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パチスロ昔話 「初代吉宗のゴト対策は過剰だったよね」という思い出

2023年12月30日 06:10  キャリコネニュース

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まともな感性を有している人なら手を出さない趣味。その筆頭は何といってもギャンブルだろう。打たなきゃ絶対に負けないのが博打。打つから地獄に落ちてしまうのだ。

なのに世間には、ギャンブルに魅せられた人間の何と多いことか。最近は競馬やボートが積極的にCMを打っていることもあって、公営賭博は人気なのだという。レートを自分で選んで無理なく遊べると考えると、それもいいことかもしれない。それでもギャンブルはギャンブルだし、公営賭博でも破滅する人はいる。

しかしなんといっても日本で一番多くある“賭博ができる施設”はパチンコホール。建前としては遊技場扱いにこそなっているが、恐らくここが一番身近で、一番破滅に近い賭博施設であることは、今更そんなに強調するまでもない。

そういう施設なので、しばしば発生するのが不正行為だ。台に細工を施して無理やり大当たりを誘発し、出玉を奪い去って金景品に交換するという手口は昔から色々とある。これをいわゆるゴト行為と呼ぶ。

今回は、そんなゴト行為の標的となった、かつての人気パチスロ機種の思い出話をしていきたい。「興味がないよ」という方には全く刺さらないのは分かってるけど、年末年始でどうせ暇してるんでしょ? 一応読んでよ。(文:松本ミゾレ)

射幸性が高くて破滅するユーザーも……

今回紹介したいのは、あるパチスロ機種へのゴト被害と、全国のホールが見せた対策だ。その機種というのが、大都技研というメーカーから2003年にリリースされたパチスロ『吉宗』だ。

その名の通り、徳川八代将軍の吉宗が主役となった機種で、コミカルにデザインされた2Dキャラクターが連続演出で悪代官やら剣豪を倒すことでボーナス確定となる。ボーナスはビッグとレギュラーを搭載しており、ビッグなら711枚。レギュラーだと100枚少々しか払い出しがない。

最大の特徴はボーナス中に複数ある条件のいずれかを突破すれば1G連が確定し、ストックが残っている場合はビッグを即座に放出する状態を楽しめるというもの。711枚は等価換算で14,000円以上となるが、昔は非等価店ばかりだったので実際の戻りはこれより少し乏しい。

しかし、それを補って余りある爆発力を有していたため、リリースから程なくして口コミで人気が沸騰し、パネルデザイン違いの同機種が何度も増産される形となった。最終的な設置台数は25万台を超えるほどとなり、一時期はどんなホールでも『吉宗』を見ることができた。

ただしコイン単価と天井が高かったことから大負けするユーザーも続出。僕も噂レベルで聞いた程度だが、この頃はまだ消費者金融が今よりもパチンコ客に身近だったこともあって、相当数の遊技客を破滅に導いたそうだ。

基本的にこの機種、ビッグを引いてボーナス中に7揃いをさせて1G連をストックするという仕組みで出玉を獲得するものだった。ボーナスゲームはビッグにしか搭載されていないので、必然とレギュラーなんか引いてる場合じゃない。

ただし、一方で両ボーナスに搭載されているJACゲーム中(Aタイプ区分なのでビッグならJAC3回。レギュラーはたった1回)に2択を8連続正解させると、たとえレギュラーからであっても1G連が成立するという仕様もあって妙に人気があったのも事実。

さらにこのJAC中に稀にハズレが成立する場合があり、この場合もやはり1G連の突入が確定となっていた。なのでレギュラーを引いても、100%ノーチャンスってわけでもなかったわけだ。

僕も一度だけ、数万円負けてるときに引いたボーナスがよりによってレギュラーで途方に暮れている時、このJACハズレからビッグを射止めて、さらにビッグ中に7揃いを連発するなどして何とか命拾いしたことがある。命拾いせずそのまま爆死したこともあるけどね。

そしてこの『吉宗』需要が高まる中で発生するようになったのが、『吉宗』だけを狙い撃ったゴト行為である。

マジでどこの店でもゴト対策をやっていた

当時のゴト対策に関しては、そもそもどのようにゴト行為が行われるのか、そもそも明確に知る機会は僕にはなかった。だけど、全国的に『吉宗』を狙ったゴト行為が続発していたのは事実であり、各地のホールスタッフは、自分たちも正直どういったゴトが流行しているのか100%理解をしないまま、その対策を強いられたのである。

