トップへ

統一教会と闘う鈴木エイト氏「野良系ジャーナリスト」人生 2023年は報道関連賞を総なめ

2023年12月30日 09:31  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

新聞や雑誌の記者経験がない「野良系ジャーナリスト」が2023年、報道関連の賞を総なめした。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を約20年間にわたって取材する鈴木エイト氏は、2022年7月12日、記者会見場でこう言った。


【関連記事:セックスレスで風俗へ行った40代男性の後悔…妻からは離婚を宣告され「性欲に勝てなかった」と涙】



「9年近く、ずっと安倍晋三氏と統一教会の関係について証拠を集めてきた。しかし、テレビでは『容疑者の思い込みだ』などと大したことではないように報じられることを危惧している。端的に言って、俺を出演させろってことです」



安倍氏の銃撃事件から4日後のこと。一般には名の知れていないフリージャーナリストが繰り出した強気の発言に、会場からは笑いが漏れた。しかし、イベントへの参加や信者の選挙協力など関係が深い政治家が次々と明らかになるにつれ、毎日のようにエイト氏はテレビ・新聞に引っ張りだことなる。



それは、その情報を彼ただ一人しか持っていなかったからだ。自前で取材してこなかったメディアは、30年の空白を“エイト頼み”で埋めるしか術がなかった。統一教会問題を報じてこなかったことの表れだった。



●「教会の取材をやめたいと思ったことはない」

エイト氏が統一教会に関わるようになったのは2002年。契約社員として働いていたころ、たまたま渋谷で偽装勧誘の現場に遭遇したことがきっかけだ。ビデオセンターに連れて行くのは正体と目的を偽って教義を刷り込むためだといい、それを阻止する活動を独自に始めた。



「悪人が悪事をはたらくのは普通。善意の人が悪事に手を染めているというのが許せなかった」。出会った信者は、数千人に上る。阻止した人でいえば10万人をくだらないという。2007年にはブログを開設し、2009年にジャーナリスト藤倉善郎氏が立ち上げた「やや日刊カルト新聞」に加わった。



エイト氏の執筆の発表場所は、長らくインターネットだった。地方議員と統一教会青年部が密接に関わり、選挙協力までしていたことをスクープしたのを皮切りに、2014~2018年ごろには自民党の大物議員と統一教会の関係について週刊誌に書き続けたが、年に1~2度程度の掲載で大きなうねりにはならなかった。



「コンテンツとして価値がないと思われていたのでしょう。意図的に黙殺したというよりは、宗教法人という面倒くさい相手を扱うのはいやだという自主規制だったと思います」



取材は「疑惑解明のピースを埋める作業」だというエイト氏。やるべきことは、まだまだある。沈黙してきたメディアの未来に、失望はしていない。現場で会う記者たちには、誠実さも感じているという。



「(統一教会問題の取材を)やめようと思ったことはないです。こんなに重要で、興味深いことはない。解散命令請求の行方も待ち構えている。財産管理に向けた新法もできた。さすがに、30年前と同じ空白状況になることはないと思います」



メディアの監視は一定程度続いている一方で、政治の動きは鈍い。岸田文雄首相は2022年夏に自民党全議員の調査を指示したが、統一教会関連のイベントに出たかなどを自己申告するのにすぎなかった。今年になって、岸田首相自身が幹部との面会についてスクープされた。裏金問題に揺れている現在の様子を見るにつけ、自浄作用はもはやないのかもしれない。



「岸信介から続く安倍氏と統一教会の関係を含めて50~60年間を再検証しないと、また同じようなことが起きるのではないでしょうか」



●「予定調和が嫌いだった」

好景気だった大学時代は音楽活動に明け暮れた。バンド活動に20代前半を費やし、26歳になっていた。メディアに興味がなかったわけではないが、新聞社や出版社に就職しようとまでは思わなかった。バイトなどで食いつないでいた。



もともと予定調和が嫌いだった。統一教会の財産保全を巡って、今年12月に成立した法案の審議を国会で傍聴し「議員が寝るのも仕方ないな」と思った。決まりきった質問への答弁は、飽きる。数々の記者会見に出ていて、緊張感がないと感じることもある。



「記者会見の場を乱して何が悪いんでしょうか。ジャニーズ事務所の会見でNGリスト入りしたことは、むしろ評価されていると思っています。怒らせても核心を突く質問をしたい。『なんだこいつは』と思わせれば、しめしめと思います」



メディアで存在感を増すとともに、こうした大胆な発言が基となり、現在、統一教会の関係者などから名誉毀損だとして訴えられているが、まったく意に介さない。原告側の提訴会見に記者として出席し、質問していたくらいだ。



自身の訴訟に加え、安倍氏を撃ったとされる山上徹也被告人の公判も控えている。山上被告人がエイト氏の報道を見ていたであろうことは、旧ツイッター(X)やブログの記録などから分かっている。



「私が報じた内容を読んだ2世が事件を起こしたことは事実です。責任は感じるものではなく、取るもの。私はずっと安倍氏と統一教会をウオッチしてきた人間として、裁判を見届け、必要があれば証人としても出廷する責任があると思っています」



彼の舌鋒は鋭いが、口調は極めて平板だ。約1年半前に「俺を出せ」と言ったときも、ユーモアを交えて語るときも、質問するときも。その冷静で揺るがない姿勢が、末恐ろしいのかもしれない。



【プロフィール】
鈴木エイト(すずき・えいと)
1968年、滋賀県生まれ。日本大学卒業後、アルバイトや契約社員などを経てフリージャーナリスト。著書に「『山上徹也』とは何者だったのか (講談社+α新書)」「自民党の統一教会汚染 追跡3000日」(小学館)「だから知ってほしい『宗教2世』問題」(筑摩書房、共著)など。2023年日本ジャーナリスト会議 「JCJ大賞」、調査報道大賞2023デジタル部門「優秀賞」、日本外国特派員協会(FCCJ) 報道の自由賞日本部門「栄誉賞」などを受賞。interfmで毎月最終土曜の深夜3時~ラジオパーソナリティーも務めている。次回は12月30日(土)。