画家として多彩に活躍中