2023年12月27日 10:41 弁護士ドットコム
多様な背景を持つ法曹が必要だとして、司法試験制度が変わって15年超。当初74校あったロースクールは半減する一方、ローを経由しない予備試験が人気になるなど、当初の目的が揺らいでいます。
【関連記事:コンビニの日本人店員が「外国人の名札」を着けたら…客の態度に劇的変化】
弁護士ドットコムは今年10月、新制度が始まった60期以降の弁護士500人にアンケートを実施しました。
旧制度よりも合格者数は増えたものの、弁護士になるためには依然として猛勉強が必要です。一方、メディアなどでは弁護士が多すぎるという意見も散見されます。多大な時間とお金、苦労をかけてなった弁護士という仕事を、弁護士たちはどのように考えているのでしょうか。
※パーセンテージは小数点第二位を四捨五入しているため、合計して100にならないことがあります
※アンケートの概要は雑誌『弁護士ドットコムタイムズ69号』(2023年12月)にも掲載しています
アンケートでは、弁護士500人に法曹を目指したきっかけを複数回答で尋ねています。
もっとも多かったのは「自由に仕事をできる」(56.2%)で半数以上が選びました。以下、「人を助ける仕事に就きたい」(43.4%)、「社会的地位の高い仕事」(35.8%)、「経済的に豊かになれる」(31.2%)などと続きます。
自由に仕事をできると思ったから:56.2%
人を助ける仕事に就きたいと思ったから:43.4%
社会的地位の高い仕事だと思ったから:35.8%
経済的に豊かになれると思ったから:31.2%
社会貢献したいと思ったから:25.6%
安定的に収入を得られると思ったから:18.6%
法曹をテーマにしたエンタメ作品を通じて興味をもったから:16.4%
法律トラブルなどで法曹関係者の対応に触れたから:9.6%
親や親戚などが法曹関係者にいたから:7.6%
その他:6.6%
しかし、弁護士になるには難しい試験に合格しなくてはなりませんし、そのためにはお金がかかります。
回答した500人のうち、475人はロースクールに通っていますし、自由回答だったため正確な数字は分かりませんが、少なくとも271人は司法試験予備校に通っていました。
また、司法修習中の修習給付金がなくなったり(新65~70期:いわゆる「谷間世代」)、減額になったり(71期~)と、司法試験に合格したあともよりお金がかかるようになりました。
奨学金や司法修習時代の貸与金も含めた「借入金」について任意で尋ねたところ、少なくとも48.6%の弁護士が「ある」と回答しています。平均額は約420万円、最頻値と中央値はともに300万円でした。1000万円以上も18人(3.6%)いました。
この点については、法務省も2016年に約7000人の法曹三者を調査しています。報告書によると、大学・ロー在学中に51.2%の法曹三者が貸与型奨学金等を利用しており、利用者の平均額は364万円でした。また、調査対象となった「谷間世代」の73.9%が修習資金の貸与を受けており、利用者の平均額は297万円だったといいます。
今回の弁護士ドットコム調査では谷間世代前後も含まれていることを考えると、過去の公的調査と大きく乖離した数字ではなさそうです。
では、多額の費用と時間と労力をかけてなった弁護士という仕事には満足しているのでしょうか。人生をやり直せるなら、また弁護士をやりたいかを500人に尋ねたところ、結果は次の通りでした。
なりたい:38.4%
わからない :46.8%
なりたくない:14.8%
半数近くの弁護士が選んだのは「わからない」。「自由だけど責任が重い」「高収入だがストレスフル」など、二律背反で決めかねるようです。また、「医者もやってみたい」など、他の職業を経験したい気持ちもあるという回答が目立つあたりは、さすが文系最難関資格と言えるかもしれません。
「なりたい」(38.4%)は「なりたくない」(14.8%)の約2.5倍。「自由度が高い」「大変だがやりがいがある」といった回答が多かったです。
「なりたくない」の理由は「ストレス」が圧倒的多数でした。なるためにかかるコストが大きいだけに、ストレス耐性なども含めて、本当に弁護士の仕事が向いているのか、慎重に検討するシステムが必要なのかもしれません。
なお、新制度以降、メディアでは弁護士過剰や収入減が強調されがちですが、収入への直接的な不満は少数でした。
以下に代表的なコメントをまとめました。
▼わからない
「弁護士以外の仕事をしたことがないので他の仕事をしてみたい気持ちもある」
「経済的には満足しているが、紛争に関わる仕事であり、精神的にきつい面がある」
「楽しいが医師にもなりたい」
「弁護士はしんどいしなりたくないが、自分には一番向いている仕事だと思う」
▼またなりたい
「新しいことを知れるので楽しいし、自分に裁量が認められていて、依頼者からも直接感謝の言葉をいただけて、やりがいがとてもある」
「自分で仕事をコントロールできることはサラリーマンとは違ってストレスがない」
「妊娠出産育児があってもゆるゆる稼ぐことができ時間単価が高い」
▼もうなりたくない
「誰かの味方になるということは誰かの敵になることだと弁護士になってから初めて知った。相手方本人からの罵詈雑言に耐えられない」
「事業を起こすほうがよほど自由度が高く、収入も高い」
「経営不安のない仕事をしてみたい」
任意で何歳まで弁護士を続けたいかも聞いてみました。回答者は322人。どうやら70歳を一つの目安と考えている弁護士が多いようです。
・平均値:70.4歳
・最頻値:70歳
・中央値:70歳
・最低値:34歳
・最高値:120歳
年代別にみると、回答者の6割以上が少なくとも70歳までは続けたいと答えていることがわかります。「生涯現役」とも言える100歳以上も5%超いました。
企業では60歳で定年を迎え、70歳になる前にリタイアするのが一般的です。将来的に労働年数は徐々に延びていくと見られますが、定年を迎えれば難しい仕事は減るでしょうし、収入の減少は避けられません。
理由はさまざまあるかと思いますが、定年がないという職業の特徴を生かして、人より長く現役でいたいと考える傾向がやや強いとまとめられそうです。
・30代:0.6%(2人)
・40代:3.1%(10人)
・50代:5.9%(19人)
・60代:28.9%(93人)
・70代:38.9%(125人)
・80代:14.9%(48人)
・90代:1.6%(5人)
・100歳:5.9%(19人)
・120歳:0.3%(1人)