2024年01月01日 08:01 弁護士ドットコム
2023年12月14日、自民、公明両党は、「令和6年度税制改正大綱」を公表しました。今回の税制改正では、物価高対策としての「所得税・個人住民税の定額減税」が注目されましたが、実はそれ以外にも多くの改正の提言がなされています。
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その中で、批判を集めているのが「高校生の扶養控除の縮小」です。少子化対策として様々な施策が求められている中、なぜ、高校生の扶養控除を縮小するのかと疑問の声が挙がっています。
ただ、高校生の扶養控除の縮小は確定ではなく、2024年末に結論を出すということが決まったにすぎません。そこで、今回は、高校生の扶養控除縮小が進められる背景とその妥当性、さらに、少子化対策について考えていきたいと思います。(ライター・岩下爽)
高校生の扶養控除縮小の背景には、児童手当の拡充があります。児童手当とは、中学校修了(15歳)までの児童の養育者に対して支払われる手当です。児童を養育する家庭等における生活の安定と児童の健全な育成に資することを目的としています。
現行の手当額は、所得制限限度額未満の場合、児童の年齢や子どもの数に応じて10,000円~15,000円になっています。所得制限限度額以上の所得がある場合には、年齢にかかわらず一律5,000円になります。
ただ、所得制限限度額に対しては、線引き前後で手当の額が変わることへの不平等感や子育て支援は所得の水準に関わらず国全体で支援すべきという考えに反することから、撤廃を求める声があがっていました。
それを受けて、所得制限が2024(令和6)年10月から撤廃されることになりました。また、第3子以降の手当が増額されることになっています。さらに、対象年齢が拡充され高校生(16歳~18歳)まで支給になります。高校生への支給は、第2子までが1万円、第3子以降が3万円です。
15歳までの子どもに対しては児童手当があるという理由で扶養控除が認められていません。そのことから、18歳まで児童手当が支給されることになったことに伴い、扶養控除も18歳まで認めないことにすべきというのが財務省の主張です。
しかし、高校生の扶養控除の撤廃に対しては国民からの批判が強かったため、所得税で扶養控除を38万円から25万円に減額、住民税で扶養控除を33万円から12万円に減額ということでまとまりました。適用時期は、所得税が2026(令和8)年以降分より、住民税が2027(令和9)年度以降分より適用される見込みです。
扶養控除の減額によって税負担がどれだけ増加するかは、所得に応じて税率が異なるため一概には言えませんが、児童手当として受け取れる金額の方が扶養控除縮小によって増加する税負担よりも多くなるように設定されているので、実質的に負担増になることはありません。
現状、児童手当の支給を理由に16歳までは扶養控除が認められていないことを考えると、18歳まで児童手当が支給されるようになるのであれば、扶養控除を認めないということも不合理とは言えないでしょう。しかし、少子化対策というのであれば、せっかく児童手当を拡充したのに、扶養控除を減額したのでは、心理面においてその効果が半減してしまいます。
日本において、少子化は最重要課題であり、このまま人口が減少していけば、年金財政が破綻し、医療保険制度の維持が困難になり、消費者減少による経済の低迷、労働者の減少による生産性の低下など様々な問題が発生します。
岸田首相は「異次元の少子化対策」と言っているわけですから、「異次元」というからには、常識を超える政策(給付や減税など)を行う必要があると思います。ところが、実際には、扶養控除縮小という逆の政策を行っているように見えます。
表面上は少子化対策を謳っていますが、実際には、将来のことよりも目先の選挙が大事なので、子育て世代よりも高齢の有権者の方を見ているということなのでしょう。しかし、将来のことを考えるならば、もっと思い切った政策が期待されます。
少子化対策として思い切った政策が必要と述べましたが、今回の税制改正で少子化対策として改善される点もあります。それは、子どもがいる世帯に対する生命保険料控除の引き上げとひとり親控除の拡充です。生命保険料控除は、生命保険料を支払った場合に最大4万円所得から控除されるというものですが、子どもがいる世帯については、6万円に引き上げられます。
ひとり親控除は、①事実婚も含め婚姻関係と同様の事情がないこと、②生計を一にする子がいること、③合計所得金額が500万円以下であること、という3つの要件が認められる場合に35万円が所得から控除されるというものです。
これが、改正により所得の制限が500万円から1000万円まで引き上げられ、控除額も35万円から38万円に拡大されます。合わせて、個人住民税の控除額についても、現行の30万円から33万円に引き上げられます。ひとり親の約5割は貧困状態にあると言われていますので、支援の拡大は良い方向性だと思います 。ただ、この改正も扶養控除と同様、次年度以降に結論は持ち越されています。
少子化対策の議論は1990年代からずっと続けられてきました。しかし、少子化は止まるどころか、どんどん悪化しています。その原因は、経済の低迷による賃金の停滞や女性の社会進出による晩婚化などと言われていますが、逆の見方をすると、個人の多様化により、子どもを持つか持たないかの自由が認められやすい社会になったとも言えます。
政府は、安心して子どもが産める環境を整備するために、保育に関する支援策や育児休業制度の整備などを行ってきました。また、2023年4月1日には「こども家庭庁」を発足させ、こども政策を一元的に管理することができるようになりました。
一見するとやるべきことはやっているように見えますが、保育に関しては、あいかわらず保育士不足で保育所に入ることは困難な状況が続いています。その原因は、保育士の安い賃金にあります。
また、こども家庭庁はできましたが、こども家庭庁の人員は、厚労省や内閣府からの出向組で運営がなされており、これまでと大きく変わるわけではありません。プロパー職員で運営できるようになるには10年以上かかるでしょうから、即効性があるとは思えません。「デジタル庁」ができても霞ヶ関は相変わらずアナログなのを見ればそれはわかると思います。
少子化を改善するためには、保育士の待遇を改善し、子育てに関する政策にもっとお金を使うべきであり、誰もが「安心して子どもを育てられる」と思ってもらえるようにしなければなりません。また、少子化対策だけで人口減少を解消することは現実的には厳しいことから、移民の受け入れなども考えていく必要があるでしょう。
いずれにせよ、人口減少を食い止めるためにはあらゆる方策を尽くす必要があり、その意味では16歳から18歳の扶養控除を縮小するのではなく、むしろ、児童手当の関係で整合性が取れないのであれば、15歳以下も扶養控除を認めるようにするなどの思い切った改革が必要です。次の税制改正まで結論は先送りになっているので、2024年の税制改正大綱で改善されることを期待したいところです。