2023年12月25日 11:21 弁護士ドットコム
心霊スポットとして有名な廃墟ホテルで、肝試しに訪れた20代の男女4人に対して「不法侵入になる」などと迫り、金を脅し取ったとして、心霊系YouTuberの男女3人が恐喝などの疑いで逮捕された。
【関連記事:コンビニの日本人店員が「外国人の名札」を着けたら…客の態度に劇的変化】
報道によると、3人は「不法侵入になる」「民事にするか刑事にするか選んで下さい」「示談なら、1人30万円払って下さい」として、被害者たちから合わせて120万円を脅し取った疑いが持たれている。
逮捕された3人のうち1人は容疑を認め、残り2人は否認しているという。一方で、他にも同じような"被害"を訴えている人もいるようだ。今回の事件について、刑事事件にくわしい澤井康生弁護士に聞いた。
実は、今回の事件の被害者たちが、廃墟ホテルに肝試し目的で立ち入っていることから、違法な不法侵入となるのかが問題となります。
不法侵入は、建造物侵入罪(刑法130条)のことであり、ざっくり言うと、他人が管理する建造物に正当な理由なく管理権者の意思に反して立ち入ると成立します。
たとえ廃墟ホテルであっても、施錠されていたり、立ち入り禁止の表示があったりすれば、他人が管理する建造物といえ、無断に立ち入る行為は管理権者の意思に反します。また肝試し目的が正当な理由にならないことは言うまでもありません。
したがって、廃墟ホテルに肝試し目的で立ち入る行為は、建造物侵入罪となる可能性があります。
建造物侵入罪に該当しない場合であっても、「人が住んでおらず、且つ、看守していない邸宅、建造物又は船舶の内に正当な理由がなくひそんでいた」行為として、軽犯罪法1条1号違反に問われる可能性もあります。
また、仮に被害者らの行為が不法侵入になるとして、「警察に通報するぞ」と言って脅す行為は脅迫になるのかが問題となります。
脅迫罪は、相手またはその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対し害を加える旨を告知することにより成立します(刑法222条)。
相手の違法行為や不正行為に対して「法的措置を取るぞ」とか「告発するぞ」と告知する行為について、正当な権利行使といえる場合には、脅迫罪は成立しませんが、真実の追究ではなく、単に畏怖させることが目的であれば、脅迫罪は成立するとされています(大判大正3年12月1日判決)。
今回の事件の場合、心霊系YouTuberを含む逮捕された3人は、警察に通報する意思はなく、単に畏怖させて金を取るのが目的だったと思われますので、判例の基準に従えば、脅迫罪が成立します。
そのうえで、犯人らは脅迫してお金を脅し取っていることから、最終的に恐喝罪(刑法249条)が成立することになります。
以上より、肝試し目的で廃墟に立ち入る行為は、建造物侵入罪や軽犯罪法違反に問われる可能性があり、悪質なYouTuberに漬け込まれるリスクもあるので、気を付けたほうがよいでしょう。
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/