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弁護士が選ぶ2023年の重要裁判例ランキング 1位は性別変更の手術要件めぐる「法令違憲」

2023年12月28日 10:31  弁護士ドットコム

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弁護士ドットコムは1年の振り返りとして、2023年の重要裁判例を会員弁護士にアンケート調査しました。1位に輝いたのは、戦後12件目の「法令違憲」となった性別変更の手術要件をめぐる最高裁大法廷決定でした(令和5年10月25日最高裁大法廷決定)。


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僅差の2位には、トランスジェンダーの経産省職員に対するトイレ使用制限を違法とした判決(令和5年7月11日最高裁三小判決)、3位には袴田事件の第二次再審請求事件での再審開始を認める決定(令和5年3月13日東京高裁決定)が入りました。



●調査方法

調査にあたり、会員弁護士に重要と思う裁判例を自由記述で記入してもらう予備選を実施しました(12月6日~)。



この結果から裁判例10本をピックアップし、1人につき3つを選んでもらう本選(12月19日~)をおこないました。本選の回答者数は294人でした。



トップ5の結果は次の通りです。



●1位(66.7%):性同一性障害・性別変更の手術要件に関する違憲決定(10月25日最高裁大法廷)

「性同一性障害特例法」では、トランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変えるためには、生殖不能要件を満たさなくてはならず、手術が必要とされています。この規定について、最高裁は裁判官15人全員で構成する大法廷で、違憲と判断しました。



投票した弁護士からは、「時代の流れを反映した決定」と高く評価するコメントが多く寄せられました。代表的なコメントは以下の通りです。



「国民的議論に先行する前衛的最判で珍しい」



「一審、二審ともに合憲としたものを最高裁全員で覆した。時代の少し先を歩み、人権の尊重という司法の責任を果たしたものと評価している。他の要件にも踏み込んだ各意見も評価したい」



「まだ課題は残るものの、『性別変更をするのに大きな手術を受けろ、自費で全て賄え(編注:2018年から公的保険の適用が始まったが、実際に適用された事例は少ないとされる)、そうしないと戸籍を変えない』という法はあまりに理不尽で、なぜトランス当事者ばかりが割を食わねばならぬのかと思っていた」



●2位(63.6%):トランスジェンダーの経産省職員に対するトイレ使用制限を違法とした判決(7月11日最高裁三小)

2位もトランスジェンダーの人の権利をめぐる判決です。原告は女性として勤務していましたが、戸籍上は男性であることを理由に、勤務するフロアから2階以上離れたフロアのトイレを使用するよう言われるなどの制限を受けていました。



最高裁は、この取り扱いについて、「具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視するもので、著しく妥当性を欠いたもの」などとして、違法と判断しました。



こちらについても弁護士からは「時代の流れ」との評価が多く見られました。また、労働問題なので、戸籍上の性別変更以上に弁護士業務との関係性が深い裁判例として注目する弁護士も多いようです。



「性差別に対する社会の変化を敏感に感じ取った判決で、司法の役割を果たしたと実感できた」



「小規模の職場でどう対応するべきか、更衣室はどうするべきか等、判決の趣旨を正確に理解し、社会で活かしていくために弁護士のスキルが問われると思う」



●3位(47.3%):袴田事件の第二次再審請求事件での再審を認める決定(3月13日東京高裁)

静岡県で一家4人が殺害された1966年の「袴田事件」で死刑が確定した袴田巌さんは、冤罪だとして裁判のやり直し(再審)を求めてきました。



2008年に申し立てた第二次再審請求では、静岡地裁が2014年3月に再審開始決定を出しましたが、検察が不服を申し立て(即時抗告)、2018年6月に東京高裁で再審開始決定が取り消されました。これに対し、弁護側が不服を申し立て(特別抗告)、2020年12月に最高裁が高裁決定を取り消して差戻しを命じました。



2023年3月に東京高裁が出した決定は、2014年の静岡地裁決定を支持し、検察の即時抗告を棄却するというもので、これに対する検察からの不服申し立てがなかったため、10月27日から袴田さんの再審公判が始まっています。



弁護士からは「長年の苦労が実った」と評価する声が多く寄せられました。



●4位(29.3%):生活保護費引き下げについて、国に初めて賠償を命じた判決(11月30日名古屋高裁)

2013年から2015年にかけて、生活保護の支給額が最大で10%引き下げられたことについて、愛知県内の受給者らが最低限度に満たない生活状況を強いられているなどとして訴えた裁判です。



同様の裁判は全国29カ所の裁判所で起きていますが、結論が分かれています。これまでに1審と2審合計で20件以上の判決が出ており、およそ半数で引き下げを取り消す判断が出ていますが、国に賠償を認めたのはこの判決が初めてです。



弁護士からは「従来の裁量論を超えて、違法性を認めた点で驚いた」といった声がありました。また、審理の過程に着目した選考理由もありました。



「国の政策形成過程について、控訴審で政策立案担当者の人証を実施した上で事実認定を行い違法判断を行ったという事例である。実体法的な重要性もさることながら、高裁審理で尋問を行いそこで形成された心証を判決文において広く論述するという手続面が他に余り類例をみないものであり、他の政策形成訴訟の審理においても参考とされるべきケースである」



●5位(26.9%):給与ファクタリング」を貸金業法・出資法の「貸付け」と判断した判決(2月20日最高裁三小)

「給与ファクタリング」とは簡単に言えば、給料の前払いサービスのこと。この事案では、給料を受け取る権利を額面から4割程度割り引いた額で客から買い取り、同額を交付するサービスを営んでいた事業者が、貸金業法違反に問われました。



給与ファクタリングをめぐっては、年利換算で1000%超のケースもあるなど、「新手のヤミ金」と問題になっていました。



実際の利用者も多いようで、弁護士からは「類似事件を担当したことがある」「業務への影響が大きい」などといった声が出ていました。



●トップ5以外にノミネートされた裁判例

このほかノミネートされた裁判例は次の通りです。



・金沢市庁舎前広場の使用不許可を合憲とした判決(2月21日最高裁三小判決)・ベトナム人技能実習生の死体遺棄事件での逆転無罪判決(3月24日最高裁二小)・特許権の属地主義に関する「ドワンゴ対FC2」事件判決(5月26日知財高裁大合議)・原告128人全員の水俣病罹患を認定し、国に賠償を命じた判決(9月27日大阪地裁)・映画『宮本から君へ』への助成金不交付を取り消した判決(11月17日最高裁二小)