2024年01月03日 09:41 弁護士ドットコム
東京・世田谷の高級住宅地として知られる「成城」で2023年2月、共同住宅の建設現場の壁が突然崩れる事故が発生した。世田谷区は、崩れた壁の上に建っている住宅の7世帯に避難指示を出した。
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この事故はマスメディアで大きく報じられたが、その後はほとんど報道されていない。現在、あの現場はどうなっているのか。弁護士ドットコムニュース編集部の記者が訪ねた。
事故が起きたのは、小田急線・成城学園前駅からおよそ1キロ離れた住宅地で、都道3号線(通称・世田谷通り)沿いの建設現場だった。近くにはNHK技術研究所や東宝のスタジオ、学校などもあり、自動車や人の交通量は多い。
記者が12月下旬に現場を訪れたところ、予想以上に崖の高さがあり、事故の深刻さが伝わった。
露頭していた崖の斜面は、鉄骨などで養生され、もともと予定されていた共同住宅の工事が進められていた。しかし、まだ崖を抑えるべき建物は完成しておらず、崖上の住宅がよく見えた。
なぜ、ここで事故が発生したのだろうか。
事故当時の映像を見ると、崖を抑えていた大きなコンクリートの壁が崩れ、重機が下敷きになっている。
世田谷区は当初、「土砂崩れ」としていたが、その後状況が明らかになると、「既存建物の外壁倒壊」だったことを公表した。この「壁」とはどのようなものなのだろうか。
この付近はもともと、多摩川が武蔵野台地を削って形成された「国分寺崖線」と呼ばれる崖状の地形だ。世田谷区内の国分寺崖線は、高さ10~20メートルにもなる。
現場の崖の斜面を抑えていたのは、以前建っていた建物の壁だった。Googleストリートビューで確認すると、2016年ごろまでは建物が存在していたことがわかる。
ところが、2017年以降には建物が壊されており、壁だけが残され、崖を抑える役割を担っていたようだ。この状態は、事故直前まで続いていた。
世田谷区災害対策課に事故の原因を聞いたところ、担当者は次のように話した。
「もともと現場には、既存の建物の壁などが残っていましたが、新しい建築物を建てるための工事中、既存の建物の下部を取り除いていたときに、崖を抑えていた既存の建物の一部が崩れてきました。
現在は、仮設構造物で壁を抑えながら、もともと計画されていた建築物の工事が進められている状況です」
では、崖上の住宅で暮らす7世帯に出された避難指示はどうなっているのだろうか。
担当者は「実は、まだ解除はされていません」と話す。しかし、記者が崖上まで登った際には、避難指示が出された複数の住宅で、生活されている様子がみてとれた。世田谷区の担当者によると、一部の住民は戻っているという。
ただし、「1月以降、崖を抑える構造物の安全性が確認されるようであれば、避難指示は解除することになると思います」(世田谷区の担当者)という。事故からおよそ1年、ようやく付近の住民が安心できることになりそうだ。