エニックスから『ドラゴンクエスト2 悪霊の神々』が発売されたのは1987年1月。初代『ドラゴンクエスト』では勇者の一人旅であったが、本作では3人パーティを組んで冒険することができるようになり、さらに船に乗って大海原を進むことも可能になるなど、遊びの規模が一気に拡大した。
既にゲーム開始時点で邪教の神官であるハーゴンが魔物を率いて各地で侵略を開始しており、一行はこのハーゴンを止めるため、過酷な冒険に挑む。
後に本作はハードを変えて何度もリメイクされたので、世代でなくても遊んだというゲーマーも多いはず。僕も初代ファミコンと、スーファミ版リメイク、それと買い切りガラケーアプリでも遊んだ記憶がある。今日はちょっと、このドラクエⅡのラスボスについての話をしていきたい。(文:松本ミゾレ)
そもそもシドーって何なの?
このゲームのラスボスはハーゴンではなく、ハーゴン戦ののちに唐突に出現する破壊神シドーという存在。唐突と言っても本作のパッケージにはイラストがちゃんと描かれているので、大体のプレイヤーは「この怪物、いつ出てくるんだろう」と思いながらラスダンを攻略していたはず。
なので、出現自体はたしかにいきなりなんだけど、ハーゴンが前座だろうということは、前作の竜王との二連戦を知っているプレイヤーであれば容易に予想できた。
ラスボスとして登場するこのシドー。顔は凶悪で口からは牙が覗き、手足は6本、尻尾の先は蛇の頭。コウモリのような翼を有して首からはドクロの飾りを下げているという、文字通りの破壊神然としたデザインとなっている。ドット絵で表現されたその姿も大きく見ごたえがあり、ラスボスとして十分の迫力も持つ。
ハーゴン戦が長引くと当然パーティも疲弊するので苦戦は必至だし、当時はラスボスに挑む際の推奨レベルについても判然としない部分があった。最近は初回プレイから早速攻略ウィキとか見ちゃう粋じゃないゲーマーが多いので「ある程度レベル上げたら雑魚よ」みたいな言われ方をすることもあるが、とにかく普通に進行して遭遇すると結構苦戦する。
ドラクエシリーズのラスボスって時間を経るごとに追加の新設定が盛られることがたまにあるんだけど(直近だとピサロとかね)、そもそも前座であるハーゴン含めてややマイナーということもあってか、今のところ具体的な設定が掘り下げられたことはない。
っていうか、シドーは勇者らに倒されたハーゴンが、自分の命をいけにえとして召喚した破壊神。出現してすぐに戦うことになるので設定もへったくれもないっちゃないキャラではあるんだよね。
首飾りを付けているし呪文も使うので知能が相当高いのは間違いないが、シドー自らは一切人語を発しない。意思疎通ができるかどうかも不明な存在なのだ。でも知能と知性って別でいいと思うし、個人的にはしゃべらないラスボスがいても構わない。デザインもいいし。問題ない。
「レベルカンストでも安定しないなんてのは言い過ぎ」という声
僕自身はこのシドー、子供の頃に戦った強敵ということもあって思い出補正も高く、デザイン自体も怪獣っぽいからお気に入り。下手にペラペラ喋ったら拍子抜けする見た目でもあるから、これはこれで良いと感じている。実際、子供が普通に挑むと強かったし。
でもネット上には「シドーは見掛け倒し」と評する声もある。5ちゃんねるでも「ドラクエ2のシドー過大評価されすぎだろw」というスレッドがあった。スレ主は次のように書いている。
「どれだけ強いのかと思ってみたらFC版リメイク両方ともレベル30あれば余裕で倒せる。FC版は炎の威力が低いからブレス軽減できるローレとムーンはそうそうやられることはない。リメイク版は炎の威力が上がってるから死人が出やすいけど戦闘中でもザオリク使えるし味方側の呪文が強力になってるからやっぱりレベル30(ムーンレベル23)がクリア目安。たまに聞くレベルカンストでも安定しないなんてのは言い過ぎ」
「どれだけ強いのかと思ってみたら」と書いているということは、この人はリアルタイム世代ではないのかもしれない。
自分は初代とリメイク、どちらも遊んだが、2はまだメタルキングとかいない時代なので、はぐれメタルを追いかけて倒すのもしんどかったこともあり、僕は30まで上げることはできなかった。28とか、その辺だったかな。
でも、初代とリメイク共に30までレベル上げをしたってことだから、この人はちゃんとRPGの基本を抑えてるよね。レベルを上げて殴る! これが結局一番確度の高い兵法だもん。僕もドラクエ7のヘルクラウダーに初見で手も足も出なかったことがショックで、それから1週間ぐらい学校を休んでひたすらレベル上げに励んだこともあった。
一方でスレッドを見てみると「シドー云々じゃなくて、ロンダルキアの洞窟を抜けて祠にたどり着くまでは地獄なんじゃない?」という書き込みも。
説明するのも野暮だけど一応補足すると、ロンダルキアの洞窟(正式には“ロンダルキアへの洞窟”)というのは、最後の戦いの舞台となるハーゴンの本拠地に続く難関ダンジョン。
正しいルートで移動しないと延々ゴールにたどり着けない仕様になっており、途中には協力な武器もあるので、わざと落とし穴に引っかかったりもしなければならない。
そんでやっとこさ洞窟を抜けたら一面雪景色。そこでエンカウントするのが、これまでよりさらに一段上の強さを持つ雑魚敵たちで、中でも最も危険なのが、ブリザード。このブリザード、ロンダルキアの大地全域で見られる雑魚モンスターながら、ザラキを使ってくることでよく知られている。
ドラクエ2には他にも強い雑魚は色々と存在するが、よりにもよって洞窟を抜けてボロボロになったところで、ザラキを連発されてなすすべなく全滅、というのを多くのプレイヤーが経験した。
下手するとハーゴン、シドーよりもこのブリザードこそ、終盤の勇者たちを最も多く葬ったモンスターかもしれない。いや、恐らくそうだろう。ドット絵のサイズも小さいから一度に数体出てくるし。
たしかラスダン・ハーゴンの神殿に突入するとブリザードはもう出てこないので、ある意味そっちのほうが全滅リスクが少ないかもしれない。もっともここにはラストバトルの前座として各所にハーゴンが召喚したと思われるバズズ、アトラス、ベリアルといった固定モンスターが待ち構えているので油断はできないが。ちなみにこの3体のボスこそ、本作の副題である“悪霊の神々”を指すものであり、シドーはここに含まれないのだそうだ。
あくまでもシドーは破壊神であり、ハーゴン級のいけにえを供してようやく現世に出現できる特別な存在ということなのだろう。
でも、しっかりレベルを上げたパーティで挑めば、そんな破壊神すら討滅できるのだ! 何も言わずに出現し、何も言わずに敗れ去るシドー。それ以降の音沙汰はないので、多分本当に勇者たちの連携の前に退治されてしまったのだろう。