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「カラシ入ってない」「死ね」カスハラで自死した551蓬莱社員の労災認定訴訟、代理人が語る「意義」

2023年12月24日 08:41  弁護士ドットコム

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豚まんで有名な大阪の「551蓬莱(ほうらい)」で、顧客からの電話対応をしていた男性社員(26)がうつ病になり、自死したのは、客からの暴言、不当要求などのカスタマーハラスメント(カスハラ)を受けたことなどが原因として、労災認定を求める裁判が大阪地裁で始まった。


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カスハラを全面に出して労災認定を求めた裁判は少なく、裁判所の判断が注目される。原告代理人の生越(おごし)照幸弁護士は「クレーム対応の最前線で働いていた方の労災訴訟は、顧客対応の現場で働く人たちにとって意義のある訴訟だと考えています」と話す。生越弁護士に主張を聞いた。(ライター・国分瑠衣子)





●「心理的負荷は強くなかった」労基署は不支給決定

訴状によると、男性は大学卒業後の2015年4月、551蓬莱に入社し、9月に通信販売の電話受付部門に配属された。豚まんなどの通販の電話受け付け以外にも、店の開店時間や場所の問い合わせのほか、クレームの電話も受けていた。クレームの中には「死ね」、「殺す」などの脅迫する言葉、理不尽な要求のカスハラも含まれていた。



男性は2017年10月、うつ病と診断され休職し、2018年6月に自死した。男性の母親が、心理的負荷による精神障害の労災認定を申請したが、大阪中央労働基準監督署は2021年3月に、「心理的負荷は強くなかった」として労災と認めず、遺族補償金を不支給と決定した。



今回の裁判は、この不支給決定を覆し、労災認定を求めるために起こしたものだ。



●うつ病発症の時期とカスハラの程度が論点に 

精神障害の労災が認められるためには、発病前のおおむね6カ月の間に「業務による強い心理的負荷があった」と認定される必要がある。



心理的負荷は長時間労働や、ハラスメントなど具体的な出来事ごとに「強」「中」「弱」に分類され、「強」と判断された場合のみ労災と認定される。ハラスメントによるストレスは「中」でも、長時間労働など複数の出来事を組み合わせて「強」になるケースもある。



今回のケースでは、労基署は男性がうつ病を発症した時期を、原告が主張する2016年4月ごろと認めず、医療機関で診断を受けた2017年10月とし、発病の原因となる出来事は認められなかったとした。



だが、生越弁護士は「医療機関を受診した時のカルテ問診票やストレスチェック、遺族の証言などから考えると、2016年4月ごろにうつ病を発症し、自死する時まで続いていたと言えます」と主張する。男性はX(旧ツイッター)で入社した2015年から業務への苦痛と自身の体調の悪化を書いていた。



●「天下の551なんだから何とかしてくれ」指定日変更でごねる

訴状によると、男性は客から暴言や理不尽な要求などのカスハラを受けている。クレーム報告書や業務日報に記載されているだけで56件のクレームに対応していた。クレームには次のようなものがあった。(筆者が一部要約)



・男性が手順に沿って案内したにもかかわらず、客が激怒し「回りくどい説明しやがって、ボケ。金額いくらじゃ。上の者出せ」とまくしたてる口調で、罵倒された。・配達後に「カラシが入っていない」「箱が潰れている」「テープがはがれている」などのクレームが入り、何回も再出荷になっているクレーマーへの対応が業務日報に書かれている。・オンラインの配送指定日の苦情が入るが、客側の入力ミスであり、男性がその旨を説明したにもかかわらず、客はミスはしていないと主張。「天下の551なんだから上の人と相談して何とかしてくれ」と指定日を変更するようごねる。男性が上長を経由し、担当者に確認をとるなど対応を迫られた。・送り先の住所が未定の問い合わせに、対応が難しいと伝えると「じゃあ、もう購入するなって言いたいんですか」と怒られ、一方的に電話を切られた。



「男性は顧客から長時間に及ぶ執拗なクレームや、罵倒や脅迫といった人格を否定するような言動を繰り返し受けていて、心理的負荷は『強』にあたります」(生越弁護士)



●ナンバーディスプレイ、録音機能なし 「会社側の支援なく、心理的負荷は大きかった」

会社側はカスハラ対策を講じていたのか。訴状によると、551蓬莱の通信販売受付の電話機には、店長や工場などにつなぐための内線機能がなく、男性が最初から最後まで対応しなければならなかった。また、電話にはかかってきた電話番号を表示するナンバーディスプレイや、録音機能もついていなかった。



生越弁護士は「番号が表示されないため、悪質クレーマーからの電話でも出るまで分からず、男性の不安を増大させることになりました。どれほど暴言をはかれても、録音もできず男性は身を守る術がありませんでした。会社側の支援もなく、心理的負荷は大きかった」と指摘する。



今回の訴訟は労災認定を求める裁判なので、直接関係はないが、カスハラに関連する訴訟を提起することで、企業に対し、従業員を守るために対策を講じなければならないという労務管理を促す意義もある。



●自死の男性、Xに「死んで楽になりたい」

男性は自死する9カ月前にXに、こう書いている。



「俺は自分のミスでもなんでもない顧客の苦情に謝り倒して、何度も罵倒され、何度も人格否定され、何度も殺害予告を受けた。それが、ただ怒りに身を任せたその場だけの言葉だとしても、受け手としては相当なストレスになってよ。ここ数年『死んで楽になりたい』って毎日思ってるよ」



生越弁護士は15年ほど前から自死遺族の支援に取り組む。学校法人森友学園の国有地売却を巡る財務省の公文書改ざん問題で自死した赤木俊夫さんの遺族の代理人を務める。「カスハラの相談は増えています。訴訟を通し、カスハラに悩む人たちは労災申請できること、企業はカスハラ対策を講じる必要があることを伝えたいです」



551蓬莱は「今回の訴訟で国から補助参加の要望があったが、通知が届いていないため詳しいお話は差し控えさせていただきます」と話している。