この頃の実情に明るい人による書き込みが、5ちゃんねるの「昔のパチンコ屋はこうだった!77」というスレッドに見受けられたので、ちょっと引用させていただきたい。

「吉宗のシマの両端には常に店員が2人いたな」

そうそうこれ。懐かしい。正直、どういうゴトが蔓延しているのかについては、ホールの上層部は把握・認識していたのかもしれないけど、末端のスタッフにはなかなか全貌が明かされなかった。

僕もこの時期にはホール企業の平社員だったはずだが、この『吉宗』についてのゴト研修を受けた記憶はない。なのでとりあえず、『吉宗』設置シマには店員を常に配置して、漠然と見張りをさせていたわけだ。実態は分からなくても監視の目が活きていることが伝われば、ゴト師に対しての抑止力にはなるので。

で、この時期には『吉宗』のシマにしょっちゅう、「ゴト警戒中」みたいなポップが貼ってあったり、「体感器の使用は犯罪です」みたいな警告文が見受けられた。

体感器(たいかんき)ってのは簡単に説明すると、特定の周期を刻んでリズムを打つ、持ち運び可能なメトロノーム。服の中に仕込んでいて、指にピアノ線か何かでリズムを伝える形でフラグを狙い撃つための周期を模索するという使い道があったという。僕は実際使ったことはないので詳しくは知らないが、現物を研修で見たことはある。

体感器も駆使するにはかなり修練が必要なようで、しかも発覚すれば即刻お縄となるわけだから、ゴト師もまさに命がけ。大陸系のゴト師の場合は他にも凶器を隠し持っている可能性もあるから、僕らスタッフももしその現場を目撃しても、決して独断専行するなと上層部から忠告されていた。

『吉宗』登場より以前の例になるが、やはり大陸系ゴト師を見咎めて店外まで追跡した挙句、殺害されてしまった店員もいたとの話も、自社の渉外部から聞かされたことがある。

ゴトだけでなく、攻略法詐欺もあった

前述のスレッドには必ずしも『吉宗』のゴトに触れているわけではないが、『吉宗』の例にも該当するような、2000年代初頭のゴト対策事例についての書き込みもあるのでついでに紹介したい。

「体感器攻略(分類的にはゴト)って多分一般の人が考えてるより流行ったんだよね。カバー付けたり店員増やしたりがメジャーだったが、店にとってリスクがあるレバー自体を不正規品に交換して体感器が使えないようにしてる店も沢山あった。勿論店の利益を守る為だが、人気がある台を一般客が楽しめる様に…という側面も否定出来ないから、そういうときに所轄の許可が絶対に降りないのは融通が利かないとも思ったわ、まあそういうところから不正が蔓延することもあるだろうから仕方が無いが」

「イヤホンつけてても携帯イジってても店員がすっ飛んで来てたなあ。今やイヤホンつけて動画みて爆音で打ってるアホが沢山いるから時代は変わったよな」

そうそうこんな感じ。懐かしい。書き込みの中にある「カバー」とは、筐体内部に異物を挿入して内部を操作されないように追加でラミネートを加工して取り付けるというのが当時一般的だった。

メーカーも加速度的に進化する当時のゴト行為に追い付けてはいなかったので、各店でこのようなアナログな自衛を行っていたのである。もっともこの頃の機種へのゴトなんてそもそもがアナログなので、これでも十分な効果はあったんだけどね。

地味だけど有効だったのが、セロテープだ。営業中に店員の目を盗んで遊技台を開けて、不正が可能になる機器を装着する系のゴト行為があって、これになるべく早く気付くため、筐体の開閉部にセロテープを貼っておくのだ。

もしも無断で開閉されていたらセロテープが剥がれるか破れるので、こういう事態が発覚したエリアは監視カメラの映像を巻き戻し、ゴト被害があるかないかを判別できていたのである。対策としては後手に回ってはいるけどね。

そうそう、『吉宗』は人気機種だっただけに、不正行為についての情報だけでなく、全くガセの攻略情報もよく出回っていた。要は『吉宗』のゴト対策が全国的に活発になると、それを目にした悪い攻略法販売会社が悪だくみして、一般客相手に全く効果のない攻略方法を売りつけるようになったのである。

今では考えられないことだけど、コンビニとかで売ってあるパチスロパチンコ関係の雑誌をめくると、胡散臭い攻略法をPRする広告ページなんか結構あったのだから凄い時代だ。

こういうことは最近はもうめっきり見られない。今の方がパチンコホールの遊技客のリテラシーは高いのだろう。